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もう戻れないA09

「グラディオスの軍服と、少尉を示すエンブレム。腕にはパイロットチームのサブリーダーの腕章。………そうか。お前が噂に名高いエース・ノギ少尉か」


「ハッ。お初にお目にかかります。仰るとおり、私がエース・ノギであります。少将に名前を知っていただけたなんて、光栄です」


「そう畏まるな少尉。お前のことは、弟から聞いていた。そうか………お前が」


 不敬があってはいけない。シーナを肩から下ろして一歩前に出る。コーネリアは3歩ほど離れた場所で止まった。俺とシーナは敬礼すると、コーネリアは微笑を浮かべながら敬礼に応じた。


「コーネリア・デクスターだ。先の戦いではお前に助けられたところも多いだろう。特にビーツを直接阻止し、私のオーダーどおり拘束した。この功績は大きい。いや、少尉を評価しているところは、個人的にも大きいのだが」


「どうかエースとお呼びください。コーネリア少将。尉官としてグラディオスで勤務する身ではございますが、歴戦の猛将たるコーネリア少将と比較すれば、私などそこらを駆けまわる小僧となんら変わりありません」


「ほう。ではエースと呼ぶことにする。お前には父上から階級の特進をさせるという褒美を与えられると聞いた。近日、尉官どころではなく佐官となるだろう」


「そんな、軍属となって1年も満たない子供に、佐官まで与えるのですか?」


「遠慮するな。それだけお前を評価しているし、感謝もしているのだ。お前もハーモンから聞いただろう。デクスター家はオルコットと対立していた。此度の戦争で勝利した影響で、デクスター家は初めてオルコットを上回った。その決定打となり得たのがお前だからだよ。戦績はすべて記録し、デクスター家当主の父上に報告してある。オルコットの懐刀であり、此度はオルコットの代理として総指揮を執ったビーツはオルコットそのものとして代理戦争で暴れ、そして敗北した。ついに失墜したオルコットを上から見下ろすのは、とても気分がよかったと笑っておられた。………これで、エースが私の部下になってくれれば盤石なのだが」


「え?」


「ああ、いや。………まぁ、そうだな。私は常に優秀な人材を募っている。多くが揃えば私の艦隊の規模が上がり、あと10年もすれば兄上と同じか、それ以上の権限を持つこともできよう。だがその反面、多くの人材を育成することで、後世にたくさんのことを託せるからな。私は、そういう風景を見てみたいのさ」


 やっぱりかっこいいな。コーネリアは。


 言っていることと、やっていることが一致するのって、クランドを筆頭にグラディオス以外ならどこにもいなかったのだけど、こんなところにいたなんて。


 やっぱりもったいない。こんなすごいキャラが本編に登場しなかったなんて。いや、もしかしたら今後のスピンオフなどで登場する予定だったとか? だとしたら、その作品はとても期待できるだろう。俺はこの数分で、すっかりコーネリアも推しキャラになってしまったもんな。


「ふふ。それだけではありますまい? コーネリア少将。エース少尉をスカウトできれば、弟君もついてくると思ったのでしょう?」


「じゃ、邪推をするなブルゾン!」


「これは失礼致しました。いやはや、歳をとると余計なことを述べてしまうものですね。まぁ年寄の妄言だと思って、お聞き流しください」


「覚えていろよ貴様」


「いやはや、歳をとると記憶も定かではなくなってくるものでして。私が死ぬ前にコーネリア様の花嫁姿でも見られれば活力を取り戻せると思うのですが………」


「虚けめ! もうよい、黙っていろ!」


 なんか意外だった。


 俺たちを案内してくれたコーネリアの部下含め、ここにいる全員はコーネリアを尊敬しているはずなのに、ブルゾンなんていう、また俺の知らないキャラがユニークなやり取りをするなんて。まるでいい年をした孫の嫁の貰い手が見つからず悲しむ祖父のような、そんなコミカルなやり取りをしていたので、俺たちはついポカンとしてしまう。


「あ、あー………コホン。エース。この虚けジジィにも言ったように、邪推は禁ずる。そこにいる整備士もだ。ハーモンは一切関係ないからな」


「ふふ。ご家族ですもんね。ご家族を大切にすることは、間違っていないと思うのですが?」


「アレも大人になる歳だ。自分のことは自分で決めたいだろうさ。………それはさておき、エース。お前にひとつ言っておかなければならないことがある」


「は、はい?」


 クスクスと笑うブルゾンを拳で黙らせようとしたコーネリアは、真剣な面持ちをして俺に対面する。


 瞬時にブルゾンが、周囲の部下たちも直立姿勢となる。コーネリアが纏う空気がそうさせた。


 俺はもちろん、シーナも無意識に直立姿勢となる。


 なんだろうこの空気。コーネリアは憤っているわけではないのだが、どうもなにか神々しいというか、近寄りがたいというか。それでいて不快感やプレッシャーなどの重圧を感じさせないオーラを纏っていたのだ。これには斜め後ろでシーナも息を呑む。


 ジッと俺を見下ろすコーネリア。話しには聞いていたけど、やっぱり身長が高い。180センチ以上あるから、俺まで見下ろされてしまう。ハーモンはまだ成長期だし、多分背丈だけならコーネリアに追いついたんじゃないかな。


 けど似て非なるものだ。姉弟なだけあってハーモンと共通する面持ちをしているが、気構えというか、根幹から練達しているから見下ろされるだけで呼吸が止まりそうになる。嫌じゃないけどね。推しキャラを至近距離から見られるのも転生者の特権だ。


「………ふっ。予想以上か」


「え?」


「私はいつも、こうして部下を従えては新兵を前に立たせ、無言で凝視するのだ。選りすぐりを集めているが、10代から20代前半の年代はたじろいだり、咄嗟に謝罪をしてきた。だがお前はどうだ? 多少、半歩程度の後退もせず、たじろぎもせず、謝罪もしない。むしろ私を凝視し返して、好感すら抱くとは………これが噂に違えぬ、狂人か」


「狂人!?」


 コーネリアの指摘に驚嘆すると、なんか斜め後ろでシーナが「プッ」と笑った。あとでお仕置きしてやる。トラウマを植え付けられたユリンだけでなくシェリーも派遣決定だ。精々、今の俺と同じ境遇になればいい。


「お、穏やかな表現ではありませんな………」


「む。なにか勘違いさせてしまったか。すまないなエース。今のは私の表現が悪かった。悪い意味ではない。お前は未成年でありながら、そして幼くして戦う道を自ら定めた軍学校の出でもない。宇宙コロニー出身の一般人だったな。確かにお前が言ったとおり、異例の特進に違いない。だが、その理由を今確かめることができたよ。やはりお前は周りとなにかが違う。ついでに言えば、その後ろで笑っているお前もな。シーナ・サクラと言ったか。お前たちのお陰で、私も確信を得た。特にエース。お前に言いたいことというのが………感謝だ」


「感謝?」


「ハーモンのことだ。お前のことをとても気にしていた。お前が死亡判定となった時、ハーモンは泣きながら後悔していたよ。余程大切な人材だったのだな。そして今、生きて帰還を果たしたお前に、ハーモンは姉の私とて知らぬ顔で笑うようになった。実は先程、艦を離れたのはグラディオスでハーモンに会うためでな。………男の顔をするようになったよ。あんな顔までできるとは知らなかった。それはすべて、今の自分を作ってくれたエー先輩なる人物のお陰だ、と言っていた。弟が世話になった。できれば今後とも、悪いところを見つけて叱ってやってくれ。デクスター家では誰にも懐こうとしなかったあいつが尊敬する唯一の男として、導いてやってくれ。姉として、お前に感謝する。ありがとう。エース」


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