因縁との決着C02
視線が集中するなかで、シーナと入れ替わって懐かしい面々がコクピットのハッチを潜る。
「よう、エース! しっかり足ついてるかぁ?」
「幽霊なんかじゃねぇだろうなテメェ!」
なんともテンションが高くてブラックジョークを飛ばしてくれる兄貴たちだこと。
カイドウの弟子たちだ。シーナは意識レベルの確認をして、コクピットから運び出す役目を先輩に譲った。
なにせ新しいオリジナルガリウスだ。どんな機体なのかわからない以上、いつものようにハーモンとコウに運び出してもらった結果、知らない内にどこかに触られて誤作動が発生してしまいかねない。機械に慣れている人員で作業を行った方が迅速なのだ。
えんやこらと担ぎ出される。兄貴たちの肩に腕を回し、ズルズルとコクピットから全身を脱出させることに成功した。
「コウ、頼んだぜ!」
『了解した!』
リヴァイヴは片膝立ちの姿勢で停止しているため、甲板からコクピットまでまだかなりの高度がある。昇降のために十二号機が補助に入り、俺たちは十二号機の手の上に乗った。
リヴァイヴを降りても眩暈が続く。数秒だけ眠った影響だろうか、意識だけは保つことができた。あとは気合いで立ち上がる。
十二号機の手から降りる。甲板の上で待っていてくれたクルーたちとは、まだ20メートルほどの距離があり、妙な沈黙が続いていた。
待望の再会。しかし果たしたからといい、互いに最初の言葉を決めていても、感情が追いつかない。
クルーは「あ」だの「う」だの言いかけては消えてを繰り返し、なにかを伝えようとしているのだが、どうにも煮え切らない。
ヘルメットを外してみる。脳内チップを酷使した影響で鼻血でまた溺れそうになったのでバイザーを上げていたのだが、生乾きになって、どうにも気持ち悪かった。
やっと素顔を晒した影響が大きかったのだろう。やっと数名が前に出た。
「………心配かけちゃったな。ごめんな。でもこのとおり、生きてるから。ほら、来いよ。ヒナ。シェリー。ユリン」
多分、それでもまだ半信半疑なのだろう。自分は夢を見ているのではないかと。とても都合のいい夢を。
その夢の続きを見たら、もう戻れなくなる。夢から覚めた時の絶望で、今度こそ精神の崩壊は免れない。そんな警戒をしつつも、呼ばれたことでフラッと前に出る3人。
恐る恐る。ゆっくりと。一々足の感触を確かめるような歩き方をするのは仕方ない。それだけ恐れ、警戒しているのだから。
ゆえに俺は強引な手段に出た。
これは彼女たちにとって、都合のいい夢などではないと教えてやるのだ。大きく踏み出す。
「お、あっ!?」
「エー先輩!」
ところが、たまにならいいかと格好つけて男らしいところでも見せようかと踏み込んだ途端、足の感覚が消えたように力が入らなくなり、踏ん張りがきかず傾倒してしまう。
このたまらなくダセェ大失態が恥ずかしくて、甲板を転がったあとで号泣することを確信したのだけど、そうはならなかった。
というのも、ヒナたちがすぐに駆け寄り、倒れる寸前で支えてくれた。
いやこれは、どちらかといえば別の目的があって俺に手を伸ばしたのだろう。
俺の体に触れた手。それだけでは足りぬと3人が全身を支えにして受け止める。どちらかと言えば俺が圧倒されて、今度は後傾しそうになるも、彼女たちの腕がこれでもかと絡まって、俺が離れることを許さなかった。思わず「ぐえ」と声が出た。
「………エー先輩、だよ………ね?」
「ああ、そうだよ。サフラビオロスのアスクノーツ学園整備科2年。みんなの先輩。グラディオスに志願後は整備士だったけどパイロット扱いになってミチザネ隊に入って副隊長になって約半年後に少尉になり、2週間くらい前に消息不明だった。ってなところかな? 他に………俺がみんな大好きエー先輩って証明できること、あるかな? なんか思いつくことある?」
軽く経歴を述べてみるも、そんなプロフィールは記憶してしまえば誰でも唱えられる。
いやそれ以前に、脳内チップを搭載して腕の端末からIDを引っ張り出せる時点で本人だって証明できるのだけど、一度死別しかけた男女の問題っていうのは、そんな機械的なもので納得はできないよな。とはいえ別のなにかで証明できるのかといえば、その術を彼女たちに委ねるしかないのが現状なのだけど。
ヒナは俺の正面にいた。俺の胸に顔を埋めて、しかし泣いてすらいない。感動の再会にしたかったのだけど、彼女たちが俺のことを認めてくれないのでは、やはりなにも始まらないか。
それに比べて俺はなんて正直なんだ。2週間どころか下手すりゃ3週間は期間が空いてしまったせいで、欲望が強くなる。抗えなくなる。こういう時に限ってだよ。まだその時じゃないってのに。ヒナたちの香りと感触のせいで、肉欲の衝動だけが強くなる。
「………エー先輩なら、わかる問題を出します」
「う、うん」
欲望が暴走したせいでヒナに逸早く察知される。助けてくれ。でなければ離れてくれると嬉しいのだけど。
「エー先輩、いつも私たちの下着とか見られるよね。なら私のスリーサイズも答えられるよね」
「………はい?」
「少なくともトップとアンダーくらい言えるよね」
「………正気か?」
ここでそれを言えと?
全員が見てる前で、それを言えと!?
ヤバイ。かなり離れていたせいでヒナの頭がおかしくなっている。自傷と俺の公開処刑でも兼ねてるのか?
ほら、見てください。ヒナさんたち振り返って? みんなが軽蔑するような目を向けているよ? ………あ、俺にだけ? ああ、そう。
「………上はひゃくじゅ」
「ゴホンッ!!」
ナイスカット、クランド。
俺が社会的に死ぬところだった。
「ごめん。他の質問にしてくれない?」
「………いいよ。もう。こういうところが、エー先輩だってわかってる。間違いなく………エー先輩だ………」
試しやがったか。これで即答できたら危なかったと。
そんなヒナたちに抗議しようとすると、やっとヒナとシェリーとユリンが震え始めた。やっとか。やっと泣いてくれた。
そんな号泣を契機に、俺はなんとか両腕を拘束から抜いて3人を抱きしめる。
やっと帰って来れた。嬉しくてたまらない。
けど今は彼女たちばかりを優先してもいられない。
みんなを見て、手を差し伸べた。
ヒナたちが俺が俺であることを証明してくれた。それでなにか、緊張の糸とでもいうものが切れて、全員が俺に殺到する。
「エー先輩!」
「お帰り。エー先輩!」
「よかった………本当によかった」
みんな泣いてら。
俺もやっと、また涙を流すことができた。
クルー全員が交代するように俺を抱きしめる。
その感触は、俺が勝って、生き残ったというなによりの証明であった。
ヒナたちはあとで説教だ。………あ、でも返り討ちに遭うか。
それでもいいさ。みんなとまた、一緒に始められるのなら。
リアクションありがとうございます!
遅くなってしまい申し訳ありません。
イカれた再会でした。感動の再会シーンを書きたかったのになんでこうなるんでしょう? 作者が熱中症だからでしょうか?
作者からのお願いです。
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