因縁との決着B14
またもや数と質でミチザネ隊が優位となった。オフェンスとディフェンスに数を半分に裂いたガリウスH部隊を、全機で袋叩きにするのはそう難しいことではない。
また、グラディオスは海上を航行しつつも、九号機の補助を受けた十二号機の陽電子砲と、十三号機のヘッドホッグジャケットから繰り出されるマイクロミサイルの嵐に晒され、やはりアリスランドとて無傷では済まなかった。
が、悪魔はそれさえも嗤う。「だからどうした?」と聞き返すように。
「ソータの支援で1機潰した! 残り4機、一気に叩け! その後、アリスランドの推進器を潰し、武装を破壊! 丸裸にする!」
シドウが叫ぶ。
フォーメーションを組む。相性がいい者同士、3人で組んだふたつが先行。
一瞬でガリウスGが鉄塊と化す。引き裂かれ、海に落ちて行く。
残り2機。あっけない直掩に違和感を覚えつつも、シドウはメインカメラに向けてライフルの照準を合わせた、その時。
『いい夢は見れたかな? ミチザネ隊の諸君。それでは、そろそろお目覚めの時間としようか』
「なんだと!? ぐっ!」
七号機の両腕が、いきなり消し飛んだ。次いで物凄い衝撃で、シートベルトをしているにも関わらずコクピットの内壁に何度も打ち付けられる。
異変が起きたのは七号機だけではない。
三号機、四号機、八号機、十号機、十一号機───なんと半数以上が機体を中破させ、墜落した。
「………イ、レイザー………ビーツ………!」
薄れていく意識のなかで、視界に捉えた漆黒の機影。
ここで登場したのだ。アリスランドの最後の切り札。2機目のオリジナルガリウス。ビーツが搭乗する漆黒のタキオン。
最悪である。
無論、油断したつもりはない。あらゆる可能性を危惧していた。
しかしビーツは、シドウさえ考えもしなかった方法で奇襲を仕掛けた。
アリスランドの右側のカタパルトが内側から弾けるように破壊されていた。カタパルトによる二次加速を必要とせず、機体本来のスペックだけで加速した結果、カタパルトが内側から爆発した。それがイレイザーのスペック。理論上の最大加速に達した瞬間、ソニックブームを引き起こし、周囲にあるものを引き裂くだ。
仲間の半数以上が落ちた。いや、被害はそれだけに留まらない。
漆黒のイレイザーが轢き倒したのは、なんと自軍の、自分の部下たちが乗っているガリウスHまでソニックブームの巻き添えにしてしまったのだ。
「ビーツ艦長………貴様………自分の部下まで………」
『それがどうした?』
「なに………!?」
『それがどうしたと聞いている。勝利のための礎だ。………ククク。やはり足止めするには有人機として運用するしかなかったが、それでもお釣りがくる。シドウ隊長。貴様とてイレイザーの威力を知っているだろう。無事では済むまい。落ちろ。そしてこの聖戦が終わったその時、貴様ごとアリスランドの所有物にして………くははっ。ネームドキャラで俺を囲むんだぁ!』
「なにを言って………」
このまま野放しにしてはいけない。というのに、シドウの体は言うことを聞かない。
意識が途切れかける。ハルモニが機体操縦をオートに切り替えて、着水こそ免れるが、このままではいい的だ。
漆黒のイレイザーのソニックブームに巻き込まれた機体すべてがそうだった。ミチザネ隊は酷くて中破で留めたものの、パイロットが失神してしまう。
だが、そのなかでも唯一、ソニックブームを、最早意地と勘と執念で回避した機体があった。
「またそういうことをして………殺してやる」
ハナの六号機。
「楽には殺さない」
シェリーの五号機。
「エー先輩が受けた痛み、百倍にして返すことは確定………焼き潰した足から食べさせてあげるわぁっ!!」
ユリンの二号機が、修羅と化して三方向から漆黒のイレイザーを強襲した。
最大の殺意を孕む3人。その表情はもはや、常人なら見ただけで卒倒するほど歪み、エースの敵討ちしか思考に残っていなかった。
『エース? ………ああ、あの出来損ないか。お前たちを生き残らせるため、健気に献身した結果、俺によってボロクズになったあの雑魚かぁ? ハハハッ! なんて可哀想な女どもだ! あんな、俺に一度でも勝てなかった雑魚に惚れたばかりに、そんなにも歪んでしまったんだなぁ!』
「黙れェッ!!」
ヒナが吼える。同時に覚醒を発動。
『いい機会だ。真実を教えてやろう。良いスパイスになるだろうな。エースとかいう馬鹿が拷問にかけられただろう? 手引きしたのは………そう、この俺だ。狙いは別だったんだが、まぁまさか本当に身代わりになるとはなぁ。救いようのないくらい馬鹿な奴。黙ってライラとかいう女を差し出していれば、まだ生き残っていられただろうになぁ!』
「そんな………お前が………お前が………ぁぁぁああああああああああああ!!」
「………死ね」
シェリーが発狂した金切り声を上げる。ユリンは計画を変更し、ここでビーツを殺すことにした。
ライフル、スナイパーライフルが的確に漆黒のイレイザーのコクピットに集弾させるも、紙一重で、しかし余裕のある動きで回避される。
漆黒のイレイザーを取り囲む3機のうち、ヒナは原作にない覚醒を使えるようになった。だが機体のスペックが違いすぎる。その差を覆してしまっていた。
『俺が憎いんだろう? 殺したいんだろう? ほら、やってみろ。ははは。その上でお前たちを凌駕してやる。グラディオスに、絶望をくれてやる。かつて俺が舐めた辛酸の味をくれてやる。どうした? まだ当てられないのか? それならばこちらから行くぞ』
パピヨンジャケットを思わせる動作で機敏に回避するイレイザーが攻勢に転じる。
それこそ、パピヨンジャケットを装備していた二号機ですら、まともな回避が適わない挙動。
ジョー・ゴウシンというスパイがアリスランドにイレイザーの情報を送った結果、アリスランドで製造されたイレイザーもまたツインリアクターシステムを採用。いずれもどの炉もガリウスFのものでこそあるが、改修型ガリウスGを圧倒する。
「このっ………調子に乗るなクソ野郎がぁあああああ!!」
シェリーが吼える。彼女も覚醒を使い、驚異的な狙撃の精度を増す。
だが漆黒のイレイザーの装甲を若干削るだけで、決定打とならない。
数秒遊んだ漆黒のイレイザーは、早々にチェックメイトをかける。3機がピンボール同然となった。
『グラディオス。クランド艦長。聞こえるかな? この3機は俺が預かる。アリスランドへの砲撃を中止せよ。そして無条件降伏をすることだ。さもなくば………お前が守りたかった子供たちが死ぬことになる』
ビーツがクランドへ通信を入れた直後のことだった。
3機の動きがピタッと停止する。
まるで見えないなにかに縛られているようだった。
「なにが起きている!」
グラディオスのブリッジで、クランドが叫ぶ。
「望遠カメラが漆黒のイレイザーと、二号機の状態を捉えました! これは………イレイザーのマニュピレーターから、細長いなにかが放たれて、二号機、五号機、六号機の胸部の排熱口から侵入! 内部から侵食するように………まずい!」
「どうした!?」
「そのワイヤーがコクピットブロックに侵入! パイロットたちを縛り付けています!」
「パイロットへの………直接攻撃!?」
『そのとおり。今は動きを封じる程度だが………俺がほんの少しだけでも力の配分を間違えると、彼女たちはバラバラになってしまうかもしれないな』
『うぁあっ!?』
「や、やめろぉおっ!!」
機体ごとパイロットが人質となってしまった。こうもあっさりと。
イレイザーという機体が異常だからというだけではない。ビーツそのものが異常ゆえに、ヒナたちが直接攻撃を受けた。スピーカー越しに聞こえる3人の苦痛の声を聞くだけで、胸が締め付けられる思いを受けた。
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