因縁との決着B12
「バッ………カ、やろ………っ!」
私はブースの壁を殴り付けて唸った。
ビーツがどれほど胸糞悪い奴なのかは知っていたが、まさかここまでだったとは予想もしていなかった。
艦隊戦という原作にはない大規模な戦闘。生き残ったクスドの大胆な作戦に、当初こそ早々にアリスランドを海に叩き落として勝機を見出したはずが、まさか数分ですべてをひっくり返されるとは思いもしなかった。
さらにアリスランドも、ここまでやるとは思いもしなかったが、そんなのは所詮私の常識というか、概念である。私はビーツではない。ビーツは転生者。整備士の出でありながら艦長を務めるまで昇格し、果てにはイレイザーを単身で作り上げた手腕の持ち主。
格が違う。私では追いつけないところにいて当然で、そしてなによりエースと比肩できる唯一の男。
勝利するために手段を選ばないところは同じだが、そこに要する犠牲の出し方が違う。
エースは自分を犠牲にしてでも勝利しに行く。ビーツは他人を犠牲にしてでも勝利しに行く。
どちらがいいのか、という話ではない。業という部分は双方同じでこそあるが、他人から向けられる関心、あるいは世界の在り方さえも変えてしまう。
だがあえて言おう。
私はやはりビーツを認めない。認められる気になれない。認めてなるもんか。
ビーツが「天破のグラディオス」のファンであったとしても。ファンであるからこそ、こんなことまでしていいはずがない。命を粗末に扱うなど、絶対にしてはいけない。
ここはアニメの世界なのだろうが、もう私にとっては現実だ。ビーツにとってもそのはず。
その区別がつかない人間が、上に立ってはいけないのだ。
かなり離れた場所まで退避していたミチザネ隊。ドイツ支部並びアメリカ支部の艦隊の被害を目の当たりにして、誰もが息を呑んだ。
『隊長………これは………ドイツ支部だけじゃなくて、アメリカ支部の艦隊も助けるべきでしょうか?』
アイリから通信が入る。シドウはかなり逡巡した。戦況を分析する。1分前はドイツとアメリカによる艦隊戦が続いていたはずが、アリスランドの暴挙で双方が戦闘不能に陥り、多大な被害が出た。
どちらも被害者が数千人は出ている。いや、数を揃えたアメリカ支部の艦隊の方が痛手を被っている。
アリスランドを防衛するために前方に展開したレオ大隊が乗る戦艦がすべて沈没。イーグル師団も被害が拡大し、半数以上が中破、あるいは大破。
そんな双方は今、爆心から4キロメートル以上先にいた艦隊が救出を開始している。
救出はまだ転覆も沈没もしていない艦に限る。
レイライトブラスターの爆発で海水が異常なほど発熱し、そこらが煮えたぎってた。すぐに周囲の海水が混ざって冷却を促すのだろうが、まだそこは人間が浸かって生きていられるほどの水温ではない。
海に浮かぶ、人間だったもの。魚だったもの。様々な肉が浮いて、やがては沈んでいく。
目を背けたくなる光景。これが地獄だ。それもたったひとりの男の蛮行によって作り出された。
「………アメリカ支部は、後続のペガサス大隊が救出に入る。こちらは、どうやらコーネリア少将やドルテ支部長は無事であったようだ。すぐに体勢を整えて、救出活動に入るだろう。………ならば俺たちは、童話の少女の名を一部冠しておきながらも、非人道的な所業を行った悪魔を討つ! 悪魔狩りだ! アリスランドは健在。しかしグラディオスは着水しようとしている。全機、オールウェポンズフリー! アリスランドをグラディオスに近づけるな!」
『了解!』
率いる二号機から十一号機までの9機が今や可変機となった。制空権を掌握するには10機程度でどうにかなる───かは不明。しかし、やるしかない。
「まずはアリスランドの主砲を潰す! 第二射を撃たせるな!」
アリスランドがどのような対策をしているかはわからない。
しかしシドウは、アリスランドの艦長であるビーツを警戒していた。恐怖さえ覚えた。なぜなのかは不明だが、ビーツはエースに似て、底知れないなにかを持っていると思ったのだ。
すでにクランドから集合がかかり、さらに迎撃要請も出ている。
艦の直掩には九号機と十二号機と十三号機がいる。防御ではなく火力任せな迎撃をするために。
さらにグラディオスを管理する高性能AIのハルモニが、各機のシステムを遠隔で再構築する。先程の海底での爆発は逃れたが、余波に晒されてどこかがイカれていた。機体内部の故障なら一旦帰投しなければならないが、システムならばハルモニに任せられる。
グラディオスも同様にシステムの修理が行われ、共有していた部分が戻ってきた。
そのひとつがレーダーである。
『アリスランドより艦載機が射出! 爆発前に全機収容していたようです!』
ビーツは智将だ。クスドにも匹敵する。数分前には彼さえも上回った。
アリスランドの戦力のみを戻して守り、ここぞという瞬間、まさに今この時に最出撃をかけた。
全12機のガリウスHがアリスランドの直掩に入る。
「くっ………向こうはこちら以上のスペックを持つビームシールド持ちだ! だが臆するな! クランド艦長も仰っていた。向こうは最新のレイライトリアクターを持っていない。ガリウスFから抜き取った旧世代式のリアクターから生産されるエネルギー出力など知れている! 生産と供給が間に合わなくなるほどの攻撃を浴びせてやれ! 数で劣ろうが質ではこちらが勝る! グラディオス! 甲板にいる十二号機と十三号機に支援砲撃要請! ………あれは!」
シドウは極めて冷静に分析し、勝ち筋を求めた。
多少の無茶はあろうが、あくまで犠牲を出さず、全員でカバーする戦術だ。
その時、シドウの視界の片隅で、猛烈な火花を散らし、砲撃と衝突をする機体を発見した。
ソータの白銀のイレイザーと、アークの漆黒のタキオンである。
イレイザーとタキオン。かつて両方ともグラディオスは有していて、特に色違いのタキオンの性能ならシドウもよく知っている。
しかし目を疑った。アークの操縦は、グラディオス製の灰色のタキオンを駆るエース以上だったのだ。並外れた反射神経だけで可能とするマニューバではない。ソータのイレイザーに匹敵する。
「あれは本当に、ガリウスなのか………?」
『隊長、来ます!』
あまりの威容に圧倒されかけたシドウに、キルカが忠告する。
アリスランドの直掩の半分が、オフェンスとディフェンスに分割されてシドウたちの迎撃に出た。
「くっ、済まない。しかし半数に分割したなら都合がいい。まずはオフェンスを圧倒する! とにかく数を減らせ! アリスランドには、まだあの機体がいる!」
最大に警戒するべきはアリスランドのレイライトブラスター、そして漆黒のイレイザー。漆黒のタキオンと比肩するオリジナルガリウス。切り札の数ではグラディオスは不利だった。
戦闘を開始するミチザネ隊。グラディオスも着水して、間髪入れずに砲撃を開始。アリスランドも応じるように副砲とリニアカノンを発射。
海と空で、熾烈な戦いが始まった。
「あっちもイーグルジャケット装備なのね」
「けど、マニューバのなんたるかを知らないみたい」
「絶好の的ってわけね。同僚たちが何人も犠牲になった。この恨み、全部ぶつけてやるわ!」
可変機に乗るキルカ、ナリヤ、マイアの3人が、戦闘機パイロットの経験を活かし、3機で編成を組んで無情な波状砲撃を開始する。
ビームシールドの枠外から迫る砲撃に早速1機が墜落する。その技量に、シドウは評価を改めた。
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