因縁との決着B17
天使が通ったかのような静けさだった。ほんの一瞬だったものな。ビーツから、俺が大切にしていたものを奪い返すまで。
そのビーツ自身も、なにが起きたのかはっきりと理解できていないようで、ワイヤーで雁字搦めにしていた3機が視界から消えてから、上空で停止した俺の機体を見上げて、ピクリともしなかった。
まぁビーツごときがどんなリアクションをしようが勝手だし、俺の知るところではない。今は放置する。
それよりも、救い出した3機だ。
両翼から伸びるプレート。そのプレートを伸ばす変幻自在のワイヤー。3機に巻きつけて奪い取った。
接触したことで回線を開く。コードは以前と同じままだ。
「ヒナ。シェリー。ユリン」
『げほ、うぇ………え?』
『まさか………』
『う、そ………』
3人とも、似たようなリアクションしてくれちゃって。
「久しぶりだな。元気してた………わけないよな。俺だって、お前たちのうちひとりでも誰かに殺されてしまったら、復讐に憑りつかれてた。気持ちはわかる。だから、ビーツに無謀な特攻を仕掛けに行ったことは咎めはしないよ。ともかく、再会を喜び合うのはもう少し我慢してくれな? あの阿呆をわからせねぇといけない。飛べるな? ここはいい。下にいるみんなと合流するんだ」
咽ていた3人が、やっとまともに声を出せるようになった操縦もできるだろう。ワイヤーを緩めると、メインスラスターを起動して、ホバリングをする。
けれども、3人はまったく俺から離れようとはしない。気持ちはわかるけど。
『待って………ねぇ、待ってよ………エー、先輩?』
『生きて、る? 本当に?』
『あは、は………これ、もしかして夢なのぉ………?』
通信越しでもわかるくらい、ヒナたちは泣いていた。
もうこの世にいないと諦めていたのに、いきなり戦場に現れて窮地を救う。いったいどこの主人公だよって笑ってしまえるくらいの、でき過ぎたシチュエーション。
ヒナたちが感涙してしまうのも無理もない。
そして夢なら醒めてほしくないと祈りつつ、ビクビクしながら現実なのかを確かめる。
二号機が伸ばしたマニュピレーターが機体の装甲に触れた。軽く押し込まれる。そこは退くのではなく、軽く押し返す。自分の操縦以外で生じる手応えを実感させるために。
『生き、てた………』
「遅れてごめんな? いや、つい先週までマジで死にかけてたんだよ。通信しようにも機体が大破してたし、ハルモニのバックアップも届かないし。打つ手なしってさ。それでも機体を作り直して、やっとここに来ることができた。………言いたいことは山のようにあるだろうけどさ、それは一旦引っ込めておいてくれ。あとで全部、ちゃんと聞く。さっきも言ったように、ビーツをどうにかしなきゃだろ? だから下にいる隊長たちを助けてやってくれ。あんな状態で飛べるのも奇跡みたいな損壊具合だ。グラディオスに戻って、俺たちが帰る場所を守ってくれ。大丈夫。俺は死なない」
まずは3人に納得してもらう。
小さな反応だったり、言葉による説得しかできないが、それが限度だ。
ヒナたちはそれでも半信半疑のようで、渋々と降下しながらシドウたちの救出へ向かう。
ビーツは動かない。それはそれで都合がいい。
「さーて、それじゃセットアップを開始しますかね。………距離良し。電波感度良し。ジャマー無し。端末の情報を更新。再構築開始。ID復旧。システム機動。端末所有者、エース・ノギの情報をバックアップデータからインストール。ウェイクアップ───ハルモニ!」
『イェス。メカニック・エース!』
右腕の端末を起動。操作はすべて口頭入力しながら脳内チップでこなす。
すでにグラディオスの直上にいることから、腕の端末から俺の情報をダウンロードし、ハルモニをバックアップデータから復旧。旧データだったゆえにグラディオスから最新のバージョンをインストール。
予想どおりグラディオスでは俺は死亡判定を受けており、すべてのデータが凍結されていたようだが、ハルモニがすべて解凍。
グラディオスと俺の端末の双方で、すべてのデータが揃い、共有されつつも一時的に死亡判定が取り下げられる。つまり俺に尉官としての権力が戻った。目的はハルモニだけだったので、これはついでのようなものだけど。
『エース………本当に………?』
「ただいま戻りましたクランド艦長。それよりも、今はアリスランドをどうにかするのは先で───」
『ほ、呆けるなエース! 後ろだぁ!』
グラディオスと俺がリンクしたことで、クランドも灰色と赤いボディの機体に乗るパイロットが俺だと理解した。
それからきっとグラディオスはお祭り騒ぎ同然の、すごいことになると予想している途中で、クランドが叫んだ。
だよなぁ───そろそろ来る頃だと思っていた。
漆黒のイレイザーがレーダーでは捉え切れない速度で接近。堪え性のないやつめ。そのまま大人しくしていれば、こっちから出向いたものを。無視するなと訴えるような激昂が操縦に載っている。だからなんだよな。じっとしていた方がまだマシという理由がそこにある。待っていれば俺から出向いた。恥をかくこともなかった。
『おこの───』
「ソータ!!」
『もうやってる! 食らえクソ野郎がぁああああああ!!』
漆黒のイレイザーが動き出したと同時に、白銀のイレイザーも動き出す。
ビーツは背後にいたが、ソータのイレイザーはギリギリで視界に捉えていた。ヒナたちが解放されると同時にコクピットに飛び込んでいった。そしてタイミングを合わせた。
俺の機体を背後から強襲しようとした漆黒のイレイザーが、ソータの白銀のイレイザーの渾身のドロップキックによって遠くへ弾き飛ばされる。
「ソータ。ナイスカット」
『やるよ………何度だって』
「うん?」
『あの日、エー先輩を助けられなくて、ずっと後悔してた………でもエー先輩は戻ってきてくれて、あの日の後悔を払拭させてくれるチャンスをくれた………もうこれからは、何度だって………誰になにを言われようが、エー先輩を守る! もう嫌なんだ! エー先輩のタキオンが海に落ちていく悪夢を見続けるのは! もう、相手が誰だろうが関係ない。俺が全部ぶっ壊して、エー先輩を守る!』
ソータめ。エキサイトするあまり、覚醒を再び使いやがった。
この場に漆黒のイレイザーと漆黒のタキオンがいる時点で、ソータは一度は覚醒を使ったはずだ。この2機を、いやふたりを相手にするのなら覚醒しなければ生き残ることはまずできない。
かなり激情していたに違いない。覚醒の条件はマイナス、ネガティブな感情を爆発させることが基本であるが、今回はプラス、ポジティブな感情を爆発させることで発動できるとも判明した。
白と黒、表と裏。陰と陽。対極にあるものを混ぜて爆発させた覚醒は、未知数だ。
「言うねぇ。じゃ、アークをどうにかしてきな。手も口も出させねぇ。俺は予定どおりビーツを片付ける。とっとと終わらせて、グラディオスに帰るぞ」
『うん!』
ソータは嬉しそうに返答する。どれだけ俺に懐いてくれているのかがわかる。
『メカニック・エース。機体をグラディオスに登録します。機体の名称を教えてください』
「リヴァイヴ。タキオンの後継機。俺が作ろうとしていた、最終決戦用のガリウスだ」
『イェス。新たな機体、リヴァイヴを登録しました。また共に戦えること、嬉しく思います。ご武運を』
「あいよ。サポート頼む」
『イェス』
ハルモニが応える。俺に必要だったピースが揃っていく。
ソータは漆黒のタキオンと決着をつけるべく飛翔する。
遠くの海を見やると、イレイザーの蹴りで海に叩き落とされた漆黒のイレイザーが、ゆっくりと浮上してきた。
「よう、ビーツ。決着をつけに来たぜ」
『死に損ないが。………ふ、ふは、ははははっ』
ビーツは狂ったように笑い出す。
これまでにないリアクションだった。
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