もう戻れないA07
これじゃコーネリアの部下たちも怒るぞ? 益々不審を募らせるだけじゃないか………と思いきや。
「すごいな。エース少尉は。我々がなにを言っても無視してきたビーツを、たった数秒で開口させるとは」
あ、違った。驚いてた。
私たちを案内してくれた男が、初手から狂った行動に出たエースに感心を寄せる。あれ? もしかして私が間違っているのか?
『アリスランドはこっちが接収した。アークの身柄も、黒いタキオンも、黒いイレイザーも、こっちの手中に収めた。お前もこの半年、死に物狂いで色々やってきたんだろうけどさ。最後に勝ったのは俺たち、いやグラディオスだ。これだけは譲れない。お前にはお前の考えがあるんだろうけどさ。それを承諾しちまうと、よりイカれた世界になっちまう。それだけは絶対に許さない』
エースはいったい、なにがしたいんだ?
そりゃあ私だってビーツが許せない。
聞けばライラの拉致事件に関与していたらしいし。エースが身代わりになったと知って拷問を指示したとか。
そして助けたばかりのエースを落としたという前科もある。エースが抜けた穴は大きく、あの絶望を作った張本人だというのならなおのこと。
前世絡みで言えば、私の後輩を弄んで捨てたこと。今すぐこのドアを蹴破って、ビーツを殴りに行きたい気分だ。
『あれから2日経った。アメリカ支部の艦隊は、ペガサス大隊を残してイーグル師団はすでに支部まで帰ってる。ワプス支部長とドルテ支部長は、クランド艦長とコーネリア少将の合意、同席の下、会談を行って双方の合意を持って終戦を宣言。どちらにも被害は出たけど、やっぱりお前がやらかしたとかいう海底に向けてレイライトブラスターを発射した事件で、アメリカ支部艦隊の被害がでかかったからな。ワプス支部長はお前を許さないだとよ』
これはすべて真実だ。事前に会話内容を決めて提出し、認可が降りたのでエースが淡々と説明している。
『んで、お前の唯一の頼みの綱? みたいなオルコットっていう幹部だけど、大人しくしてるみたいだぜ? こりゃ、お前がトカゲのしっぽ切りに遭ったも同然───』
『アリスランドのクルーは?』
『お、やっとまともに喋ったな。アリスランドのクルーは大勢が拘束されて、ドイツ支部に収容されたよ。お前は艦長として、戦犯として全責任を負うことになったとしても、だからってクルー全員が無罪放免ってことにはならないことくらい、百も承知だろ? 詳しくは知らないけど、司法取引とかもあるかもしれないけどさ』
それを聞くと、ビーツはしばらく黙った。
エースは説明を一旦止めて、近くにあった椅子を展開して腰を下ろす。
沈黙が続いた。されども、双方睨み合っている。
因縁の関係。ライバルともいえるふたり。
その終止符が打たれた今、互いの健闘をたたえ合うわけでもなく、慣れ合うわけでもなく、静謐でありながら、どこか痛々しい緊張がドア越しに伝わる。
と、次に口を開いたのはビーツだった。
『………お前、どこにいた?』
『お前が使い捨てにしようとしたピエロ野郎に助けられてからか? 言うわけないだろ。どうしても知りたきゃ、這い蹲って命乞いのひとつでもするんだな』
『なら、いい。………富士ドックか』
『あ?』
『海流を計算してみた。アンノウンに襲われるリスクがありながらも、物資を輸送する船舶の航行ルートなども頭に入っている。拾われたのはかなり遠い海だろう。そこから………タンカーなどで移動すれば、富士ドックに行けないこともない』
『………目敏い奴。抜け目ねぇな』
一応、私もエースがどのようにして生還したのかは聞かされている。
面会の申請を提出した日、艦長室に呼び出されて、エースが説明を行ったのだ。私はカイドウに連れ出され、初めて重鎮たちの会議に参加した。なぜ私が呼ばれたのかと言えば「最近のお前はエースに似てきているし、聞いておいても損はないだろ」だとさ。
その会議で明らかになるエースの壮絶な旅に、これまでのグラディオスの、いやエースの狂人みたいなネームドキャラ救済推し活計画と、原作破壊行為の集大成が詰まっていたと私は確信した。
エースと私は推し活のためにすべてを捧げた。だがそれは、あくまで「天破のグラディオス」というアニメにおいて、輝こうとして儚く戦死してしまったキャラクターたちの救済を主幹にしていたはずだ。
エースは私の考えの斜め上を行く。原作破壊行為におけるいかなるメリット、デメリットのどちらも抱え込んで、自分にとってプラスにしてしまった。
オードリアインジェクション社の産業スパイのエージェント、トーマスが乗機を自爆させて生死不明になるのを阻止し、ビーツに騙されていた日本人たちを救った。
そのすべての恩が、エースを救ったのである。
しかし、エースの所業のすべてを知るはずがないビーツが、エースを助けたのがトーマスであると知るや、正確な筋道を見抜いてしまった。エースの言うとおり、油断ならない奴だ。
『まぁいいさ。今となっては、トーマスも富士ドックも、どうでもいい。もう俺には関係ない。………いや、待て。もうひとつだけ聞かせろ』
『時間が許すまでは質問させてやるよ』
交渉術か。
ビーツから多くの情報を聞き出すために面会を許可されたのは承知している。それがいつしかビーツがエースに質問する側になっている。
この流れをよく思わなかったコーネリアの部下が、修正せんと部屋に入って警告しようとするも、私はその腕を掴んで止める。非難めいた視線を突き付けられたが「なにを言っても無視するビーツと自然に会話できてる、今がチャンスです」と説明すると、渋々とだが納得してくれた。
『お前、本当にグラディオスから離れていたんだよな?』
『まぁな』
『しかし、お前が海に落ちて、グラディオスはドイツ支部に向かい、そこから………妙なことが起きた。どうせなにも変わらないと思って、アークにグラディオスに降伏を促す使者として、非武装で向かわせた。………ところが、だ。そのアークは予想どおり徹底抗戦の旨を抱えて俺のところに戻ってきた時、なぜか………酷く内面的にダメージを負っていてな。そりゃあ、生き別れの兄と殺し合うことになって、それでメンタルに支障が出たのだと考えたが、違っていた。あれは最早、洗脳だ。アークはグラディオスの誰かに、なにかを言われて、俺を疑うようになった。………愛がどうのとか、あなたは僕を愛してくれるのかとか、な。しかもそれを述べたのは女だという。いったいどうなっている? お前はグラディオスを離れる時、なにか言ったのか?』
『あ、あー。そういうことか。うん、ちょっと待ってな』
ヤベッ。エースに睨まれた。「俺がいない間に、アークを洗脳しやがったな?」って激怒している目だ。
それから笑顔で手招きされる。仕方なく、私は従うことにした。逃げ場はないし。
渋々と室内に入る。
「い、いや。ちゃうんだよエース! 私はアークきゅんを私色に染め上げようだなんて、一切やってないからな?」
「ほざけド腐れハムスターめ。俺はまだなにも言ってねぇのに、言い訳並べてんじゃねぇぞ」
しまった。先走った。つい手拍子で言い訳をしてしまったら、墓穴を掘ってしまった。
「おい。なんだその小学生みたいな女は」
「は? なんだぁ? テメェ。喧嘩売ってんのかよこの野郎。上等だ。表出ろやァッ!!」
「うるさいよ。ビーツ。こいつの名前はド腐れハムスター。通称シーナ・サクラ」
「逆だろうがよぉテメェは! テメェもまとめてブチ殺してやんよォッ!!」
なんでこう、エースが相手だとチンピラみたいな口調になっちまうんだろうね。
けれどそれがエースの狙いだったのかもしれない。初対面なのに遠慮のない罵声を浴びせると、ビーツは面食らって硬直してしまった。
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