もう戻れないB08
もし仮に、ビーツがあの戦争で勝ったとして。
俺を処刑したくてたまらないだろうに、処刑せずに温存するのだろうか?
全戦力をもってあの戦いに挑み、ビーツなりの第三の手段とやらを講じ勝利し、英雄となるつもりか。
俺とあいつの違いといえば、そのあとだ。世界をどう動かすかで決まる。
モーリスの伝言をすべて聞いて、支部長室を出る。通路を早足で進む。途中で清掃員とすれ違った。普段ならもっと人員がいるはずだが、戦争が終わった直後だ。まだ海にいる人員がいたり、犠牲となったり、家族に顔を見せに行ったりと、それぞれの都合がある。確かにこれでは輸送手段があったとしても、ドイツ支部の自衛がままならなくなるのは必須か。
ロビーで待っていた送迎してくれる兵を発見し、自動車に乗るとシドウから通信が入った。
『エース。今どこにいる?』
「ドイツ支部を出るところです。送迎車に乗ります」
『わかった。誰よりも現状を知っているだろう。グラディオスに搭乗し次第ミーティングルームに来てくれ。エースの説明を聞き次第、クスドが作戦を練る。お前が搭乗したらグラディオスは発進する予定だ。艦の状況は万全ではあるが、それはあくまで飛べるという意味だ。戦力は俺たちのガリウスのみとアーレス砲雷長が言っていた』
「了解」
兄弟艦のアリスランドと全力の潰し合いをしたあとだ。やはり温存できる力はガリウスだけで、グラディオスの武装は半減。
それを加味した上でクスドはどんな作戦を立てる?
シドウとのやり取りを終えて、ひと息つく。緊張しっ放しだった。移動中に脱力するしかない。勝手知ったる仲間たちの目の前ではないが、これが俺のやり方だ。
「エース少尉。ドイツ支部を………頼みます」
「全力を尽くします」
運転手が述べる。自分たちはその戦いに参加できない悔しさと、傷付くことはないという安心。相反するふたつの感情が自分のなかで葛藤を生む。そんな声音をしていた。
できれば自分たちの居場所は自分たちで守りたいものな。誰かに託すなど情けない。それはわかる。
ケイスマンの意志とハルモニを入れ換えて、グラディオスに搭乗。ハルモニが俺の乗艦をブリッジに伝えたのだろう。数秒後にグラディオスのレイライトリアクターが臨界まで回転するのがわかった。
「っあ………」
レイライトリアクターの回転数が低速から高速まで移行する途中、高周波が俺のところまで届く。これが脳内チップに影響するのだ。頭痛を噛み殺して耐える。ミーティングルームまで足を運んだ。
「遅くなりました」
すでにパイロット全員揃っていたミーティングルーム。他にも人員がいて、俺を待っていた。
それにしても俺を見たパイロットたちの、ほぼ大半の視線が痛い。
怒りや悲しみといった視線だ。俺が早くいなくなるかもしれないことを、伏せていたからだ。こりゃ今夜は酷くなりそうだ。
「いや、構わない。早速だがエース。現状報告を」
「はい」
脳内チップを使って、現況をメインモニターに出す。
ドルテのところで預かったデータを展開すると、作戦前ゆえ私情を消した全員が息を呑む。
「現在、バーテン・ビュルテンベルク跡地南方、国境付近で地盤沈下が発生。クレーター状に変化。アンノウンのEタイプが北上し、そのクレーターに接近しています。アンノウンがクレーターに接触するのは今から約3時間後。我々は双方が衝突し、消耗したあとで強襲をかけるのが良策かと思われるのですが………どうかな? クスド」
「異存ありません。僕もその作戦を組み立てていたところでした」
そうだろうとも。
アンノウンならともかくイレギュラー戦だ。
アンノウン戦ならば、人類が脈々と受け継ぐ経験により戦術を組み立て、対策を練ることができる。
ところがイレギュラー戦となると話が違う。
出現したのは今年だ。そして目撃例が少数。俺だってこれで4度目の戦いとなる。
人類はアンノウンへの対策のため軍備増強とガリウスの開発に着手した。それが偶然イレギュラーにも通用しただけ。それもイレギュラーに対抗できる戦力といえば、限られたガリウスとパイロットのみ。
なにもかも偶然だ。偶然の産物。確率としては本当に低い。モンスターを捕獲し育成し戦わせるゲームにおいて、色違いのモンスターを10連続で出現させるような、気が遠くなるくらいの確率で、俺たちはイレギュラーと戦える術を持った。
ただ、学習能力が比類なく高いイレギュラーが、固体同士でなんらかの通信手段をネットワーク状のように共有されていた場合、敗因を即座に突き止めて改善する可能性も否めない。
勝てるのだろうか。今回も。
「エー先輩がドルテ支部長から貸与された状況、例えばクレーターの規模やアンノウンの数。これを過去の戦闘記録と比較した結果、出現するイレギュラーは1体のみと予想できます。ただ、あのイレギュラーですからね。種族名ともなったその名のとおり、イレギュラーな事態になってもおかしくありません」
「例えば、なにが予想できる?」
淡々と述べるクスドに、シドウが問う。
「例えば………新たなクレーターが出現し、イレギュラーが追加増援するという可能性が」
「洒落にならんな」
「ですが、その覚悟もしなければなりません。今回は海ではなく陸地です。ハーモンとコウも存分に戦えます。ふたりに追加戦力の出現があった場合のカバーをさせるのがいいでしょう。………それにしても、僕たちは勘違いしていたのかもしれませんね」
「なにがだ?」
「前回のオペレーション・スリースターの時も思ったのですが、イレギュラーは宇宙からではなく、地中から現れた。まるで太古の生命体が活性化したかのように」
クスドの発言に、今度は俺がハッとさせられる。
イレギュラーは原作には登場しない敵だ。
けど俺は、クスドが言うように勝手に宇宙から来たと勘違いしていた。出現したのがクレーターだったので、隕石のなかにいたのだ程度でしか思っていなかった。とんだ固定概念だ。
しかし勘違いを気付かせる要素は前回にあったのだ。イレギュラーは地中、いや海底から現れた。アンノウン同様、熱をエネルギーにした生命体であることは間違いない。海水に落ちれば活動を停止する。オペレーション・スリースターでは海底火山の噴火に伴って出現したのもあり、それで冷却を免れた。
地中だったのだ。クレーター化現象はなんらかの理由がある。カモフラージュだけではない。
まんまと踊らされていたんだな。俺は。
「ともかく、遅参して双方の戦力が削られるのを待つことには違いない。………とはいえ、結果など見えているのだがな」
そのとおりだ。シドウの言葉に首肯する。
イレギュラーに対してアンノウンはEタイプと艦載する複数の小型。敵にもならない。
「ではミーティングを終了する。総員、戦闘開始30分前にはパイロットスーツ着用ののち、機体で出撃を待て。以上だ。解散」
2時間半の自由時間。それは戦う兵士のために設けられたための休憩時間にも等しい。
俺はできるならクスドとともに分析に参加したかったのだけど、動こうとする前に3人に前方を固められ、無言の圧力をかけられ、壁際に後退させられる。
それでいて周囲は「やっぱりね」といった感じで、止めもしてくれない。
「エー先輩………私たちに、なにか言うことあるよね?」
ヒナが鋭い眼光を飛ばす。逃げられるものではない。
観念するしかないってことだ。
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