もう戻れないA05
結論から言おう。
死にかけました。知ってた。
まるで遠慮とか容赦とか手心ってのを知らない悪魔みたいな責め。
サキュバスとかインプとかも真っ青になって逃げ出すレベルだった。もうね、エロいとかそういう次元じゃないの。強盗みたいな勢いで、搾り取れるものを取っていくんだもんな。
それでいて協調性があるようで、どこか競い合う3人。俺を対象としたポイントゲームみたいなことしてるんだもん。どれだけ悦ばせたら何ポイント獲得。みたいな。最初こそ夢見心地なんだけど、後半は命の危機を久々に全身からシグナルを発するんなもんな。
シャワールームでの前哨戦で何ポイント獲得したのかは知らないが、ベッドに到着するなり勃発する本戦。逃げ場なんてない。こちとら怪我は治ったけどメディカルルームに搬送されるくらい消耗して、やっとの思いで部屋に帰ってきたばかりなのにさ。休憩という概念はないのだろうか?
男女が同じベッドに潜ったら、ロマンチックな雰囲気に包まれて愛を囁く───なんて思想はない。「エー先輩はおっぱい大好きだもんね! ね! そうでしょ!」なんて叫ぶヒナ。過去最高の熱狂。部屋の外に聞こえたらどうするんだろうねこの子は。
そりゃあんた、自分の顔よりも大きいそれを目の前で揺さぶられたら、ふたつの眼球が反応して視線を全力で追いかけないはずがないでしょう。
すると触発されたユリンとシェリーまで本気を出すんだもんな。「私は81になったばかりよぉ」とか「100なんてものはないですけど89にはなりました」なんて報告してくれる。
でも………まぁ、知ってたよ? だってみんなの下着、部屋にいると否応もなく視界に入っちゃうんだもん。「どうぞ見てください」と言わんばかりにラベルを上にしてくれちゃってさ。ふたりとも女らしい成長したのは先知してる。ユリンは数値に伸び悩んでいたけど、ここ最近でかなりの成長を遂げたって喜んでいたし。わざわざ俺の耳元でね。それを忘れてしまう俺ではない。
みんなが誇張する胸は大好き───なんだけど、本番が始まっては、もうそれどころではなかったってね。
気を失うまで続けられ、途中で起きて食事の休憩をやっと挟むも5分で終了。また気絶。
結局3回くらい気絶したと思う。いつもは1回くらいだったけど「離れてた3週間分をひと晩で埋めます」って宣言したシェリーの正気を疑い、有言実行された。
体内に新しいナノマシンを注入してしまい、少し後悔。だって心肺停止しても、もう二度と医療ポッドに乗ることはできないんだもんな。イカれてやがる。
深夜まで続く乱戦。3人の肉食獣も疲れ果てて眠り、俺たちはまた4人で寝るには狭すぎるベッドで寄り添って眠ったのだった。
けれども、今日の俺はまだ起きていた。
今回、俺と抱き枕にする権利を得たのはユリンだ。いつもはフィジカルが強いヒナに粘り勝ちされるのだが、なんか途中からユリンがヒナを攻撃し始めて勝利を収めた。いつもとは逆の、ユリンの粘り勝ちだ。
ユリンの胸と腕のなかにいる俺。背後にいたのはヒナで、なんか俺の代わりにシェリーを抱き枕にしている。フィジカルではシェリーよりも強いので、締め上げられるシェリーは時折呻いていた。悪夢を見ていなければいいのだけど。
「エー先輩」
「え?」
みんなが寝静まってから、ユリンに囁かれる。
「起きてたでしょ?」
「まぁ、な。でも今日はよく眠れそうだ。みんなのお陰だ。ありがとな」
ありがとな、だってさ。みんなから殺されかけておきながら。今さらだけど。こういうのは、愛想を尽かされないよう、あえて言葉にして伝えるのが常識。前世の俺は決して知らなかった要素ともいえる。
「本当は、ふたりも起きてる時に言うべきなんだろうけど。………エー先輩、なにか隠してるでしょ?」
目敏いな。
いや、ユリンなら当然だ。観察眼以外の、第六感も優れているユリンなら、俺の行動ひとつでいくつもの思惑を読み取ってしまうだろう。彼女はそういうところに優れていて、いや優れ過ぎている故にグラディオスを裏切った。次の次の話しになるけど。
「ちょっとだけな」
「その、いつまでも取らない左腕のカバーに秘密があるのかしら?」
「………少しな」
「取って見せてもらえるのかしら?」
「………また今度、機会があればな。そんな面白い内容でもないし。………それよりもユリン。俺も言いたいことがある。………なにがあっても、グラディオスから離れるな。一緒に守ってくれるか? 俺たちが帰る場所を」
「変なこと言うのね。そんなの当たり前よぉ。ここ以外に行くところなんて無いし。だからエー先輩もグラディオスから離れないでよね? ………私、本気で泣いたんだから」
甘やかすように俺の額に唇をつては舐め、とにかく珍しいデレを披露するユリン。いつも寝る時はヒナに独占され、たまに半泣きになったシェリーにその権利を奪われるため、ユリンが俺を抱き枕にした反応の詳細データが揃っていなかったが、この時のデレ以上に勝るデレは存在しない。
「行かないさ。………その時が来るまでは」
死がふたりを分かつまで。俺はみんなよりもずっと早くにいなくなる。
だから、その時までは………せめていつもこうしていたいというのが俺の最大の願望のひとつであった。
ユリンに強く抱きしめられる。確かに去年より大きくなった。感心と安堵で、俺もすぐに寝入ってしまった。やっぱり思い合う誰かが近くにいるのといないのとでは、安眠の質から異なるのだな。
翌日のこと。
俺はシーナに声をかけた。昨日は話す機会と時間がなかった。
朝食前だったので、シーナはライラとともに部屋にいた。ちなみに同居人たちはまだ夢の世界だ。行き先を告げると不機嫌になりそうだし、黙って部屋を出た。
まだ起床時間には早い。20分くらい前だ。早急にメッセージを送信しようとして、諦める。脳内チップの制限は解けておらず、しかし順調な回復を促すだけあって、目覚めの良い朝だった。通路に出ると端末でコールする。
10コール目でやっと出たシーナ。
『はいはいもしもし。私の安眠を妨げるクソ野郎め誰だよクソが。サタンよ目覚めよ。女の安眠を妨げしバカタレに死の制裁を与えたまえ………』
「暗黒詠唱してねぇで目を覚ませ。今からそっち向かう。5分で着く」
『はぁ? って、なんだよエースか。………うげ。まだ6時にもなってねぇじゃん。ふざけんなよぉ。二度寝させろよぉ………はいはいわかったわかった。冗談だから。黙るなって。せめてツッコメや。………まぁいいや。5分後な。ライラはまだ寝てるから。来ていいよ』
「悪いな」
せっかくなら、昨日に話し合えればよかったのだが、生憎体調を優先したかったのでできなかったし、シーナにも仕事があった。よって、ふたりの仕事が始まる前が一番ベストだったのだ。
通路を渡って5分でシーナたちの部屋の前に着く。ブザーを鳴らさずノックした。せっかくライラが寝ているなら、彼女まで起こしてしまうことになる。
「いいよ。開いてる」
「悪いな。朝早くに」
「いいよ。別に。私もお前と、話しがしたいって思ってたところだ」
通話では不機嫌だったのに、部屋にいたシーナは対面してみると平然としていて安心した。早朝の訪問を無礼だと咎められると恐れていた。
「で、話しって?」
「お前、今日の予定はなんかあるか?」
「そりゃお前。整備の仕事があるに決まってるだろ。お前が持ち込んだ新しい機体、リヴァイヴだったか? あれについて、みんなヒィヒィ言いながら解読してたんだからな。クソ面倒くせぇもの持ち帰りやがって。深夜まで作業が続いたんだからな。床に這い蹲って感謝しな」
「相変わらず口の減らねぇハムスターだ」
「ブチ殺すぞテメェ」
そうそう。シーナとは毎回こんなやり取りをしてた。脅迫を受けても感慨深くなった俺は、頭がおかしくなったのだろうか?
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