因縁との決着B16
確かに、聞こえた。
グラディオスは今、ビーツとクランドのやり取りが、全艦に中継されている。
私がいるハンガーもまた、そうだった。
ハンガーにあるメインスクリーンには、ビーツによるハッキングの影響もあり、ヒナ、シェリー、ユリンは手足を拘束され、首を絞められて死にかけている映像が映っていて胸糞悪かった。
艦外カメラには白銀のイレイザーから飛び降りて自殺を強要されていたソータや、動くことができないガリウスGたちがいる。
そして分割された最後のモニターに、いつの間にレイシアのところから抜け出したライラが甲板にいて、吼えているところが見えた。
通信にライラの怒号が響く。私たちが叫ぶ気力さえ失ってしまったから、代弁するように。
けれど、私はハンガーのなかで、唯一息を呑んだ。
ライラの言ったことは、間違っていなかった。
すべてが正しかった。
ライラは繋がっていた。意識のなかで。奴と。
それは本来、ソータたちに向けられるはずのテレパシーだ。
本編で人間に拷問され、凌辱され、絶望したライラが人間の姿を捨ててアメリカ支部を半壊させ、移送途中で脱出。グラディオスに襲い掛かる。アンノウンの姿をしたライラがテレパシーでグラディオスクルー、主にソータとアイリに実情を訴え、殺してほしいと告げる。さもなくば憎しみだけが残り、やがて自分も人間を殺す側になってしまう。全アンノウンに最終決戦の合図を送信してしまうからと。
ソータとアイリは逡巡し、しかし襲い掛かってきたライラをソータが迎撃。その望みを叶え、ファンを新たな絶望へと叩き落した。
だが、今はライラは無事だ。ライラが受けるはずだった苦痛と絶望を請け負った狂人がいたから、ライラは愛するひとを手にかけずに済んだ。
そう、ここにいるライラは人類に害をなす存在ではないため、もうお役目を免除されて、出番を失っていた。
それがここにきて、絶好のポジションにいる。
ライラはテレパシーを送り続けた。遠くの空の向こう、死んだと思わせて、実は生きていたあの狂人に向けて。
「そうか、そうだったんだ………はは………すげぇ。あいつ、やっぱ………生きてた」
「シーナ? なに言ってやがるテメェ」
腕を抱き、その場に崩れ、泣きながら笑う私に、カイドウは怪訝な目を向ける。そりゃ、こんな絶望的な状況で泣くならともかく、笑ってしまうと正気を疑われるよな。
でもいい。そんなこと、どうでもいい。いくらでも疑われてやる。
「おやっさん。もう大丈夫です」
「は、はぁ?」
「あいつが帰ってきます。もう、なにも心配いらない。全部、また全部がひっくり返る!!」
私の言葉を、カイドウ含め全員が疑っていた。なにがひっくり返るのかと。
だがその疑いは、次の瞬間に私の正しさが証明されることになる。
聞こえたのだ。ライラの怒号に続いて、
『あいよぅ。ライラ』
という確かな応えが。
聞き間違いなんかじゃない。ハンガーに、いやグラディオス全体に雷が落ちたかのような衝撃が走った。整備士たちは全員唖然とした。聞き間違いなどではない。全員が同じ表情をするからには。
私たちはメインモニターに視線が釘付けとなった。
「あはははっ! 本当に帰ってきやがった! これが終わったらキスしてやんよあの馬鹿野郎っ!」
もう、笑うしかなかった。
ヨーロッパに突入して、しばらく雲のなかを進むなかで、いきなり計器が故障した。
原因を調べさせる。
『どこかで大規模な爆発が生じたようだ。それがこの機体のシステムにも影響した。電波探知を避けるためレーダー周りの最終調整はやっていなかったからな。少し待ちたまえ。これくらいならこちらで修理可能だ』
人工知能が告げる。
どこかで発生したという大規模な爆発。電波障害を引き起こすほどだとすれば、原因と元凶を考えるまでもない。どうせ、どこぞの馬鹿野郎のせいだ。こういうトラブルの原因は、大体あいつが起因なのだから。
「とはいえ、これは少しまずいな。雲のなかを闇雲に探し回ることになる。直線に飛べばいいって言っても、風で流されてばかりじゃな………うん?」
元日本支部跡地から飛び立ってからかなりが経つ。機体の性能に助けられてきたが、レーダーを失ってしまっては元も子もない。手探りでは時間がかかる。
ところがそんな俺に、俺の頭に、とある声が響く。
『こっちだよ………こっちだよ! はやくきて! みんなが、しんじゃう!!』
「………ライラ!」
テレパシーという非現実的な現象でありながら、電波やある種のメッセージとしてなら、人工知能も微かに受信できるという。俺の脳内チップを介して、そのログを分析した結果なのだという。
『むっ………レーダーはまだ復旧していない。どこに行くつもりだ? この悪い視界のなかで躊躇いもなく加速するのは命取りになるやもしれんぞ』
いきなり雲のなかで加速するものだから、人工知能は非難混じりの警告を出すが、知ったことではない。
「ライラが呼んでる」
『このテレパシーを過信すれば、なにもかも解決するとでも?』
「さぁな。けど、俺は絶対に意味があると思ってるよ。仲間を信じる。それだけの価値がある!」
雲のなかを直進する。毎秒、ライラの声が大きくなる。
これがソータが体感した現象。あるいはそれに近いもの。
「近い!」
『レーダー復旧。しかし、これはまさか………本当にドイツの直上にいるとは』
「戦場は近海とか言ってたな。なら狭い海域より、もっと開けた場所………アイルランドよりも先ってことだ!」
世界地図をプロット。ドイツからデンマークへ北上。北海に出て、イギリスとフランスの間を抜けて、アイルランドより先の海で艦隊を展開しているだろう。
『えーす………えーす!』
「わかってんよ。今行くからなぁ!」
雲のなかで最大加速に達すると、分厚いそれを切り裂いていく。
ライラの声が切迫したものに変わる。仲間が危ない。どうせビーツが調子に乗ってるのだろう。
北海を横断して、イギリスも通過する。アイルランドを横目に、ついに海へ出た。
レーダーを確認する。酷い有様だ。どんな外道を尽くせばこれだけの被害が出るのだか。
より奥を探索する。
───いた。グラディオス。海に浮かんでいる。アリスランドは空中で停止。双方、拮抗状態に入っている。
動かないのには理由があるだろう。ビーツのイレイザーの存在を感知。周囲に………ヒナたち。
グワッ───と体内の血液が沸騰するような怒り。されども辛うじて冷静さは忘れず。
「調子に乗りやがって。あの下衆がぁ」
レーダーで取り込む複数の情報を一瞬で処理。なにを優先すべきかをリストアップし、実行に移す。
『やっつけろ! そいつをゆるすな! えーすっ!!』
相当怒り狂ってる。でも、原作でこれから起こるはずだった悲劇とは違う度合いの憤怒。
大切な仲間を傷付けられたゆえの怒り。それは正しい。ライラに必要なものだ。
「あいよう。ライラ」
目的とする空域に到達。雲を引き裂いて進む途中で急制動をかけて、再加速しながら降下。
ナノマシン起動。イメージを反映───実行!
「お前に現実ってものをプレゼントしてやるよ! なんでも罷り通ると思ってんじゃねぇぞビーツッ!!」
両翼に取り付けたプレートが射出され、漆黒のイレイザーの周囲で踊る。
やはりマニュピレーターから放たれた、パイロット殺しの兵器だった。極細のワイヤーなど、ガリウスの武装の前では蜘蛛の糸も同然。
さらに攻撃を受けていた二号機、五号機、六号機を手繰り寄せ、俺の手元に置いた。
「さぁ、逆転劇ってやつを始めようか」
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お帰り、エース。明日から大変だぁ。
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