もう戻れないB03
グラディオスの重鎮ら、運営委員会とも呼べるトップが揃う会議にて、やはり本部の意向無しでは動くことはできないという結論に至る。ともあれ、伝令があればすぐにドイツ支部を発たねばならない。グラディオスは海域から離れ、すでにドイツ支部に戻っていた。海上ではどうしても見ることができない部分がある。揺れない陸地も恋しく、アリスランドとビーツはコーネリアに任せた。
それは問題ない。原作でもそうだった。いや原作は逃亡した末に追ってきたアリスランドを返り討ちにして因縁を終わらせたのだった。
アリスランドを無力化して移行、グラディオスは曳船しながらドイツ支部に立ちより、修理を行う。アリスランドの艦長をしていたテンプスはそこで降ろされ、連合軍の新体制の下、新たな編成をすることとなるので指示待ちの状態。
そこに暴走したライラが襲い掛かってくるのだ。海を超えて、イギリスやフランスを蹂躙しながらもドイツに進撃。人間を狙う。
それがライラショックの全貌。アリスランドはクルー全体が解体され、ろくな整備もされていないので間に合わず、グラディオスがドイツ支部防衛のために単身で出撃する。
だが、シーナの言うとおり、今回はライラショックは無い。
本当にいいことだ。昨日や今日、ライラを見かけたが屈託のない笑顔を浮かべていた。もう敵対する心配はない。
戦いをひとつスキップしたことで、猶予が生まれるのだが、次の戦いはすぐに行われ………るかもしれないし、そうでないかもしれない。
第23話で牙を剥いたのは、もうグラディオスでは忘れかけている存在、元副艦長のデーテルだ。反逆者となり、アリスランドを奪ってグラディオスを追う。取り調べ中だったアリスランドのクルーを解放し艦に乗せ、クランドに自分に従うよう呼びかける。デーテルも色々溜め込んでいたから爆発してしまったのだ。
そんなデーテルの手駒となったのが、ユリン。
グラディオスのみならず、ライラを手にかけてしまったことで心が壊れかけたソータに嫌気がさして裏切り、グラディオスを鎮めようとしたところに出撃したアイリ。ユリンとアイリは死闘を繰り広げ、なんとユリンの実力に追いついたアイリが撃墜して勝利する。機体ごと海に落ちたユリンの消息は知れず。
つまり次の次の戦いもスキップされたも同然だ。
デーテルはドイツ支部で降ろした。グラディオスのなかでもクランドや俺を恨んでいそうだが、仮に原作同様にアリスランドを奪い、取り調べ中のクルーを解放して半ば強引に乗せたとしよう。
フルボッコは確定だ。
こちらには裏切らなかったユリンがいる。なんならパイロットだって全員揃っている。あんな半壊同然のアリスランドなどを接収したとしても、長続きする戦いになるとは思えないし、ビーツに忠誠を誓っているクルーがデーテルの指示など聞くとは思えない。
残すところは最終決戦。
それまでに俺ができることと言えば───
「エース? なんだ、眠いのか? なら休んでいても構わん。半休だったところを無理矢理会議に出てしまったのだ。なんなら今日は全休としてもいい」
「そうもいきませんよ。副隊長になったんだ。責任くらい感じてますって」
パイロット、機体の運営についてシドウと話し合い、丁度休憩となった時に目を閉じると、シドウが苦笑を浮かべて尋ねる。
眠いことには眠いのだけど、惰眠を貪れる時ではない。
俺は言葉にしたとおり、責任のある行動をしなければならないのだ。
「………やっぱりか」
「なんだ?」
「あ、いえ。………シミュレーションの結果です」
つい言葉にしてしまうと、コーヒーを淹れていたシドウが振り返る。
不審がられるのはいつものことだ。それらしい答えで誤魔化したとしても。ならいっそのこと、本当にやっていたことを述べてしまえばいい。もちろん結果は伏せたり誤魔化したりするが。
「あまり気を張り詰めるな。消耗してばかりのお前が、いきなり本調子になれるとは思えんし、そうしてほしくはない。お前に倒れてほしくないんだ」
「わかってます。程々にしておきますって。今のは………トーマスからですよ。入金の確認が取れたって」
「そうか。ならいいのだが」
俺はトーマスとの約束を忘れてなどいない。
もちろん、今の通信はシミュレーションも兼ねていたが、その傍らでトーマス通信していたのは事実だった。入金の確認などではないが。
帰還した翌日、つまり昨日のこと。
俺はビーツとの面会の申請をするとクランドに報告した。艦長の認知も無しに勝手な行動はできない。
クランドが了承したあと、俺は俺からの口から述べるにはあまりも心苦しかったのだが、ビジネスとしては仕方ないので、とある請求書をクランド宛てに提出した。
それこそ目玉が飛び出るかと思うくらいの桁で、クランドは目を丸くして請求書と俺を見比べた。
それは俺がトーマスに以来した液体金属を宇宙から取り寄せてグラディオスを追わせた日数と、俺の救出についての特別手当と、リヴァイヴについての追加材料取り寄せの料金だった。設計は俺が、製造は元日本支部の連中が行ったので料金には含まれていないが、それでも俺の貯金額ではとてもではないが出せないほどの高額に膨れ上がっていた。
一切の妥協もない請求に、クランドは原因を尋ねる。理由もなく、筋合いもない支払いに応じるわけにはいかない。
俺も真実を説明する他なかったが───そこで予想外の回答があった。クランドは「わかった」と平然と了承したのである。なぜなのかと尋ねると「人間の命は金では買えん。だがきみの命のみならず、新たに戦う力まで授けてくれたトーマスの請求を断るほど、私は筋の通っていない軍人ではないよ」とのこと。
かっこいい大人だと惚れ直してしまいそうになった。
その請求はグラディオスのトップ会議で議題に出すが、予算のなかから捻出可能らしい。それに俺の経緯について知らない者もいないし、否定する者もいないのこと。最初はクランドが実費で支払い、あとから予算から回収するという。それでも何1000万という高額な買い物だったはずなのに。ポンと出せることを見ると、やはり艦長職は儲かるのかね。
実はそんな感じで前払いは完了していて、入金の確認については昨日の夜に返答が来た。
では今はなんなのかと言えば。
オードリアインジェクション社が掴んだ情報が送られてきたのだ。
それはあまりにもよろしくない内容で、もう予断を許さないところまで来ていたのだ。
俺のなかで緊張が満ちる。
もう一切の妥協は許されない。
ならば、俺がしなければならないことを、なんとしてでも速めるしかない。
ただ、それはきっと………
「うん?」
「なんだ?」
コーヒーを楽しむシドウと、椅子に座って目を伏せていた俺が、同時に反応した。
使っていたのはミーティングルームではなく、ちょっとした小部屋だ。待機所とも言う。4畳ほどの広域で、主に士官などが使用したり、艦の浮上時などに俺とシドウが利用したりした。
聞こえてきたのは足音だ。バタバタなんてものじゃない。ドダダダダダダダダッと複数の大型草食動物が群れを成して草原を駆け巡る時に鳴る音に似ている。
そして、俺たちが使っている部屋に雪崩れ込む、ヒナたち12名のパイロットたち。
「おいなにをしているお前たち。スクランブルでもないのに通路を走るとはなにごとか───」
「エー先輩っ! ナノマシンが全身を蝕みそうなのって、本当なの!?」
シドウの非難を遮るように、先頭にいたヒナが俺に抱き付いて叫んだ。
それから口々に質問が飛び交う。
「あー………」
どれから答えるべきか迷う。っていうか、随分とバレるのが速い。
シドウたちではない。トップでもない。
と、すると………ひとりしかいない。
「………シーナか」
噂の出所を突き止めるなど、簡単だった。
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