因縁との決着C01
待望の瞬間が訪れた。
ドイツ支部を震撼せしめ、アメリカ支部の艦隊を恐怖に陥れた元凶、ビーツが搭乗する漆黒のイレイザーが大破。
顔と四肢を切断され、胴体のまま牽引───する俺のリヴァイヴを運ぶ通常色のソータのイレイザー。
正直俺も限界で、指ひとつ動かせない状態だった。見かねたソータがリヴァイヴを支えてくれなければ、今頃ビーツとともに海水浴が決定していた。
漆黒のイレイザーはドイツの旗艦のひとつ、コーネリアが乗る艦に降ろされる。一部始終を見守る。大勢に包囲された漆黒のイレイザーは、あらゆる手段を持ちいられて、数分後にやっとコクピットハッチが開き、ぐったりとしたビーツが拘束され、運び出された。俺もそんな具合の体調だ。抵抗なんてろくにできたものではない。
アリスランドは制圧済みで、必要最低限のクルーを残し、大勢がレクリエーションルームに集められているという。しかし首領のビーツが意識を失うほどの重体だ。敗戦のショックで、もう抵抗する気にもなれないだろう。
漆黒のタキオンも漆黒のイレイザー同様にコクピットのハッチをこじ開けられて、アークが拘束を受けて降ろされる。意識はまだあるようで、呆然としながらリヴァイヴとイレイザーを交互に見ていた。アークはアリスランド側でこそあるが、処遇はどちらかといえばクルーより重くなるだけで、死刑にはならないだろう。というか原作でアークは死刑になってないし。そこは自信を持ってソータに教えることができた。
コーネリアは艦の甲板にいて、俺のリヴァイヴを見上げて敬礼して見送ってくれた。マジでかっこいいなこのひと。
『エー先輩。全部終わったよ。………帰ろう。グラディオスに』
「ああ。そうだなぁ」
すべてはこの時のためにってか。
ソータはグラディオスに進路を向ける。オペレーターに甲板に緊急着艦する旨を伝えると、すでにクランドも予想していたようで、先に緊急着艦しているガリウスはすでに収容し、かなりのスペースが空いている上にハーモン、コウが着艦の補助をするといって待機しているとか。
鮮やかな手際だ。
そうでなくちゃね。グラディオスはいつでも整然としていてスマートで無駄がない。
乱雑としていてパンパンに詰め込んで無駄でしかないのは、俺が貸与している部屋のクローゼットや洗面台くらいだ。ひとり用なのに、ヒナたちも使うと言って、俺より多い私物を積載するから、開ける度に戦場と化す。洗面台なんて石鹸や歯磨きセットがあればいいのに、化粧水だのメイク道具だのと、いつの間にか芸能人御用達の化粧台みたくなってたんだもんな。
そんな思い出が浮かんでは消えてを繰り返す。
いや、消えることはないけど、とにかく走馬燈みたいに昔から現在までの膨大な量の記憶が思い浮かんでくるのだ。毎秒更新されていくみたいで、頭がパンクしそうだった。
『先輩………エー先輩。ほら、あと少しだから頑張って。もう近いよ』
「お………あー、そっか。寝てたか?」
『少しだけね。でもあと少しでいいから頑張って。せめてみんなに、生きてるってことを教えたいんだ。せっかく会えたのに意識が無いんじゃ、我慢できなくて発狂しそうな女子が3人くらいいるから、怖いんだよ』
「はは。言うようになったねぇ、お前」
本当に、第1話と比較して、ソータはなんでも言うようになった。
サフラビオロスのアスクノーツ学園に在校した頃からソータはどこか消極的なように見えて、かなりずぼらというか面倒くさがり屋というか、とにかく頭脳が優秀すぎて動く前から結果がわかってしまうところが多かったんだと思う。だからあえて言葉にするのが馬鹿馬鹿しいと考える傾向にあったんだな。
それが今は、やっとなにもかも思い通りにいかないし、動いても考えても結果がわからない刺激的な日々。パイロット業は過酷だしメンタルにも来るが、仲間と環境さえ整っていれば、ソータにとって天職だったんだな。
だから明るいし、よく喋るようになった。とても良い成長だ。
『こちらグラディオス。イレイザー、聞こえますか? 予定どおり九号機、十二号機が待機しております。誘導はこちらが担当しますので、指示通りに飛翔してください。進路そのまま。風向き良好。速度を維持してください。エース少尉。お久しぶりです。お帰りなさい。よくぞご無事で………少尉? エース少尉? 聞こえますか?』
『ブリッジ。エー先輩の意識があるのは確認しているけど、脳内チップのキャパシティを限度まで使用している疑いがある。まだ大丈夫だとは思うのだけど、念のためドクターを呼んでほしい』
『っ………了解しました。衛生科に出動要請をかけます』
なにもそんな大袈裟にする必要はないじゃないかと苦言を呈そうかと考えたのだけど、なんていうか、お約束というか。事ある度に俺はレイシアたち衛生科に捕縛されては虜囚がごとくメディカルルームにぶち込まれたんだよな。
今となっては全部が懐かしい。離れていたのは2週間と少しなのに、微かに開いた双眸から見える白い艦影の輪郭が、焦点を合わせて明確になりつつあり、はっきりと鮮明になった頃に、ようやく俺は帰るべき場所に来たのだと実感した。
嬉しい。
ほぼ不可能に近かったかもしれない。下手したら死んでたかもしれない。
奇跡が連続して積み重なり、今こうして俺はここにいる。
『エー先輩!』
『ソータ、こっちだ! そのまま降ろせ! 絶対に受け止めてみせる!』
『わかった!』
ハーモンとコウも、嬉しそうにしやがって。泣くぞ? ………あ、泣いてたわ。
無意識のうちに涙が溢れて、自分でも気付かなかった。
オペレーターが誘導し、ソータは相対速度を合わせつつも、リヴァイヴを九号機と十二号機に託す。
大したもんだ。この前まで一般人だったのに。乗ってからまだ1年も経ってないのに、丁寧かつ繊細な操縦でリヴァイヴを受け止めやがった。衝撃なんてほぼなかった。高いところから割って落とした生卵を黄身を潰さず、白身をこぼさないような丁寧なキャッチを成功させたイメージ。
『奇跡を見せてもらった。大したものだ。エース・ノギ。いや小此木瑛亮。リヴァイヴは引き続き、きみに預ける。その力の使い方を間違えない限り、私はいつでもきみに応えよう。だが今は、私は引っ込んでいることとする。用があれば呼びたまえ。すぐに応えを返す』
ケイスマンの意志は疑似インターフェースを解除して、自動操縦に切り替える。つまりハルモニにすべて譲渡した。
「あ………」
顔を上げる。甲板にクルーの大半が集まっていた。
全員がリヴァイヴを見上げている。整備士たちが駆け寄って、ハルモニに命令しながらコクピットハッチを開かせた。
「本っ当………お前、無茶で馬鹿だけどさぁ………素直に認めるわ。マジですごいよ。お前。原作以上の奇跡を起こすなんてさ」
「馬鹿は余計だ………でも、お前だってやるじゃねぇか。俺が不在のなかで、ビーツを出し抜いて犠牲をゼロにした。それはきっと、誰にでもできることじゃない」
最初にコクピットに潜り込んだのはシーナだった。
俺の無二の協力者。そして第3の転生者。俺たちの本当の関係だけは、誰にも知られてはいけない。
長く会話を続けていては疑われる。それ以上は語らず、軽めのタッチをして、シーナはコクピットから出て俺の状態を全員に報告するのだった。
ブクマ、リアクションありがとうございます!
体調不良のためストックが作れませんでしたので、本日は2回とさせていただきます。ご了承ください。
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




