もう戻れないB05
「うん。今回、お前に会いたいという者がいてな。見てのとおり拘束しているが、敵対意識はない」
「………アリスランドのクルーですか?」
「まぁな。だが安心するといい。ようやく対面を果たした今、身体検査すら潜り抜け、隠し持ったものでいきなりお前をズドンと撃とうとしようものなら、そっ首を叩き切る」
コーネリアはトンと携帯しているサーベルの柄頭を、指で叩いた。
片手で男の手錠から伸びるワイヤーを握り、もう片方の手でいつでも抜刀できるよう、直立不動でありながら構えが完了している。男はコーネリアの間合いにいた。ひと振りのサーベルで圧倒できる自信があるのだろう。物凄い気概だ。
「ほら、会わせてやったのだ。お前も自己紹介をするといい」
「はい。………初めまして、エース少尉。そして………うん、なんて言えばいいのかな。今回は個人的にあなたに会いに来ました。軍のデータベースを拝見する機会がありましたので、あなたのことも閲覧させていただきました。………エース少尉は、軍属になる前は、サフラビオロスというコロニーにいたとか?」
「ええ、まぁ」
「アスクノーツ学園の2年生で、1年生はパイロット科にいたと?」
「あれ? そんな詳しく書いてあったかな?」
「そこは、申し訳ないのですが私個人で調べさせていただきました。ハッキングは得意な方ですので」
ハッキングが得意。グラディオスならびアリスランドは、連合軍の最新鋭艦だ。ひとりひとりがエリートで、時にはデーテルのような人格に問題がある奴も有能だからという理由で乗せてしまう。ハッキングを可能とするならブリッジに勤務するオペレーターか。それとも整備士か。
………待てよ?
アリスランドのクルーで整備科で、俺のことを知り、特にサフラビオロスのアスクノーツ学園にいたことを特定するほどならば。
なにかがカチリと音を立てて嵌る感覚。
どこかで知った顔。過去に見た原作。そして転生後の今回。いずれにせよ共通する機会はあった。
そう。ケイスマンの遺産のなかにあったフォルダだ。
あれはケイスマンの遺産を開く鍵が封じてあった。隠しフォルダを開くための暗号。その文字があった写真。
「あなたはもしかして………ケイスマン教授の………?」
「はい。初めまして少尉。私はモーリス・テラー。ケイスマン・テラーの息子です」
やっぱりモーリスだ。っていうか、ちょっと外見変わったな。第2クールでカイドウと対面したことがあったのだけど、印象が違うからまったく気付けなかった。
少し暗い感じのイメチェンに、俺はたじろいだあと、意を決する。
まさか、こんなところで、こうでもしなければ会えなかったなんてな。
「エース?」
「え、えっと………なにをされているのですか? 少尉」
俺の突然の奇行に、ドルテとコーネリアは当然、モーリス自身もとても驚いていた。
俺は姿勢を正すと、モーリスに頭を下げたからだ。
「モーリスさん。申し訳ありませんでした」
「えっと………なんのことでしょう?」
「ケイスマン教授のことです。俺が駆けつけた時には、すでに瀕死の重体で、生徒を逃すように俺に託して息絶えました。助けることができなかった………というのは俺の思い上がりです。その時、俺はまだ軍属ではないただの一般の小僧でした。しかし遺族の、息子さんがいるとは先知していました。あなたのために、なにか………遺品になるようなものでも運んでおけばよかった。と後悔しております」
「あ、ああ………そのことですか。構いませんよ。少尉が言うとおり、その時あなたは軍属でもなければ、アンノウンの脅威に晒されて、逃げることが優先される生徒さんのひとりでしょう。私もアンノウンの脅威は知っています。追われながら遺品を探すことなど不可能です。だから、どうか顔を上げてください」
俺は恐る恐る顔を上げる。許すとは言って、いきなりぶん殴られても文句はなかった。
けれどモーリスはそこから一歩も動かず、そして冷淡にも父親の死をまったく気にしていない様子でもあった。
「父と私は、そこまで仲が良かったわけではありません。技術者としては尊敬していますが、僕の母が幼い頃にアンノウンに殺されて、そのことで復讐がすべてとなってしまった父は、私を見なくなった。けど愛してくれていたことは知っています。父の遺産とも呼べるフォルダを受け取ったのでしょう? 私はそれにアクセスするためにハッキング技術を覚えました。そこには私の写真がたくさんあった。………まぁ、父も私も似て不器用だったんです」
不器用か。言われてみればそうかもしれない。
ケイスマンも、ケイスマンの意志も似通ってそんなところがあるからだ。
「それで………モーリスさん。俺になにか御用ですか? ビーツの情状酌量の嘆願をしに来たわけではないでしょう?」
「ええ、まぁ」
そりゃそうだ。俺が面会するならともかく、捕虜となっているアリスランドのクルーが、殺し合った敵と会うにはそれなりの理由がある。そうでなければコーネリアが許すはずがない。
「エース少尉にお願いがあります。私をグラディオスに乗せて………いえ、リヴァイヴを見せていただきたいのです」
「………ふむ」
そう来たか。
普通ならそんな嘆願は通らない。
でも事前に質問や嘆願を聞かされていたコーネリアは発言の機会を与えた。
コーネリアを見る。うんともすんとも言わない。すべて俺に任せるという意味か。
「なぜ?」
「リヴァイヴはタキオンがベースとなっていますね?」
「ええ」
「ビーツ艦長は以前言っていました。ガリウスGには試作段階のプロトタイプがいると。しかし父の性格からすれば、それはただのプロトタイプではない。必ずなにかがある。そしてそれは実際にあった。プロトタイプという偽装を剥がせば真実が見える。例えばレイライトリアクター。あなたが手にしたそれを遠目でしか見たことがありませんが、やはりどのレイライトリアクターとも共通していない。であれば、あるはずです。そこに秘められた、父が遺した本当の遺産が。ブラックボックスのなかに秘められているかもしれません。私なら、それを解除することが───」
「あー………待って。待ってくださいモーリスさん。そのブラックボックス? それ………もう開けたかもしれません」
「えっ………?」
仲が良くないとか言っておいてこれだ。不器用なのは父親譲りだな。ケイスマンは言葉に出さないがモーリスを息子として愛し、モーリスもまたケイスマンを尊敬し、なにより親として愛していたのだ。
思わず笑いそうになりながらも、腕の端末を起動する。
「コーネリア少将。ドルテ支部長。ここで見たことは他言無用で願います。まだグラディオスには言ってないんですよ。少し厄介で、デリケートな問題でしてね。でもモーリスさんに見せるならそれもクリアされるでしょう。………話は聞いていたな? 息子だろ。なにか言ってあげたらどうだ?」
『その青年は、私を作った私の息子。であれば間接的に血縁があることは認めるが、私の言葉で満足するかどうかは不明だ』
「とう………さん?」
腕の端末からケイスマンの意志が声を発する。この時だけはハルモニを引っ込めさせ、記録に残さないよう操作する。
ケイスマンの意志の声を聞いたモーリスは亡き父の声を覚えているのだろう。震えながら涙を浮かべた。
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