もう戻れないA10
コーネリアは感謝を告げて去っていく。俺とシーナはボートに乗ってグラディオスへと戻った。
クランドに報告したあと解散となったのだが、特殊な任務として扱われたゆえ、その日の仕事の開始は午後からとなる。昼飯まで時間があったので、ある意味での首脳会議をすることとなった。グラディオスを出て、シーナと出会ってから何度も話し合いを行った、自動販売機前に移動する。
「なにか収穫はあったのか?」
「え?」
「ビーツとの面会。私にはただ、お前が喧嘩ついでに近況報告をしているだけに見えた。私を紹介する必要があったとも思えないんだけど」
シーナは視線を尖らせて尋ねる。
彼女はビーツに紹介したとおり、これでなかなか鋭い意見を言うし、抜け目ないし、観察力もある。
今となっては俺の代打を務められるほどとなった。その証左として、俺が不在となってもグラディオスを勝利まで導いた功績がある。
俺はシーナをこうなるように望んで育てたが、予想以上の成長であることは違いなく、今回の面会に疑問を持つようになってしまった。
どう答えたものかと悩む。中途半端な言い訳をしたところで、シーナはすぐ見抜くだろう。ならいっそのこと、すべてを打ち明けるのがいいのか。
しばらく黙り込んでしまう。するとシーナは、見かねて質問した立場でありながら助け舟を出してくれた。
「答えたくない? そりゃあ、お前にはお前の考えがあるんだろうけどさ。なんで答えられないのかは知らないけど、ひとつだけ答えてくれよ。それって、グラディオスになにか関係あるの? 悪い影響が出るものとか?」
「いや………影響は大きく出る、かもしれない。それは悪いものかもしれない。でも俺は、いつでもみんなのことを第一に考えてるよ。利己的で、自分が世界の中心にいるかのようなビーツの思考とは違う」
「………はぁ。なら、それが答えってことにしておいてやるよ」
「いいのか? 拷問されても口を割らなかったお前に、なに聞いても無駄だろうからな。あ、でもキンタマまで潰されてないし、尻もいじられてないんだっけ? 肛門拡張したあと、ドイツ支部の同性愛者のなかでも汗臭くてメタボなおっさんがいるって聞いたことあるから、拘束したあと抱かせてやるって手もあるか………」
「おいふざけんなネズミ畜生。そんなおっさんに抱かれる趣味はねぇし、普通に嫌だわ。俺に汚いものを見せるんじゃねぇ。尻なんて絶対に触らせねぇからな」
「そりゃ残念。………それが嫌なら、いつかその理由を話せよ? 言っておくけど、私はそう気が長い方じゃない」
「わかってる。そりゃ、小学生みたいな幼児体型してるから攻撃手段もそれに準じるんだろうけどさ」
「選べ。私に拡張されるか、おっさんの魔淫手に絡め取られるか」
「冗談だって」
魔淫手ってなんだ? 怖すぎるだろ。
「ったくよぉ………で? これからどうするわけ?」
シーナはドカリとベンチに乱暴に座り、強引に俺に奢らせた缶コーヒーを半分ほど飲み下す。
「これからって?」
「この先の展望。残すとこ、あと4話。最終話まで、もうそんなにない。今のところお前が死亡判定受けて離脱するとかいうふざけた紆余曲折があったけど、撤回されて元通りになった。順風満帆。懸念すべきところはあるけど、現状を考えれば、そんな悪いことにもなってない。みんなの命を守れてる。そりゃ確かにすごいことだ。誰にも真似できることじゃない。ライラの闇堕ちだって………お前が全力で回避した。けどあと4人残ってるな。お前はどうせ、あいつらも救うんだろうけど。けど少なくとも、最終決戦に向かう前の課題はすでにクリアされてるも同然だ。この第22話は敵がいない。楽ができるなんて楽観視はしないけど、やるべきことをやって、備えるのには十分な時間だ。お前は1秒も無駄にしたくないんだろ?」
「………ああ。そうだな」
どこか試すような視線。意図はわからない。
けどシーナの言うとおりだ。俺はある意味でこれを目指していた。ライラの闇堕ち回避を。
第22話は人間の憎悪で拷問と陵辱を受けたライラがアンノウン化してアメリカ支部を半壊に追い込み、グラディオスを追って強襲。ソータとアイリに殺して欲しいと懇願し、ソータがアイリごとグラディオスを落とそうとしたライラを殺す。その絶望は計り知れない。
けどライラはここにいる。人間の憎悪を受けず、拷問も陵辱もされず、今も純粋無垢な笑顔を浮かべて、グラディオスのマスコットのようなポジションでここにいる。
「あれ? でもさ、それならクランド艦長は、ライラをドイツ支部で降ろそうと考えなかったのか? 保護した民間人扱いなら、そうなっても不思議じゃないと思ったけど。もしかしてお前がなにか言って説得したのか?」
原作破壊行為の果て、ライラの扱いが以前と変わらないことを問う。
「私はなにも言ってない。ドイツ支部に戻ってからは、それどころじゃなかったんだよ。どこかの少尉様が死亡判定受けたりしたから、みんな落ち込んでたし、ビーツが宣戦布告してくるわで、ライラの処遇をどうするかなんて考える余裕もなかった。………一回、お前からクランド艦長を説得してもらえねぇかな? もうライラは原作の範疇にないキャラになった。ここで降ろすのはどうかと思うし。なら、最後まで一緒に行きたいとも思うし」
「同性に興味がないどころかメスとか吐き捨てたお前が、変わるもんだねぇ」
「妹みたく思えて仕方ないんだよ。お前には抱かせてやらないからな。寝る時に抱きしめると温かくて気持ちいいんだぞ」
「そういう関心を持ててくれたなら、なによりだけどな」
シーナもまた、成長したということだ。そうでなくては困る。俺は俺なりに成長した結果、なんかコーネリアから「狂人」とかいう遺憾な称号を与えられたけど。シーナもいずれそうなるのかは、わからないけど。でも旅は道連れとかいうし、こいつもイカれた思想をしているから、きっと「狂人」の称号がピッタリなはず。あのビーツがドン引きしてたしな。あれは笑えた。
「ライラはグラディオスに載せたままでいこう。アンノウンを………同族を殺すところを見せてしまうことになるけど、もしライラが俺たち、いやソータたちと共に行くことを決意したなら、その意思を尊重する。………なんだよ。そんな怪しむような目で見やがって」
「いや、さっきからお前、なんか………自分のことを蚊帳の外みたいな前提で話してるように思えてさ。それが引っかかるんだよなぁ」
………やっぱり油断ならねぇなこいつ。
俺のほんのちょっとの、それこそ顎を指で撫でる程度の動作で、俺の心境を捉えてきやがる。
「そんなことないだろ。ここまで来た。俺も戻れた。最後までやるさ」
「………ならいいけど」
シーナは最後まで浮かない面持ちをして俺を見上げていた。納得した口振りではいるものの、そのすべてを誤魔化せてはいないだろう。
この時点で、俺はシーナに隠していることがふたつあった。どちらも知られるのはまずいけど、もしかするとどちらかがバレるのは時間の問題かもしれない。
………そうなった場合、もうひとつは、決して知られてはいけない方は、なにがあっても隠し通すしかない。
俺の命にかけても。
もしそうなったら………みんな、許してくれないだろうなぁ。
評価、リアクションありがとうございます!
総合評価が1800を突破しました! ありがとうございます!
日曜日………4話くらい更新でこるように、頑張ります!
けれどこのタイミングで新作の構想が降りてきて………ああ、浮気してしまいそう!
浮気といえば衝動的に買ってしまったHGダブルオークァンタの組み立てにも熱中しすぎてどうにかなってしまいそうです。
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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