もう戻れないA04
シャワールームは彼女たちの手によって、相変わらずの魔改造が施されていた。
もう男の部屋ではなくなっている。またなにか増えて………はいないものの、なんていうか色々な香水をブレンドして薄めた香りが充満していた。
シェリーの長めなキスから、痺れを切らせたユリンが後頭部を横にスライドさせて外すという危険な力技で解放され、背後にいたユリンから顎を掴まれ強引に唇を奪われそうになった時にヒクヒクと鼻を動かすと「やっぱりバレちゃうかぁ」とヒナが苦笑した。
「ごめんねエー先輩。このお部屋、さっきまで急いでお掃除してたんだ」
「掃除? それは良いことだし謝ることでもない………あー、そうか。なるほど」
考えてみれば簡単なことだ。
俺が不在となって気力を失った3人が、まともに動けるはずがない。俺でもそうなる。復讐にすべてを費やそうとして、いつもの生活を犠牲にした結果、この部屋の衛生レベルが極端に低下して、借りていた俺が帰ってくる前に元通りにするべく奮闘した結果、臭いだけはどうにもできず、試行錯誤したというわけだ。
「いいよ。そんなの。気にしてない。それよりも………」
「わお。積極的ねぇ」
ユリンに感心される。
俺は一歩下がると両腕を広げて、正面のシェリー、背後のユリンとヒナをまとめて抱擁した。普段だったらひとりひとりに向き合うってスタンスが、この時だけは強欲に、欲しいものすべてを手中に収めた。
誰も拒否はしなかった。むしろ自ら動いて、俺の胸や背に腕を回しつつある。こんなことするの、ドイツ支部で特務を終えた時以来だったからな。正面にいたユリンの首筋に顔を埋めてみる。柑橘系の香りがした。それを胸いっぱいに吸い込んでみると、胸の奥で疼きが強くなる。
「まあ、なにがしたいのかはわかっていますけどね」
「よく頑張ったねエー先輩。もう、我慢しなくていいからね。私たちも我慢しないから」
シェリーとヒナはよく俺のことを理解してくれている。そしてこれから、俺は彼女たちのディナーとなる。メインディッシュはここからだ。
まずは感触を全身で確かめる。ここにいることの証拠だ。彼女たちの首筋に顔を埋めて香りを頬張る。それぞれの個性が出る甘い香り………のなかに若干汗が混じっている。かなり急いで掃除をしていたのだろうな。
けれどもそんな汗の匂いも嫌いではないのだが、今から関係なくなる。
というか彼女たちの早技が早速炸裂する。6本も腕があるんだ。着ていたジャージが瞬時に剥ぎとらえる。
「あ………」
上着やインナーシャツまで脱がされると、嫌でも目に入ってしまうものがあった。そのせいで3人の手が止まる。
傷痕だ。過去の怪我のものなら医療ポッドのお陰である程度は消えたが、拷問された際にできたものだけは完全には消えていない。
「………見苦しかったら、ごめんな。俺のことを拾って助けてくれた奴がいるんだけど、そこに医療ポッドなんてなくてさ。俺の体内の医療用ナノマシンを全部使って傷を塞いだだけだから、まだ傷痕が消えてなくて………こんなボロボロの体、グロくて嫌だったかな………」
俺にとって、この拷問で受けた傷は勲章だった。それが独りよがりの強がりで、誰にも………なんなな同じ境遇のシーナにも理解してもらえない感情だろう。
この傷は本来、本編でライラが受けるものだった。生きたまま麻酔もせず体をバラバラにされ、出血を止めるために傷を焼かれる。切り傷と火傷痕なんかが、俺の体の至るところにあった。
元日本支部跡地の富士ドックで最優先で拷問された時と、ビーツとアークによって付けられた傷を治し、塞ぐ。俺の体内に貯蓄していたナノマシンは無制限ではない。量に限りがあったから、傷痕の修復なんてできたものではない。傷を塞いだら、あとは自力で治すしかない。新しいナノマシンを注入したなら、なおのこと。
でも今後は、傷にも………それもほんのちょっとの擦り傷にも注意しなければならない。解散後、カイドウに忠告を受けた。
新しい傷を治す過程で、もしかしたらそこが金属化してしまうかもしれないとのこと。顔になんてできたら、いつまでも誤魔化すことはできない。前世で見たアニメシリーズの、歴代ライバルやボスキャラが付けていた仮面でも被る………いやそんな趣味は俺にはない。
このまま機体に乗り、オールパーパスジャケットを使えば、いずれ俺の全身は金属化して、死ぬ。
その宿命が、脳内チップの副作用で思考の機械化の抑止を性欲で活性化させようとした俺に、人間らしい思考が戻ってきた途端に恐怖が今さら戻ってきた。
けど今は、その恐怖を隠す。自分を誤魔化すことなんて朝飯前だ。慣れてる。
「………大丈夫。大丈夫だよエー先輩」
「傷程度で怯むはず、ないじゃない」
「また生きて会えたんですもん。それくらい受け入れます」
………強いな。3人は。
見ることすら怖いはずなのに。なんなら照明を消す妥協も考える………いやそれ以前に、グロさに泣き叫んで逃げ出すの可能性もあったのに。
ヒナとユリンとシェリーは、傷痕を撫でて、優しくキスしてくれた。
「エー先輩。シャワー、浴びても大丈夫?」
「そのくらいなら大丈夫………お、おいおい。3人で入るのはさ、狭くて………手が動かせないぞ?」
なにが可能か、どこまでが許容値なのかを質疑応答、感触で確かめる3人に、グイグイとシャワールームまで押し込まれる。
本来ひとりで使うことを想定された空間なのにな。両手を伸ばすと指先が壁に触れてしまう広域なのに。そこに4人入るのは狭すぎる。体を洗えたものではない。
「これは効率を考えたシャワーよぉ。………って、エー先輩。これ初めてじゃないでしょお? もう忘れちゃったのぉ?」
妖しい眼光を飛ばすユリン。ゾクリとする。獲物を狙う肉食獣の笑み。原作ではこの笑みにソータのメンタルが半壊しかけたが、俺に向けられるとその度合いも異なる。「覚えてないなら好都合。その初々しいリアクションを堪能するわぁ」てな具合だろう。
「い、いや覚えてるけど………う、ぉお!?」
なにやってんだご都合主義光線と湯煙ぃ!?
シャワールームに入った瞬間、全員が衣服を脱ぎ捨てやがった。なんていう早技。俺も押し込まれながら下まで脱がされる。「濡れちゃうからねぇ」だってさ。なんて手慣れた手付き………違う。最早彼女たちは衣服を脱ぎ捨て全裸になることに躊躇いがない。目の前に広がる桃源郷。
このアニメはR-18指定なんか入ってないんだから、モロ見せはいけないって! OVAでもこんなことやらないって。せめてDVDやブルーレイの特典でディレクターズカットとかそういうエディションで描かれるものなのに………いや、やめよう。そんなことばかり考えていては彼女たちに失礼だ。
誰かがパネルに触れてシャワーを出す。頭上から降り注ぐ適度な温水に全員が降り注ぎ、普段とは異なる姿になる。髪が濡れただけで大分印象が変わるけど、美しさに変わりはない。
で、なにが大変って、狭いからみんな密集するしかないので、ゼロ距離になっちまうってこと。パーソナルスペースもクソもない。
「シャンプーいくよぉ」
ヒナがボトルからシャンプーを抽出する。6本の腕が俺の頭部を襲う。揉みくちゃにされるが不快感はない。全身に当たる柔らかさとか、温水で濡れた肌の感触で正気を保ってもいられない。
「本番よぉ。ボディソープ………さぁエー先輩。何秒耐えられるかしらぁ?」
ユリンが怪しく笑う。
はは………性欲に抗えず、勝つ気もないカスの帰還です。
そこからなにがあったかって?
もう、すごかったです。どこでそんな技術覚えたのかって尋ねたら、アーカイブにあったなにかの映画に影響された、レイシアが伝となったとか。
やっぱりね。そうだよね。やっぱりあのイカれたカウンセラーが元凶でしたっと。
ブクマ、リアクションありがとうございます!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




