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因縁との決着B15

「ぐ、くっ………十二号機、十三号機、砲雷科に伝達。砲撃中止」


「っ………承知しました」


 クランドの指示に砲術士がトリガーから指を離す。ただし、隙が生じればクランドが再び砲撃の指示をするかもしれない。完全には指を剥がすことはしなかった。


 グラディオス全体が、またもや殺意の坩堝と化す。ビーツはエースのみならず、子供たちさえ人質にして手をかけようとしている。決して許せる所業ではない。


 ピリピリとした緊張が満ちる。


 クランドの次なる判断を待っていた。


 ビーツは無条件降伏を迫る。人質を取られていても、決して応じることはないが、それでもクランドという人柄を考えた結果、別のなにかを交換条件として差し出すやもしれない。人質交換であれば、その場にいる大人の誰もが代わりに行くと決意していた。


「………レイライトリアクター2基を停止させる。それで彼女たちを解放してほしい」


『話にならない』


 艦の機能を制限することで人質解放を要求するも、突っぱねられる。


 手強いどころではない。すでに犯人の凶器の切っ先が、人質たちの肌に突き立っているようなものだ。ビーツは当然この機を逃したくないだろう。クランドに無理難題を押し付ける。


『アーク。なにをしている。グラディオスのイレイザーを破壊しろ』


『………』


『聞こえないのかアーク。拾ってやった恩を忘れ、お前の居場所を作ってやったのに放棄するのか? ああ、それともお前は、本来お前がいるべき場所だったところを奪ったエース・ノギを許したと? 兄弟仲良く過ごせる機会を奪ったあいつの洗脳が、まさかお前にも悪影響を与えていたとはな。そうかそうか。ならばお前はアリスランドからも居場所を失い、孤独に生きていずれ死にたいわけか。それが望みだというのなら───』


『ま、待ってくださいビーツ艦長! ぼ、僕は………初めてソータと、思い切り話し合っているんです。必ず勝ちます。でも………こんなの、僕が望んだ勝利じゃない! 僕は僕の手で、勝利を掴みたいんです! 人質は………この際どうでもいいとして、ソータとの勝負に割り込まないでください!』


『黙れクソガキ。あーあ、ついに飼い犬に手を噛まれたか。悲しいなぁ。この悲しみを慰めるにゃ、この女たちをあの世に送るしかないってか? ………なぁ、ソータ? お前………かなり強いけど、優しいよな? そんな優しいお前が、仲間たちを見捨てるってか? アークはご覧の通り使いものにならねぇし。じゃあお前に委ねてやろう。俺が許せねぇなら好きにしな? 戦うのもいいだろ。けど、その瞬間にこの女たちは皆殺しだ。それが嫌なら、イレイザーから降りな。簡単だ。コクピットから飛び降りればいいんじゃねぇの?』


「マジで腐ってるよ。あんた」


 人質を取った途端、ビーツはこの空域、海域の支配者となった。


 グラディオスの陣営に限ってだが、絶対的な命令を下せる唯一の存在となったのだ。


 グラディオスの艦載機のなかで、飛翔を可能としながらある程度の自由を保持しているのはイレイザーだけで、そのイレイザーさえ落としてしまえばアリスランドの、いやビーツの勝利は絶対のものとなる。


 なによりビーツが一番危惧していた同型機でありジャケットを付けたイレイザーを、リスク無しで破壊できるのだ。その上お釣りまでついてくる。メリットしかない。


 漆黒のイレイザーの眼下にて、白銀のイレイザーのコクピットハッチが開く。


『おっと。そんなところでなにをしているんだ? アイリちゃんよぅ。勝手な行動は控えな? どうせ、イレイザーから飛び降りたソータを空中でキャッチするためなんだろうけど、そんなことしちゃったら、俺の手元っていうかさぁ、思考がブレちゃうだろおっ!?』


『ぐ、う』


「や、やめて!」


 漆黒のイレイザーの真下、かつ死角となる場所で、密かにハルモニの自動操縦から操縦権を取り戻したアイリが、ソータのためにスタンバイするも、レーダーでその動きを読んでいたビーツ。いや、脳内チップを駆使すれば、アリスランドの艦外カメラとも接続できる。第三者の視点を自分のものにした今のビーツに死角は無いも同然だった。


 極悪人の言動に混じって聞こえる、ヒナたちのうめき声。排熱口から侵入したというワイヤーがコクピットブロックにも達して、今は彼女たちを雁字搦めにしているという。締め付けを強めたのだ。アイリは悲鳴を上げるように中断を願望しながら後退する。


『アークさん! そんなことをする必要はない! ソータを早まらせないでください! 純粋な勝負に勝たないと、ソータは僕のものにならない!』


『うるせぇな。反逆の罪に問うぞ? あー、もういいや。ほらソータ。とっとと飛び降りな? じゃあこうしよう。5秒で1ミリ、締め付けを強めていくぞ? 手足なら痛ぇくらいだが、首はどうかな? 10秒くらいなら息苦しいだけだけど、50秒で1センチ絞まるんだぜ? 100秒じゃお陀仏かな?』


「やめろ………やめろよ、ビーツ!!」


『やめてほしけりゃ死にな? ほら、開始するぜ。………5秒………10秒』


 地獄のようなカウントが始まった。


 その間にもキリキリとワイヤーの締め付けが強まる。


『あ、ぐっ』


『かはっ』


『エ゛………』


 コクピットブロックが軋む音よりも、ヒナ、シェリー、ユリンの苦痛の声が強まる。ビーツの心理作戦だ。わざわざ集音機能を高めて、グラディオスクルーの精神をゴリゴリと削る。悪魔の所業はそれだけで終わらない。周囲の全機にコクピットの内部の映像も映して、確実に死に向かっているヒナたちの姿を見せることでクランドたちをこれ以上となく焦らせる。


『30秒』


『あ………ぁ………』


「やめろビーツ艦長! ビーツ! やめるんだ!」


 クランドが必死に叫ぶも、無条件降伏を了承する旨以外は、ビーツは聞く耳を持たない。


 終わりだ。どう転んでも、誰かが死ぬ。ビーツという悪魔を、もう誰にも止められない。


 全員が、絶望の末に諦めを覚えた。


 敗北。自分たちは、ビーツに負けて、すべてを奪われるのだと。


『50秒………ははっ。やっぱり美人は死にかける顔も綺麗だなぁ』


 イカれていた。猟奇的にもほどがある。


「わかった! わかったから! 飛び降りるから………ヒナたちを、離せ!! ………え?」


 ソータは足を震わせながらハッチの淵へと立つ。死を免れない高度に恐怖する。


 しかし、それよりも………眼下のグラディオスの甲板に、ガリウスG以外のなにかがいることに気付いた。


『60びょ………あ?』


 ソータの視線にビーツも気付く。


 グラディオスの甲板。肉眼では異物然としたものしか見えないが、ガリウスのメインカメラなら拡大が可能だ。


『………はは。なにかと思えば、お前かライラ! 残念だけど、ここにはアンノウンはいないぜ? それとも呼ぶか? だがそれをやったところで………あ?』


 甲板にいたライラは、漆黒のイレイザーを指差して、口をパクパクと開閉させていた。


『や………つ、け………ろ………ゆ、る………す………な………え………す………』


 読唇術の心得は残念ながらないため、漆黒のイレイザーの補助と脳内チップの機能を駆使して、とにかく怒り狂った形相をしているライラの唇を読む。


『やつけろゆるすなえす? ………なんの呪文だ?』


「やつけろゆるすなえす? ………集音機能を甲板に集中させろ!」


 ビーツが唱えた謎の呪文に、妙な違和感を覚えたクランド。


 オペレーターに、復旧したシステムを起動して、甲板で怒鳴るライラの声を拾わせた。


 すると、いつもほんわかとしている彼女らしくもない、まるで龍の怒号のような、荒々しい口調で叫んでいる声が、この空域、海域にいる通信が繋がった全機に、共有されたのである。


 そして、それに応える声もまた───







『やっつけろ! そいつをゆるすな! ()()()ッッッ!!』








『あいよぅ。ライラ』






ブクマ、たくさんのリアクションありがとうございます!

次回、夜の更新でフラストレーションをぶっ飛ばしましょう!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

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