因縁との決着B21
プレートは両翼に計8枚懸架されている。
ワイヤーとする液体金属には、俺に注入したナノマシンと同じものが入っている。そのふたつのナノマシンをリンクさせることで、俺のイメージが明確に伝わるのだ。
液体金属は刺激次第では超高速で変形する。伸縮も自在で柔軟性に富み、重力下なら最大で40メートルは伸ばすことができた。
細くとも筋肉のような繊維体である。
そのしなやかで強靭な繊維に脳内チップとナノマシンをリンクさせることで、ワイヤー自体を動かしてプレートをアンカーのように射出できるのだ。
そしてプレートにも仕組みを施した。ひとつひとつが研磨されブレードの役割を担いつつ、中央には小さな噴出口がある。
プレートに内臓された噴出に高圧縮をかけたガスを発射することで、先程のようなビーツが漆黒のイレイザーに纏おうとしたジェノサイドジャケットを内側から破壊することができる。
攻撃以外にも転用できることから、多目的の名前をとって、オールパーパスジャケットと冠することとした。シーナ考案の「テンタクルジャケット」は絶対に嫌だ。確かに触手っぽいけど。
アンカーが漆黒のイレイザーに迫る。一瞬反応が遅れつつも、漆黒のイレイザーは持前の敏捷力で包囲網から脱する。
しかし、それは漆黒のタキオンと交戦中のソータが許さなかった。
『ぐっ!』
脱出を試みたばかりの漆黒のイレイザーが、急制動をかける事態となる。その進行方向にマルチプルジャケットに装着したビームキャノンが放たれた。ノールックで的確に当てようとするなど、常人にできることではない。
覚醒の影響だ。今やこの空間は、すべてがソータの監視下にあると言っても過言ではない。ソータには見えている。肉眼ではない。感覚で捉えている。
「逃げずに戦え、だとよ!」
『ぬぅううううう!!』
ついに言い訳も反論する余力もないのか。唸りながらオールパーパスジャケットのアンカー群に突撃した。
だが自棄になったにしては機動力が冴えている。避けなければならない攻撃に瞬時に対応した。
「やっぱ疑似的にとはいえ、覚醒が使えると違ってくるか………化け物野郎!」
『黙れ出来損ない………俺は、こんなところで潰えていい男ではない!』
「知らねえよそんなこと!」
ついにアンカー群を突破した漆黒のイレイザー。提げていたライフルを発砲。ビームタイプ。
「っ………!!」
感覚をフルに。ビーツの疑似覚醒に、通常の俺の感覚では追いつかない。カウンターとして用意したナノマシンを作動させ、漆黒のイレイザーに対抗する。
『なるほど………至近距離で見て、やっとわかった。その鉄板ではないな。アンカーに液体金属を………いや違う。その機体のフレームにも利用したか!』
この短時間で看破されるとは。最後まで見破られることはないだろうと慢心していた。
ライフルで撃ち合う。至近距離からの乱射。アンカーを回収し、大きくサイドに飛翔すると漆黒のイレイザーも対応。ループしながら射撃戦へと持ち込む。
『エース! やはりイレイザーなる機体に対抗するには無理がある! システムに異常発生。ナノマシンの消耗が早い。長期戦に持ち込むのは不可能だ!』
これまで俺のバックアップをしてくれていた人工知能、ケイスマンの意志が警鐘を鳴らす。
「それでもやるしかねぇだろうが! 消耗って意味なら、向こうだって同じだ!」
漆黒のイレイザーとリヴァイヴは撃ち合いに持ち込んでから、被弾率は若干漆黒のイレイザーが高くなってきた。こちらはオールパーパスジャケットのアンカーを射出し、プレートで防御をしている。ビームなら数回は受け止められる。排熱と冷却を交互に行わせるべく、ローテーションを組んでアンカーを運用しなければならない。機体の操縦とアンカーの操作を同時に行うと、やはり脳内チップのキャパシティの消耗も早くなる。
すでに装甲にダメージが入っていた。フレームには届いていないのが幸いでもあるが、確かにビーツと長期戦に持ち込むのは分が悪い。
だが、それはビーツも同じだ。疑似覚醒は脳への負担が大きい。
機体、パイロットともに、同率の消耗をしている。
俺たちは命を削り取る勢いで殴り合っているのだ。
『ぐっ』
「くっ」
その時だ。至近距離で撃ち合い、漆黒のイレイザーがループを逸れてライフルで殴りに来た時、ショートライフルで受け、殴り返しては防がれるという接近戦を行って10秒後。リヴァイヴと漆黒のイレイザーが、なにもせずに横を通り過ぎるという珍事が発生する。
この勝負を見ている第三者からすれば不思議な現象だろう。攻撃もせず防御もせず、ほぼ同時に横を通り過ぎるなど。
リヴァイヴが30メートルほど前進し、停止。漆黒のイレイザーも同じ距離て停止して反転。
『この………疫病神め………疑似覚醒の限界時間まで粘るなど………』
「ハァ、ハァ………それだけじゃねぇよ。お前の脳内チップのキャパシティも、そろそろ限界なんじゃねぇの? まぁ、それは俺も同じなんだけどさ………」
俺の粘り勝ちだ。
ビーツの疑似覚醒にはやはりタイムリミットがあった。ビーツのことだから、どうせ出し惜しみせず全力で駆使していただろうから、それほど時間はかからなかった。
リヴァイヴを製造する前、仮にライラを救うべく拉致事件を未然に防ぎ、無傷の状態でビーツに挑んだとしても………勝てなかっただろう。疑似的とはいえ覚醒には違いない。俺の脳内チップのキャパシティすべてをフル稼働させても届かない領域にいたと言える。
だからリヴァイヴと同調するナノマシンを体内に注入し、征服し、手中に収めつつ新しい能力を得るしかなかった。
それは疑似覚醒に届かなくとも、感覚を増幅する能力だ。アドレナリンの過剰分泌で、周囲で動くものすべてがスローモーションに見える時のような感覚を、自分の意思で発動し、対抗した。
その甲斐あって、またもや勝負は平行線に戻る。
お互いに持てる能力を出し尽くした。ゆえに脳内チップに関するものすべてを封じられる。
しばらく対峙しながら呼吸を整えた。
無言状態が続く。ビーツもわかっている。これからなにをするべきなのか。
『メカニック・エース。これ以上の戦闘行為は推奨できません。脳細胞に多大な影響を及ぼします』
ハルモニが警告する。
「わかってる。だから………脳細胞を刺激しない操縦にするしかない。ケイスマン。疑似インターフェース化して、機体の状態を維持してくれ。………今から鍵を抜く」
『………推奨はしないが、了解した。最後は己の技術と体力と精神か。なんとも泥臭い。が、それがパイロットの根幹であることは否定しない』
やっぱり嫌味を述べられたが、嫌な気分ではない。
消耗戦の果て、俺は機体を動かすために必要となるインターフェースを、スロットから抜いた。
タキオンならまず、それで機能が停止する。エンジンたるレイライトリアクターも緊急停止する。
だがリヴァイヴはそうならない。しばらく機能は維持される。ケイスマンの意志が、疑似インターフェース化してリヴァイヴの制御を行った。
漆黒のイレイザーもそうだ。不本意ながら同じシステムを用意したのだろう。ガクンと機体が揺れたあと、再び元の位置に戻る。
そう。
俺とビーツは、元整備士という出ながらパイロットとして訓練してきた。なんとも数奇な運命だ。
右手を元の形状に戻す。スロットの上にある、長年使用してこなかった操縦桿、プロトタイプガリウスGの時代はよく握っていたそれを、握り込む。やはりよく手に馴染む。左手も同様にスロットルレバーに触れた。足をペダルにつける。
これからやるのは、脳内チップを一切使わない、パイロットとしての決闘だ。
だがおそらく長くは続かない。
勝負は数分………いや、数秒でつくだろう。
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