もう戻れないA06
「そう怒るなって。今日はちょいと、誘いに来たんだ」
「はぁ? なんだぁ、テメェ。パートナーたちがいる分際で、私をデートに誘おうってかぁ?」
「いやそういうわけじゃねぇよ。っていうか凄むな。ライラが起きるぞ」
「チッ」
舌打ちするシーナ。彼女は今、ベッドに上体を起こして座っている。予想どおりライラはまだ寝ていて、同じベッドでシーナの腰に抱き付いていた。身長だけはシーナよりも高いが妹みたくしていた。
対するシーナは寝起き姿を堂々と俺に見せるという堂々たる姿勢。化粧っ気がないとは思っていたけど、すっぴんを見せても問題ないほど信用されているか、それとも男として見られていないかのどちらか。どうせ後者だろうけど。俺もそう思われて別に気にしないけど。
「ハァ………そんで? なにに誘いに来たって? 船上パーティができるほど、広い艦なんてグラディオス以外にないからな?」
「そんなポジティブな内容じゃない。会いに行きたい奴がいる。お前も同席しろ。考察を練る」
「………いったい誰に? これ以上の考察なんてないだろ。お前が全部止めた………いや、正確にはまだもうちょっといるけど。けどそこまで警戒する必要あるのか? 私が言うのもなんだけど、そこまで思い詰めなくてもいいと思うんだけど?」
「いや、こればかりはな。お前がいてくれた方が助かるんだよ。ちなみに場所はグラディオスじゃない。ドイツの艦のひとつな」
「………まさか。お前が会いに行きたいって奴って………」
許可はあっさりと降りた。
コーネリアは案外話しがわかる人物である。いや、それだけではない。エースが私とともに面会の申請を提出すると、翌日の早朝という遅いのか早いのかわからないタイミングでコーネリアが許可を出したのだ。
エース曰く「コーネリアの直接の尋問でも口を割らないので困っている。グラディオスクルーで旧知の仲である誰かなら有益な情報を引き出せるというなら、頼もうと思っていた」とコーネリアの返信があったとか。
その日にいきなりグラディオスを離れるとあってはシフトに支障が出る。前日にカイドウに報告ができるのはなによりだ。カイドウはしばらくなにかを考えたあと、私も同席するという理由を知りたがっていたが、そこはエースの考えだと言って誤魔化した。
私とエースと、そして面会しに行くビーツ。共通するのは、私たち3人が転生者であること。
まだ誰にも知られていない、私とエースだけの秘密だ。もし誰かに知られたら………うん? いや、どうなるかはわからない。だって魂と精神だけは別の世界から来ただなんて、どうやって信じるというんだ?
それは置いておいて、今はビーツの問題に対処しなければならない。
艦内にいるとはいえ、最新の医療設備をドイツ支部は持っている。支部内に持ち込めばなにが起きるかわからないため、艦内に監禁するしかない。海の上ならば逃げ場はないし、コーネリアの部下たちが常に見張っている。
グラディオスにボートが到着するとそれに乗り、コーネリアが乗る艦へと向かう。生憎コーネリアは別件で外していて、直接会うことはできなかった。エースは対面したことがなかったし、かなり知りたがっていたのもあってガッカリしていた。
部下のひとりが対応してくれて、彼の誘導に従って艦内に入る。グラディオスと比較すればかなり狭いが、その狭さがまたとないビーツの自由を奪う檻と化す。
かなり奥へと進む。先導する部下が教えてくれたのだが、どうやらビーツを収容するに至り、意識を取り戻す前に突貫で電波を遮断する工事を一室に施したのだとか。当然だ。ビーツは脳内チップを持っている。腕の端末は当然、脳内チップを封じなければビーツがなにをするかわからない。
「っあ………」
「どうした? 頭痛いんか?」
突然、エースが側頭部に触れて少しだけ呻く。全員が足を止めて振り返った。
「申し訳ないが、ビーツ・クノ中佐の脳内チップ遮断処置をする装置を稼働させている。聞けばエース・ノギ少尉も脳内チップ持ちだな。奴を抑え込むためなんだ。その苦痛を我慢してもらいたい。可能か?」
「ええ、はい。可能です。頭皮を針でチクチクと刺されてるくらいの頭痛なので、耐えられないこともないですよ。それにしても、調整がお上手だ。苦痛を最小限に留め、意識レベルの低下を促すことなく脳内チップの9割りくらいの機能を奪うとは。優秀なメカニックがいるのか、コーネリア少将の腕がいいのか」
「ふっ。どうやら貴官は話がわかる男のようだ。後者だよ。若年ながら真実を見抜くとは驚かされる」
すっかり気を良くしたコーネリアの部下たち。いかに相手が小僧と小娘とはいえ、仕える主君を賞賛されて喜んでいた。相変わらずエースの人心掌握テクニックは半端ない。もうこちらへの警戒心が薄れつつある。
「エース。脳内チップの9割を制限されるって言ってたけど、体に支障はないのか?」
「ああ。そこら辺はまだ問題ないよ。制限されていない1割は、日常生活の妨げにならない程度だけど、今はそれで十分だ。歩くことだったり、喋ったり、考えたりすること。歩いたり食べたりとかな。これらについては制限されてない。ギリギリで人権が保障されてるって考えるべきかな」
「なるほどね。コーネリア少将って、かっこいいだけじゃないんだな。いくら戦犯だからって、人権は保障するんだ。私なら四足歩行にさせてワンって鳴かせるくらい人権を奪ってやるのに」
私のブラックジョークに、コーネリアの部下たちはますます気を良くして「ハハハ」と笑った。
「ここだ。時間に制限はない。ただし、会話は記録させてもらうし、声はここにも聞こえるということを承知してもらいたい。端末も預からせてもらう。………コーネリア少将は旧知の仲という貴官を尊重し面会を許可されたが、温情はかけぬように」
「承知しております。温情なんてありませんよ。あいつ、なにを言われてもノーリアクションなんでしょう? まずは一発かまして、怒らせてみます。おれ………私も脳内チップがほぼ制限されて通信ができない同じ条件なら、そちらも安心でしょうし。まずは日常的な挨拶をさせるくらいはしてみます」
「う、うん。頼んだぞ少尉」
エースがビーツを調教する気が満々であることをアピールしてみると、予想していたリアクションとは異なったのだろう。若干引いていたので思わず笑いそうになった。
「とにかく、内側からの会話が聞こえるならよかった。シーナ。呼んだら来てくれ」
「お、おう」
いったいなにをするもりやら。初手から私を動員せず、単体でビーツとの面会に臨むエース。
重厚なドアを開く。隙間から少し見えたが、ビーツは部屋の片隅で両手を体の後ろで拘束され、壁に繋がれていた。
ここは営倉ではないので鉄格子なんてものはないが、部屋の外にはコーネリアの部下たちという屈強な男たちが揃っていて、脱出は不可能だ。
ただその屈強な男たちでさえ手を焼くビーツの尋問を、エースがどうやって解決するのやら。
ビーツは壁に繋がれて治療されていたが、起き上がれるくらいは回復したらしい。部屋に入ったエースに気付くと、やっとリアクションらしいアクションを取る。大きく目を見開いた。
「エース。最初こそ肝心だぞ。ビーツのクソ野郎の命運を分ける───」
『よう負け犬。いい顔してんじゃねぇかクズ野郎。あれだけの犠牲払っておいて得たものはなにもないどころか、途中参加の俺に全部水の泡にされた気分はどうだ? 嬉しいか? 嬉しいだろ。嬉しいって言ってみな?』
『死ね』
おぃぃいいいいいいいい!
なにやってんだあのバカ!
これじゃ尋問にもなってない。ただ喧嘩を売っただけ。勝利を気持ちよく宣言して、初手からビーツを精神的に追い詰めようとするとか、あいつ本気なのか!?
………いや、見てる私はかなり気持ちよかったけど。
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