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因縁との決着B09

   ~ソータSide~


 混沌とする戦況。これが本物の戦争。化け物との殺し合いではない。人類同士の、国と国の歴史を築いた戦争。


 争い無くしては歴史は紡がれない。


 地球の世界史を学んでみたことがあったが、やはりどれも戦いが歴史を紐解く鍵だった。


 常に付きまわる理不尽。平等であったことなど一度もない。劣勢を覆す戦略。殺戮を繰り返す蛮勇。政治と経済を牛耳る独裁者。裏切りによって自決したリーダー。国に見捨てられ自爆を決行した兵士。


 これは確かに国と国との衝突だ。


 しかし彼らの頭上には、この戦争の元凶とも呼べるふたつの艦があった。


 グラディオスとアリスランド。


 俺はグラディオス陣営のエースパイロット。アリスランドのエースパイロットは、まさかの生き別れの双子の弟。


 そんな肉親がいたなんて知らなかった。忘れてしまっていただけだったけど。


 あれから俺は、シーナに打ち明けたどおり、徐々に記憶の断片が戻り始めた。


 確かにいたのだ。物心がやっとついた頃。常に手を繋いで隣を歩く存在が。


 一卵性双生児たらしく、瓜二つな兄弟。


 それがアークだった。


 兄弟で殺し合わなければならない悲惨な歴史の1ページを、俺とアークは飾ることになる。


 戦いたくない。でも、戦わなければならない。


 心のなかで誰かが叫ぶ。「戦うな」と「殺せ」のふたつの声が。


 戦うなと叫ぶのは、きっと………エー先輩だ。思えばエー先輩は、初めてアークと対面した時も、自分が組み敷かれたことに激怒したハーモンたちを止めた。その後、ガンビッドのみでアークを止めた。お前たちが戦うくらいなら俺が戦うと言って。


 それからエー先輩はアークと対面するごとに構い倒しに行ったっけ。まるでアークの悪意を、自分ひとりで背負おうとしているかのように。


 ならきっと、エー先輩がもしここにいたら、悲しむことになるだろう。


 俺はもうイレイザーに搭乗して、出撃してしまった。


 前方には漆黒のタキオン。接近する両機。もう、逃げられる距離ではない。


『………ータ………ソータ!』


「………アー、ク」


『よかった。繋がった! 迎えに来たんだ。ビーツ艦長が、ソータを受け入れてくれるって許可を出したんだ。さぁ、行こう!』


 アークは必死に通信を繋げようと試行錯誤していたのだろう。漆黒のタキオンと俺のイレイザーの距離が50メートルほどまで縮まる頃、なにも言わずともタキオンは停止した。俺も急制動をかけて停止。ホバリングしたまま対面する。


 漆黒のタキオンが手を伸ばす。届くはずもない。その手を俺が取ると信じて疑わない、嬉しそうな言動をする。


 けれども、俺の意思は変わることはなかった。


「アーク。………俺がそっちに行ったとして、なにを、どうするの?」


『え? あ、い、いや………なにをって………やっと僕たち、兄弟として過ごせる時が来たんだよ?』


「今は戦争をしているんだ。いや、俺たちに限った話しじゃない。全世界で、全宇宙で、人類はアンノウンという脅威に晒されてる。………アークは、戦力として俺がアリスランドに来ればいいって思ってるんじゃないの?」


『ち、違う! そんなことは、決してない! ソータはなにか、酷い勘違いをしている。僕はまた、ソータと仲良く暮らしたいだけなんだ! そのためなら、なんだってやる!』


「じゃあビーツ艦長は? 俺のイレイザーごと欲しいんじゃないの?」


『そんな条件はなかった!』


「民間人として乗艦するってこと? 俺、これでもグラディオスのエースパイロットなんだけど? ねぇアーク。ビーツ艦長は、本当に民間人として俺を欲しがってるの? 俺、ビーツ艦長の口からはっきり聞かないと信じられないよ」


『ま、待ってて! このまま、通信を繋ぐ! ビーツ艦長の言葉を聞いて!』


 それは少し───いや、かなり軽率な行動だ。愚行とも言える。


 敵機と通信を繋いだまま、自分の艦長と話してしまうと、思わぬところで情報漏洩に直結しかねない。


 それでもアークには余裕がなかった。


 機体に乗っているとはいえ、生き別れとなった兄弟と、また共に過ごせるかもしれない千載一遇のチャンスであったのだ。必ずものにするべく、リスクも考えずにそのような行動に出てしまう。ソータはその通信を、グラディオスにも聞こえるように密かに繋いだ。


『艦長! ビーツ艦長!』


『ぁんだよっせなぁクソガキ! テメェ、この状況がどんだけまずいのかわかってんのかぁ!? なにイレイザーと対面したままボケッとしてやがる! 落とせ! 殺せよ敵だぞ!』


『そ、そんなっ………待ってください! 艦長、あなたは以前仰ったじゃないですか! ソータを受け入れてくれるって! 僕に愛をくれるって!』


『ぁあ? んっだそりゃあ。気持ち悪ぃ。野郎なんざ抱く趣味はねぇよ。なにが愛だ。アーク、テメェいつからそんな夢想家になりやがった? 愛なんざねぇよ馬鹿野郎が』


『そんな、そんなぁ………僕は艦長にとって、どういう存在だというんですか!?』


 不倫や浮気をされた被害者が訴えそうな文句だ。


 なんだか、アークに対して複雑な心境になってきた。聞いているだけでもビーツに激しい怒りを覚えてくる。


『どういう存在だぁ? なんだテメェ。自分が俺にとって特別な存在だとでも思ってんのか? んなわけねぇだろうが。けどまぁ、強いて言うなら? お前は俺の代わりに戦うためのピースみてぇな? そりゃあアリスランドの主戦力だが………けどまぁ俺ももう戦えるしな。使えなくなったところで、もう特に困ることもねぇし………よし。アーク、こうしようぜ? イレイザーをぶっ壊しな。そうすりゃ夢を叶えてやる。ソータの乗艦許可を出してやらぁ。その代り、粉々にしろよ? なにがあっても止めろ。お前の体がバラバラになってもなぁ』


『………ぁ、ぁぁ、ぁぁぁあああああ』


 酷い内容の通信だった。


 アークも憎いはずなのに、これでは憎むに憎めない。


 いや、それよりもビーツだ。


 敵だけど、本当はいけないのだろうけど。俺の双子の弟を泣かせた。エー先輩をその手にかけた。


 もう、許せない!


「いい加減にしろよお前ぇぇぇえええええええええ!!」


 感情が爆発する。強敵に遭遇した際、昂ったりすると思考が急にクリアになる現象だ。


 俺はいつしか、それを自在に操れるようになっていた。


 迸る感情そのものが俺の力となる。


 イレイザーは漆黒のタキオンの下を抜けて、アリスランドへ迫る。目標はブリッジ。みんなはアリスランドにできるだけ抵抗させて、それでも上回るつもりでいるらしいけど、暴走しかけた思考ではビーツを一発で粉々にしてやるつもりだった。


『おっと………アーク。約束を忘れたか? グラディオスのイレイザーを粉々にしろ。それができたらソータを受け入れてやる。ほら、どうした? このままではお前の帰る家が、ソータと一緒に過ごす居場所が失われるぞ?』


『う、あ………うああああああああああああ!!』


 アークは狂ったように叫び、漆黒のタキオンでイレイザーを猛追した。


 案外、すぐ追いつかれる。理由は簡単だ。イレイザーは今、エー先輩とシーナの合作ともいえるマルチプルジャケットを背負っている。総重量が増して、その分加速力が低下しているのだ。アークのタキオンなら、簡単に追いつかれるだろう。


 漆黒のタキオンは俺のイレイザーを追い抜くと、中間地点に割って入る。イレイザーは停止する他なかった。


「邪魔するのか? アーク」


『だって………だって、仕方ないじゃないか………ソータを止めないと………ソータと一緒に帰る家が………居場所が………』


「ビーツ艦長、イレイザーを粉々にしろって言ってたけど、それってイレイザーごと俺を殺せって意味だってわかってる? なぁ、アーク。お前本当にそれでいいのか?」


 この時、俺は初めてアークを双子の弟として扱った。


 情があったのかもしれない。可哀想でもあった。だから俺は兄貴らしいことを言えたのかもしれない。


 けどイメージは全部、俺が兄みたく思っているエー先輩の口調や文句を真似ていると気付いたのは直後のことだった。無意識、無自覚でやっていたんだな、俺は。心のなかで苦笑を浮かべた。


リアクションありがとうございます!

まだ………まだ! ラストは19時に更新しようと思います。皆様、そのために私に力をください!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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