もう戻れないB06
感動の対面を果たしたモーリス。ただし、出せるのは音質のみだ。リヴァイヴと神経接続し、ケイスマンの意志がいるレイライトリアクターの深層に意識を潜らせなければ、その姿を認知することはできない。
「エース少尉………これは、いったい………なぜ父の声が?」
「ケイスマン教授は以前から人工知能の開発に着手されていたようで、これはケイスマン教授の知能をそのままインプットしたものです。人間としての感情は無いとは言っていますけど、最近学習を続けた結果、俺を心配する素振りをしたりと、成長していますよ」
「そんなことが………いや、ならば都合がいい。エース少尉。父が遺したその人工知能と対話させてください。もちろん、皆さんが同席していただいても構いません」
再びコーネリアを見た。なにも言わない。「やらせてみろ」ということだ。
原作ではモーリスはアラスカ支部の工場に勤務したまま、それ以降登場することはなかった。ケイスマンの意志もプロトタイプガリウスGのフレームを纏ったままサフラビオロスと運命を共にした。
原作では決して再会することのなかった親子の時間だ。例え一方が肉体を持たない人工知能だったとしても。ケイスマンの意志と精神をそのままコピーしたそれと対面すれば、モーリスも少しは満足するだろうか。
「どうぞ」
腕の端末をそのまま譲渡するわけにもいかない。俺は腕を差し伸べた。
「では………あなたは、私を認識できますか?」
『認識を可能にしている。きみは私を作った私の息子であると』
「モーリスと呼んでください。私はあなたを………その、父さんと呼ばせていただきます」
『私はきみの肉親ではないのだが、呼称に制限を設けるようインプットはされていない。モーリス。きみの好きにするといい』
「どうも。ではあなたに質問させていただく。父さん。あなたが目覚めたのは、いや周囲の認識を可能にしたのがいつなのかは知らない。しかし多くを見てきたはずだ。私は機械工学を学び、ガリウスの設計の道を選んだが、エングレルファクトリー社ではあなたの名前を聞くことが多かった。そしてアリスランドに配属され、エングレルファクトリー社では異端として扱われた私が渾身の力で作り上げた第八世代ガリウスHについて、忌憚ない評価を聞かせていただきたい」
『ガリウスHか。………酷評となるが、覚悟はいいかね?』
「メカニックをしていると、酷評なんていつものことです。私は私の、欠点となるところが知りたい」
『いいだろう。では───』
ケイスマンの意志は、そりゃあモーリスをボコボコにした。忌憚ない意見、あるいは評価とは言ったけど、これではまるで全面否定だ。モーリスが気の毒になってくる。
しかしモーリスは唯一持ち込むことを許されたペンとメモ帳に、ケイスマンの意志の酷評を一生懸命に記入している。その表情には興奮さえ浮かんでいた。ディスられて喜んでいる? 違う。学ぶことに喜びを覚えている者の目だ。
『───以上が私の見解だ。総合的に言えば、あれはガリウスHなるものの皮を被っただけのガリウスFに等しい。私を作った私が設計したガリウスGは、ガリウスFなど到底寄せ付けないスペックをしている。しかし、総合評価は散々ではあったが、改めて観察すれば、ガリウスGに共通した部分も点在する。それを独力で学んだのだろう。その点においては評価を改めよう。よくひとりであれだけのものを作れたものだ。流石は私を作った私の息子なだけはある』
なんだい。最後にはデレやがって。素直じゃないのは開発者にも似たってか? 感情なんてないって言っておきながら、結局はそういう人間っぽいところが垣間見えるんだよな。
「貴重な意見、感謝します。では次に………」
腕を上げ続けるのも疲れてきた。降ろして楽な姿勢を取る。ドルテ支部長が近くにあったソファを促してくれたので、途中でそこに座った。
モーリスの学習意欲は半端ない。ハングリー精神旺盛だ。
それは別に構わないので、時間が許す限り質疑応答を続けさせる。コーネリアは途中から窓を開け、煙草を吸い出した。もうモーリスが俺に危害を加えないと判断してのことだろう。
けれど、次の質問で俺は硬直させることとなる。
「転生者とやらを、ご存知ですか?」
モーリスは、転生者と言った。
ドルテとコーネリアは首を傾げる。俺はモーリスを一瞥した。顔に出さないように努力しながら。
ケイスマンの意志はなんと答えるだろう。馬鹿正直に『それはエースのことだ』だなんて言うか?
不安が渦巻く。それでもケイスマンの意志は沈黙を貫いた。焦らしてくれやがる。
なんだよ。俺が中断させるとでも思っているのか?
それができれば苦労はしないんだよ。けどここで中断を呼びかけようものなら、それはあまりにも不自然すぎる。ここにはドルテとコーネリアがいる。誰かに変に疑われるのは避けたいんだ。
そんな俺の怨念が届いたのか、あるいは腕に巻くベルトから脈拍を読んだか、やっと沈黙を破ったケイスマンの意志は語る。
『長らく待たせてしまって済まない。あまり縁のないワードのため検索をかけていた。しかし結果は芳しくはない。私は疎いジャンルのようだ。モーリス。後学のため教えてほしい。きみは転生者とやらが、なんだと思う?』
「私はすべてを知るわけではありません。ビーツ艦長に尋ねてみたところ、別世界の住人が、こちらの世界に転生した………という、何分ファンタジー小説のような具体でしたので、半信半疑だったのです」
『旧時代の日本でそのようなジャンルの小説が流行ったと聞く。では質問を変えよう。それをどこで聞いた?』
「イレギュラーなる第三の深紅の敵が、出現すると常に高周波を放つことをご存知ですか? 解析した結果、人間の言語に似た音で、そう叫んでいることがわかったのです」
『ひとりで断定したのか?』
「あとは以前、ビーツ艦長とエース少尉がタッグを組んで挑んだ特務にて、赤いタキオンを模したイレギュラーがそのような言葉を発したと記録に残っています。目にしたものをすべて襲う徹底ぶり。あれは友好的であると示すためのメッセージではありません。転生者は必ず殺すと言っているのだと思います」
『しかしそれは不可解だ。転生者など知らない』
「では、お詳しそうな方をご存知ありませんか?」
『そこにいるエースに聞くがいい』
ちょっとぉぉおおおおお!?
なにナチュラルに裏切ろうとしてんのこいつ。
『ただし、ジャパンで流行したサブカルチャーに詳しそうという意味だ。なにかひとつ、物語でも語ってくれるのではないのかね?』
「お、驚かせないでください。てっきり私は、エース少尉が転生者だとばかり………」
「はは。本気にしないでください。こいつ人工知能のくせに、たまにこうしたユーモアをぶちかますので、俺も驚かされてばかりなんですよ」
驚かせやがって。ケイスマンの意志め。ドルテたちもギョッとしていたじゃないか。危うく本気にされるところだった。
「ともかく、そうしたファンタジーのような話は………失礼します。通信が入ったようです」
せっかく誤魔化しの締めくくりを行おうとしたのに、シーナからの通信に遮られる。
そういえばソータたちに俺の体のことを暴露したのもあいつだ。苛立ちを覚えながら出る。
「なんだよシーナ。こっちはドルテ支部長と───」
『ライラが過剰に反応してる! ヤベェぞエース! これ、前にもあった! イレギュラーが近くにいるかもしれない!』
「………は?」
ゾクリとした。
ここに来てイレギュラー戦だなんて。もう無いと思っていたのに。
その直後、支部長室に部下が駆け込んできた。
「大変です支部長! この支部近隣の地形が変わるほど沈没が発生! ならびアンノウンが出現しました!」
せっかく猶予ができたのにこれだ。
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