もう戻れないB07
敵の出現とあれば、応戦しないわけにはいかない。
戦争から生き延び、命を張って国防に徹した兵士たちが家族に再会した矢先の出撃はドルテも気が重いだろうが、それが仕事だ。すぐに意識を切り替える。
ドルテはデスクの表面に触れると、いくつもの半透明のモニターを浮かべた。すべての情報がここに集まってくる仕組みだ。
コーネリアと俺、モーリスもデスクの周囲に集まる。
「Eタイプですか。敵は母艦を有し、長距離を移動してきた。艦載するは質か、あるいは量か」
「ほう。貴様、流石はアリスランドのクルーなだけあって、肝が据わっているではないか。Eタイプを目にすれば、私の隊とて固唾を呑むというのに眉ひとつとして動かさぬか」
両腕を拘束されていながらも、モーリスが冷静に述べるとコーネリアは感心する。
「Eタイプなど、所詮は愚鈍なだけの良い的です。分厚い装甲が邪魔ですが、除去さえできれば殲滅は容易い………そうでしょう? エース少尉」
「ええ。今さら、といった感じの敵ですね。それよか艦載するアンノウンより、連中の狙いの方がもっと厄介です。ドルテ支部長。陸地の方を拡大化させることはできますか?」
「あ、ああ。しかし、なぜ陸地を?」
「早く。本当に危険な敵がいるのは空じゃない。陸地です!」
不敬にも怒鳴ってしまうと、気圧されたドルテは慌ててモニターを操作する。
デスクの上に浮かぶ巨大なドイツの地図の上に、さらに小さな拡大図が浮上。それらは俺たちが操作してもいいとのことで、急ぎ手を伸ばして報告に現れたドイツ支部の兵士が言っていた地域を拡大化する。
「………いや、ここじゃないのか?」
半透明化のマップはリアルタイムで更新され続ける優れものだが、どうやらポイントに誤差があったらしい。もう手で操作するのも間に合わない。そこでドルテに許可を取り脳内チップにてアクセス。人間の手では決して行うことのできない作業を数秒で終わらせる。
たった数秒で情報を統制し、アンノウンの出現してから進行する経路、予想される戦闘領域を計算。さらに陥没したという陸地を特定する。
「す、すごいのだね。脳内チップというのは。私が数分をかけて行う作業を2秒で終わらせてしまうとは」
ドルテは脳内チップにおける効率のいい作業を目の当たりにするのは初めてだったらしい。コーネリアも興味深そうにしていた。
「ドイツの南側で地盤沈下。クレーター状になってしまっている。間違いない。イレギュラーです」
「アメリカ支部と協力して行った作戦………オペレーション・スリースターで敵対したという第三勢力か?」
「はい。イレギュラーは人類はもちろん、アンノウンとも敵対関係にあるらしく、双方とも会敵すれば殺し合いを始めます。しかし戦力差は歴然としています。アンノウンのEタイプが3体揃っていたとしても、イレギュラーは単体でそれを殺してしまう」
「Eタイプ3体を単体で殺す………にわかには信じられんことだ。だが、お前の言うことならば真実なのだろう。それで、イレギュラーには勝てるのか?」
コーネリアはイレギュラーを知らない。宇宙には現れていない。地球にしかいない新たな敵対勢力だ。猛将であっても警戒し、消極的な意見になってしまうのは仕方がない。
そしてコーネリアは愚かではない。兵を無駄に殺すことはない有能な将なのだ。それだけでも好感度が増す。
「本来なら軽々しく断言したくはないのですが、ここはあえて言わせていただきます。勝ちます。なにがあっても」
「………そうか。だが、厳しいな」
大きなマップにプロットしたドイツの地図を見下ろすドルテは、苦々しく呻く。
「距離があり過ぎる。Eタイプは現在、やっとドイツの国土に入ったばかりだ。クレーターに向けて直進している。会敵予想時刻は今より3時間後。ドイツ支部にある残存兵力をかき集めたとしても、輸送できて少数」
「そして我が隊は未だ大西洋だ。………またグラディオスに頼ることになるだろう」
「それは最初からわかっていたことです。クランド艦長も了解されるでしょう」
アリスランドが航行不能な今、グラディオスは唯一の飛翔能力を有した艦となった。
ドイツ支部に降り立ってからまだ1時間。完全な整備ができているわけではないが、2日間の猶予があった。アリスランドとの激戦で損傷してしまったところも修復が完了しているがゆえ、再び浮上してドイツ支部に飛翔して帰還することができた。
「なにより、ドイツ支部やコーネリア少将に助けられてばかりです。恩返しの機会を、クランド艦長が見逃すはずがない。幸い、こちらには全戦力が揃っています。私も出ます。イレギュラーの具体は知れませんが、きっと討ちます」
俺もドルテとコーネリアには恩があるからな。個人的にも、その借りを返せるなら異存はない。
「………済まない。では、私から正式にグラディオスにオーダーする。クランドに話を通す。補給は惜しまない。最短で行おう。エース少尉。モーリスとの会談中ではあるが緊急事態だ。すぐにグラディオスに帰投してくれて構わない」
「はい。では、失礼します」
「武運を祈る」
ドルテとコーネリアに敬礼すると、両名は背筋を伸ばして返してくれた。
踵を返して支部長室を出ようとした、その時。
「待ってくださいエース少尉!」
「会談は、また今度にしましょう。大丈夫です。必ず戻ってきます」
「そのことではありません! 1分ください。ビーツ艦長から言伝を預かっております」
「え?」
ビーツは面会では特になにも言わなかった。投獄されてからもモーリスがビーツに接触できたとも思えない。
つまりそれは、敗北が決する前、あるいはそれよりもっと前のこととなる。
どういうことだ? ビーツはこうなることを予見していた? あいつが? プライドの塊みたいな、あいつが?
「1分だけです」
「ありがとうございます」
足を止めて話を聞く。
ろくでもない恨み言なら、予想し得ないイレギュラー戦が終わり次第、再び面会に赴いて嫌味のオンパレードをしてやるつもりだった。
ところが、モーリスが伝えた1分の内容は、あまりにも濃すぎた。
モーリスには秘匿権はない。ドルテとコーネリアも聞くことになるが、多分彼らにとっては理解できないものだろう。
「第25話における敵総数は原作の6倍。超望遠カメラで宙域を観測。ワープする可能性が大。原作どおりの戦闘方法では、まったく通用しない。………どういう、ことですか?」
それを伝えるモーリスも理解ができていない。第25話なんて言われても、わかるはずがないよな。
そして、それを裏付ける情報を俺は実は持っていた。
「グラディオスとアリスランドだけでは勝てるはずがない。第3のなにかを講じることが肝要。お前にそれができるか?」
「………なるほど」
俺は試されているのか。結局、ビーツと同じ考えをしていたわけだな。
俺が焦るように、あいつも焦っていたわけだ。
勝たなければ意味がない。ゆえに勝ちに行く。
その方法を模索しなければ、俺たちに未来など到底訪れはしないのだから。
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