因縁との決着B11
大西洋の海底になにがあるのか───それは問題ではない。
アイルランド沖50キロメートル先で勃発したこの戦争の海域に、海底火山はない。
問題はレイライトブラスターが海底へ発射されたことだ。
所詮はビーム。と侮ることはできない。水中ではビームの威力は半減するだろう。しかし、艦を動かす動力を生産し続ける炉である。供給されるエネルギーの大半を使い、海底に放ったとすれば───
「ハルモニ! 被害予想を出せ! コーネリア少将! 今すぐ後退を! 今ならまだ、間に合うやもしれま───」
クランドがその事態を通信で叫んだ途中のこと。
ズン! と空中にいながらもとても大きな衝撃に襲われた。
「グラディオス! 退避!」
「もうやっています!」
優秀な操舵士は転進せず、そのまま後退を選択。
ドイツ支部艦隊側から見て左側にてアリスランドが凶行に走った。
レイライトブラスターが、海底に届いたのである。
目を伏せたくなるような惨状が、広がった。
「こ、れは………!」
まずグラディオスのブリッジを覆う水柱。高度は100メートルよりも高い場所にいたが、そこにまで悠々と届いてしまうほどの規模。
高熱化する海水。押し広げられる穴。そこに滑り落ちていく左舷の艦隊。
いや、逃げようとしてももう遅い。爆発に巻き込まれた戦艦がプラモデルなどのおもちゃのようにひしゃげていく。
即死だ。あんな死に方があっていいのだろうか。空中にいながらもグラディオスにも爆発が襲い掛かり、レーダーや火器管制に影響が出る。「高度が維持できません!」と操舵士が叫んだ。こちらのレイライトリアクターにも支障が出ている。「グラディオス、レイライトブラスターの砲塔が中破!」オペレーターが叫ぶ。
あまりの事態にクスドは怯えて震えている。クランドが指示を出す。
「ドイツ支部艦隊から離れた場所へ移動しろ! 後方レイライトリアクター出力最大! 姿勢制御に注意! 負傷者の搬送も急げ! 火災が起きた隔壁はクルーを退避させたあとに閉鎖! ただし………ことが起きるまでなんとしても着水だけは避けろ!」
地理に詳しくないクランドでも、この後の事態は予想できる。
アリスランドのレイライトブラスターによって海面にポッカリと開いた穴に大破した艦隊が落下していく。そしてそれらが重力に従って、押し寄せられていた海水が元に戻ろうとしていた。
爆心の周囲約2キロメートルにいた艦隊は全滅だ。もう助からない。そして運良く艦に支障が出たとしても健在の艦隊は、それでも安心できない。
津波が発生する。かなり大きい。左から右へと押し寄せる。
「くっ………ドルテ………コーネリア少将………っ!」
コーネリアは当然、ドルテもこの戦争の指揮を執るべく、艦のひとつに搭乗している。
ただ、覚えている限りはコーネリアは最前にいたとしても右舷寄りだ。爆心から5キロほど離れている。ドルテもその辺りだ。
「頼む………生きていてくれ………こちらの機体状況は!」
「全機健在! シドウ隊長が後退命令を出したことで、爆発や水柱の直撃からは免れました!」
「よし! なら………アリスランドは!」
アリスランドはこちらの策略により、早期に飛翔能力を奪っていた。愚かにも海底を主砲で爆発させるという凶行を取ったことで、グラディオスと違って巻き込まれているに違いない───と考えた矢先。
「アリスランド………健在………っ」
「なんだとっ!?」
クランドはその日、オペレーターの言葉を初めて疑ってしまった。
レーダーはほぼ役に立たない。まだ使える望遠カメラで味方機と敵機を目視するしかない。
それを操作していたオペレーターが、メインモニターに映像を出す。
「ぬ、ぅう………!」
信じられなかった。
ここにきて、アリスランドはまたもやこの海域にいる者すべてを欺いたのである。
グラディオスの猛攻で後方のレイライトリアクター2基を失ったという演出を行った。大穴が空いても、浮上していたのである。
「ビーツ………ビーツ艦長ォッ!!」
『なんだよ。うるさいな。ああ、もしかして降伏したくなったか? いいぜ、別に………』
「うるさいな? ………うるさいな、だと? ふ………ふざけるなよ貴様ぁっ!!」
『うるせっ………なにもふざけてるつもりなんて、無いんだがなぁ』
回線は常に繋げられるように設定していた。クランドは例え、ビーツが泣きながら許しを乞うても許すつもりもなく、あくまで泣きながら海の藻屑となるビーツを観察するつもりでいた。
それがこの事態で、どういうつもりでこれほどまでの凶行に出てしまったのか。ビーツはどこか常人離れしているところがあり、クランドでもすべてを把握、あるいは理解できない領域にいるのはわかっていたものの、非常時を引き起こした元凶を糾弾せずにはいられなかったのだ。
「希代の大虐殺を行っておきながら、なぜ貴様は平然としていられる!?」
『大虐殺? ああ、あの穴に吸い込まれた愚鈍な馬鹿連中のことか。なに、俺は別に、どちらでも良かったんだ。グラディオスと最終決戦を行い、勝ちさえすればな』
やはりビーツの様子がおかしい。
冷静でいるようで、どこか胡乱だ。
その口調は敵対関係にあるとはいえ、左官で言えばクランドが上だ。ビーツは対面すれば敬語を使っていたが、今はその様子が一切見られない。
「ふざけるな………貴様、こちらの陣営に多大なダメージを与えたかったという動機なら、許しはせんが、まだ理解できる! それが、なぜ………なぜ貴様は、アリスランドを防衛するために前方に展開していたレオ大隊ごと、海に沈めたァッ! レオ大隊は貴様の陣営にいるだろうが、アメリカ支部から借り受けた部隊! それを、こうもあっさりと………なぜ切り捨てることができる!? どれだけの人員が乗っているのか、把握できていないわけがあるまい!」
『お優しいなぁクランド艦長ぉ。そう、俺の部隊じゃない。だから切り捨てられる。懐は痛くないしなぁ。ま、こうしてギリギリまでアリスランドを隠す良いカモフラージュになったし? 俺に利用される駒として死ねたんだ。あのレオとかいう名前だけの愚鈍な連中も、喜んで俺に命を差し出すだろうよ』
「そんな者がいてたまるかァッ! 命を………他人の命を、なんだと思っている!? 数千人単位で殺しておいて、なぜそう割り切れる!?」
『他人の命ィ? あー、そりゃああんた。あえて言うなら………勝つために必要な犠牲ってやつ? ほら、こうしてグラディオスもそろそろ飛べなくなってきたしさ。あー、なんかアメリカもドイツも、残存艦隊の半分以上が津波とかで転覆してるし? いい感じになってきたじゃないの。コーネリアとかいうババァがしゃしゃり出てくるのがいけないんだ。ひひっ………アリスランドとグラディオスがタイマン張るように仕向ければ、他の誰も死ぬことはなかった。つまりこれは俺のせいじゃない。テメェらが俺の思うとおりにしなかったのが悪い! はは、あはっ。そうだよ。全部テメェらが悪いんじゃねぇか!』
「………狂ってる」
『知ってるぜぇ! 最初からなぁ!』
クランドの侮蔑さえも喜悦にしてしまうビーツ。
望遠カメラで敵と味方の被害率をざっと計算させたところ、両陣営で多大な被害が出てしまい、これではもう戦争どころではない。
たったひとりの狂った独裁者による、大量虐殺だ。
しかし、浮上するアリスランドは、やがて着水するグラディオスへと舵を切る。まだ戦い続けるというのだ。
「っ………ミチザネ隊を呼び戻せ! 艦の復旧、急げよ! 向こうの筋書きどおりになってしまったのは気に入らんが、仕方がない。アリスランドと総力戦を行う!」
もうすでにアメリカ支部艦隊もドイツ支部艦隊も機能しない。頼れるものがない状態で、グラディオスはより過酷な道を選ぶことを強いられた。
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