もう戻れないB01
私はエースの行動や言動が、どうも腑に落ちなかった。
元々、多くの謎を抱えている男だとは知っている。私は勝手にエースをライバル視、あるいは相棒視しているだけなのかもしれない。信頼と信用はあるが、どうも私とエースの間には線引きされるどころか見えない壁のような存在すら感じるのだ。
別に私たちは交際していないし、分別して一定の距離を保って接することに異論はない。
ただエースは、私の隣に並んではくれない。前か後ろにいる。
同じ転生者としての境遇や、立場を考えればそうなのだろうが、いつも結果だけ出して、過程を多くを語ってくれない。結果を出してからネタバレをするのだ。
映画やアニメや漫画でも見ていないのにネタバレされると私はブチギレるが、エースの行動に至ってはそろそろ一発、ぶちかましてわからせて、真相を暴いてやろうとさえ思ったものだ。
今、エースは艦長室にいる。これからのことを話し合うためだ。そう日が経たないうちに行うグラディオスの重鎮会議は今度は私は不参加だったが、これで指針が決まるだろう。
あとは宇宙に上がって、アンノウンの総力戦に備える。
この「天破のグラディオス」は全26話。現在は第22話。残すところあと4話。地上ではあと1戦交え、その後宇宙に上がり、最終決戦へと臨むのだ。
スケジュールに狂いはない。エースがたったひとりで整えてしまった。エースがいなければ、今頃束縛されているのはビーツではなく、私たちだっただろう。
エースには感謝している。でも裏でコソコソするのは、やはり不安になるから、そろそろやめてほしいものだ。と言っても素直に聞く奴ではないとはわかっている。
「ハルモニ」
『イェス。メカニック・シーナ』
「エースは、なにを隠していると思う?」
『───不明です』
グラディオスを制御する高性能AIでもその答えを知ることはできない。
いよいよ八方塞がりだ。
けどこんなところで諦めることも許されない。私はエースに並ぶと決めた。なら、最後まで諦めずに予想しながら回答を探すだけだ。
「そういえばあいつ、異様になんか焦ってたな。時間を気にしているようだった」
『人類が時間に注意して焦る行動は、なにかの期限が設けられ、そのタイムリミットが迫っている時などに類似すると思われます』
「だな。けどエースはビーツとの面会時間のことなんざ気にしてなかった。私のせいで中断させちゃったにしてもだ。時間なんて、まだ半分以上あったのに、なにを焦るんだ? 焦ってたなら中断なんかしないよな」
『イェス。私も同様の思考をします』
こういう時の話し相手こそハルモニが相応しい。開発したカイドウをはじめとして、クランドやレイシアも多用しているという。
エースも過去、ビームシールドを設計する際は、今のような知識なんてなくて、他のアニメからパクった技術を流用してハルモニに計算させたとか言ってたな。イレイザーの唯一のバックパックたるマルチプルジャケットみたく。
「時間を気にしていたことは一旦放置。エースが帰還して、もう2日目だ。あいつ、レイシアさんのところで検診受けたんだろ? 結構時間かかったらしいけど、医療ポッドは使ったのか?」
『ノー。メカニック・エースは、とある事情から医療ポッドを使うことはできません』
「とある事情? え、なんで?」
『申し訳ありません。メカニック・シーナには回答を得る権利を付与されておりません』
「権利ってことは………上に口止めされてるってことか」
『回答は差し控えさせていただきます』
「ふーん………」
でもその頑なな態度と拒否が、すでに答えだ。
誰かがなにかの目的のために、エースの個人情報の閲覧を封じている。
私みたくクルーのなかで重鎮ではないがハルモニの使用権限を持つ者に対してへの緘口令。
それを出せる人物。それはグラディオスの重鎮。
あの時、エースの身体検査に同席したのはクランドとカイドウとシドウ。レイシア含め衛生科のドクターたち。それ以外では、各科のトップたちしか知らない情報とみて間違いない。
ならば、私がするべきはひとつ。急いで外の休憩所から出て、艦内に戻った。
あと少しで昼休憩だ。ハルモニを使って、とある人物のスケジュールを調べてもらう。直接的な関与こそできないし、呼び出しなんてできる立場ではないし、理由がない。そこで通りがかりそうな場所を予測させた。
グラディオスの首脳会議は終了して、各トップたちが持ち場に戻っていく途中だと言う。
私は宇宙空間における、無重力区画と、重力発生区画を結び、二重隔壁で閉鎖する予定のブロックに来ていた。大気圏内なら常時解放されているので行き来は自由だ。
すると、やはり来た。
砲雷科の砲雷長、アーレスである。
「アーレスさん」
「おや、シーナさんではないか。拘束されているアリスランドの艦長との面会に行ったんだってね。ご苦労様。こんなところでどうしたのかな? 今日は午後から出勤だろう?」
私はアーレスの信用を勝ち取っていた。拷問されたエースを収容後、アークの襲撃を阻止するべく作戦を練り、アーレスをブリッジに配置したところ、本当にアークが来たため、それ以降アーレスが自分から声をかけてくれるようになったのだ。
「少し、気になるところがあって」
「うん? なにかな?」
アーレスは砲術長を従えていたが、私の質問とあっては気を良くして答えてくれる。砲術長を先に行かせて、私にひとりで対面してくれた。
「その………あまり、話しやすいって内容じゃないんですけど」
「うん?」
「エースのこと、知ったんです。あいつ………もう医療ポッドに乗れないって」
「………ああ、そのことかい。きみも知ってしまったんだね」
ヒット。やはりアーレスは知っていた。知らされていたのだ。
アーレスはにこやかだった表情を一変させ、たまらず目に涙を湛える。
ギョッとした。まさか、そんな深刻な問題だったのかと。それは、アーレスをこんな形で騙すようにして聞いていい話なのだろうかと。
「彼の姿は、まさに………そう。愛ゆえの戦士だ!」
「………へぁ?」
あ、違った。これは聞いてもよさそうなやつだ。
アーレスといえば男泣き。涙もろい性格であると知っていたはずなのに。すっかりと尋常ではない空気に騙されてしまった。
「彼の愛は深く、そして気高く、誰もその高みに到達することはできないだろう。私もその報告書が送信された際、目を疑ったし、そしてやはり泣いた。今よりもだ。こんなことになってしまい、クランド艦長もさぞかし心を痛めただろう」
なんていうか、ヤバイ気がする。
アーレスに聞いた私が愚かだったと、少しずつ後悔してきた。
いきなりだった。こんな早く答えを得ることになるとは思いもしなかった。
「エースくんにはナノマシンがない。医療ポッドのナノマシンをすべて使い果たし傷を塞ぎ、そこに新たなナノマシンを───」
「なにしてるアーレス!! 余計なことを言うんじゃねぇっ!!」
「え?」
思いの丈をすべて暴露しようとしたアーレスを、私の背後の通路から現れたカイドウが止めた。
あと少しだったのにと舌打ちしたくなる気持ちと、安心する気持ちが反発する。
「迂闊だぞアーレス! こいつはそのことを知らねえ。誘導尋問に乗っかって、ホイホイと答えようとするんじゃねぇ!」
「誘導尋問!? ま、まさか………本当なのかい? シーナさん!」
アーレスの顔が驚愕に染まる。私はその瞳を見ることができなかった。
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