もう戻れないB02
「ったく。最近のお前ときたらよぉ。マジでエースに似てきて油断ならねぇのな。いい加減にしやがれよシーナ。なにを嗅ぎ回ってるかと思えば、エースのことか───」
「おやっさん。エースの新しい機体、リヴァイヴからナノマシンの反応がありましたね。その特徴は液体金属のなかにいて、刺激を受けることで形状変化を促すものだった。では、どこから刺激、あるいはシグナルを送るのか、わかりますか?」
私はカイドウの説教を遮って、質問を投げかける。
「………あれは未知な機体だ。エースにしかわからないこともあるだろうよ。んでもって、お前がそれを知ろうとする必要はねぇ。やることがまだあるだろうが。油売ってんじゃねぇよ」
やっぱりか。どうにか誤魔化そうと言葉を選びやがった。
「エースの体には医療用のナノマシンがあったけど、それを全部使ってしまったらしいですね。で、空になったところに新たなナノマシンを注入した。………それがリヴァイヴのオールパーパスジャケットの、あのワイヤーにもなる液体金属を制御するナノマシン。そうなんですね?」
「………だとしたら?」
誤魔化しきれないと判断したのだろう。どこか諦観すらある面持ちをするカイドウ。アーレスは驚愕して固まっていたが、やがてカイドウと同じ、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「だとしたら………どれだけ危険か………私だって、あれからなにも調べてこなかったわけじゃない。ハルモニを通じて、新たな分野に挑んでマルチプルジャケットやマルチプルシールドを作った。それだけじゃない。エースの要望で、当時はまだタキオンを使用する想定でオールパーパスジャケットの設計もやりました。あいつが液体金属が必要だって言うから、その成分や必要とするものすべて。………あいつ、別のナノマシンなんかを体に注入して………自殺行為だ!」
「………そうだな。そのとおりだ」
ここまで言うと、カイドウとアーレスは、諦めというより、第三者の糾弾を甘んじて受け入れる姿勢となった。
私はエースのパートナーではないが、相棒だ。その私の糾弾ならと、すべて一身に受けようとしている。
「今日………いえ、昨日見たエースの左腕が、異様に膨れていましたね。なにか関係があるんですね?」
「………あいつは今、左腕に怪我をしている。そのためのギブスだ」
「嘘ですね。今日、ビーツの野郎に一発ぶちかまそうとした私を、あいつは両腕で抱えた。それどころか私を左肩に担いで移動した。とてもではないですけど、怪我をしている人間が可能とする動きじゃない。………おやっさん。アーレスさんも。本当のとこを聞かせてくださいよ。エースは今、なにが起きているんです?」
また沈黙するカイドウとアーレス。
まったく。嫌になる。さっきから嫌な予感がしてならない。
エースがあれだけ急ぐ理由と、これまでの考察を掛け合わせると、もう答えは出たようなものだった。
ただそれは、口に出すことさえ悍ましく、そして悲しい内容だった。
「医療用ではなく、機械工学用のナノマシン。そんなもの………体に適合するはずがない。本来、人体に入れるべきものじゃないのだから。でもあいつは入れた。入れた上で制御した。そこまではいい。………問題は、副作用だ。あいつ、エースは今………左腕でそれが起きている。違いますか!?」
「いや、それは………」
「おやっさん!!」
「………俺が言えることじゃねぇんだよ。わかってくれ。シーナ」
なんてことだ。その反応からして、正解じゃないか。いきなり当たりを引いてしまうなんて、なんて運のない。
もうそこからは止まらない。私が知りたくなくて、もっとも残酷な現状の予想を、刃の切っ先のようにカイドウに突き付けていた。
カイドウもアーレスも悪くないことはわかっている。でも、隠そうとする行為に、どうも苛立ちを抑えられなかったのだ。
「機械工学用のナノマシンを体内に入れる。液体金属と同じ成分のものを!」
「いや………あ、待てシーナ。別の場所に移動して………」
「今、エースで起こり続けている変化は、左腕を蝕んでいるんでしょう!?」
「待てシーナ! 言うな!」
「私の部屋で続きをしよう。カイドウさんも一緒だ!」
「待てるわけないでしょう!? 正気なんかでいられないのはおやっさんやアーレスさんだって同じのはずだ! 今は左腕で済んでるけど、あいつはいずれ………その毒が全身を蝕むんじゃないんですか!?」
「黙れシーナ!」
「黙りませんよ! 黙れるわけないでしょう!? 私の仮説が正解なら、それは肉体の金属化だ! ギブスとやらをしててもわかりますよそんなの! あいつの腕、筋肉とは思えない硬さだった! そんな毒みたいなのが全身に回れば………なんだよ邪魔すんじゃねぇ! ………あ」
いきなり肩を掴まれる。カイドウとアーレスも手を伸ばしたが、それよりも先に私に触れた者がいた。
苛立ちがマックスになった私は、その手を振り払うように振り返り、そこで中断を促そうとしたカイドウとアーレスの真意を知る。
「シーナ………エー先輩が、なんだって?」
いつの間にか、大勢のパイロットチームがそこにいた。
エースとシドウはミーティング中と聞いていたので、その両名を除く全員がそこにいた。
私の肩に触れたのはコウだった。絶句、絶望といった表情を湛えている。
「い、いや………それは………」
「エー先輩が………毒に侵されて、いるだと?」
「ま、待てお前ら! なにも全部がそうだと決まったわけじゃねぇ。検査中だ。答えはいずれ出るから………」
カイドウがフォローしようとするも、彼らとしては、もう気が気ではない。
特にエースのパートナーの3人。青褪めて、それこそ卒倒しそうだった。
「け、けどっ………エー先輩………なんだかかなり様子がおかしくて………」
ヒナが震えながら呻く。
それは多分、夜を共に過ごすパートナーゆえの感覚だ。彼女たちにしかわからないことがあるのだろう。
エースは脳内チップを移植しているがゆえに、生存本能すら薄れて効率ばかりを求める機械的な思考をする副作用があると聞く。食欲と睡眠欲が薄れるのだ。それを解消するためにあるのが性欲。性欲を引き出すことで人間が人間たらしく生きる本能を呼び覚ますことができる。ビーツもそうだった。
これはつまり、エースの身に起きている変化、あるいは不調に他ならない。彼女たちが証人だ。
「エー先輩が………いつか、死ぬ………」
シェリーが真っ青になって呟くと、全員に恐怖が伝播した。
カイドウに詰め寄ろうとしたハーモン。しかしカイドウの性格ゆえ、例え露見してしまったとしても多くは語らないだろうと判断。アーレスも同様。
だとすれば、答えを求めるために聞き出せそうな人物といえば───本人しかいない。
「っ!」
「あ! おい待てガキども!」
マイアたちは成人済みなのだが、尋常ではない方法で帰投し、窮地を救ったエースに恩義があるので、ソータたちを先頭に駆け出す隊列に同行する。
あっという間に置き去りにされる私。
その私の背中を、カイドウはバツが悪そうにしながら睨んだ。
「シーナ………俺は知らねえぞ。エースにあとで絞められても、俺の責任じゃないからな」
「ええ、まぁ………その時は私も素直に謝り………あれ?」
「どしたぁ?」
呆れるカイドウを振り返る。
アーレスも罪悪感に駆られる表情を浮かべていたが、私が新たに述べた疑問に、同じく首を傾げることになった。
「………いつも事実を巧妙に隠すエースにしては、杜撰な管理………だと思いません?」
「どういうことだ?」
「いや、死ぬことだってすげぇショックのはずなんですけど、自分の死ですら利用して………なにか、真実を巧妙に隠していると思ったんです」
「………なにが言いたいのかはわかるが………いや、マジか? そんなことあるのか………?」
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それにしても新作、書きたいなぁ………おっと、浮気してはいけませんね。
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