因縁との決着B05
「復讐か。おうよ、そのとおりだぜ。なぁ、野郎ども!」
「おう! おやっさん!」
整備科が集うハンガーにて。クランドの演説を耳にしたカイドウは、以前から気に入らなかったし、なにより気を許していた一番の問題児を奪ったビーツを恨んでいた。
弟子たちに尋ねると、思いを同じくする彼ら、彼女らは力の限り叫んだ。
「本来、復讐、いや人類同士の私闘は軍規で禁じられているはず。しかしこうして本部の将が自ら指揮を執り、我々もそれに続いた。………最早、正義や悪など関係ない。やるというなら勝つしかない。エースくんのためにも。遠い空から見守ってくれる彼に恥ずかしい背中は見せられない。私はそのためなら、なんだって………やってみせる!」
砲雷科のブースにて。アーレスは戦闘服に身を包んでいた。もし対艦戦の末、接近戦となり敵艦の戦闘員がグラディオスに雪崩れ込んでこようものなら応戦するために。また、その逆も然り。アーレスの直属の部下たちもまた戦闘服を着用していた。
各セクションのリーダーも同様に闘志を燃やした。
クランドの艦長として、軍人としても失格な私怨における演説は、これ以上と無いくらい士気を高めたのである。
「闘志を燃やせ! アメリカ艦隊が先鋒として接近するだろうが、コーネリア少将らが引き受けてくださるという。我々の目標はアリスランドただひとつ! 降伏など許さん。そんな血迷ったことを述べる前に、アリスランドをこの海底に叩き落して沈めてやれ! エースの仇を取るのだァッ!!」
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
グラディオスが震撼するほど、全員が雄叫びを上げる。
「………まったく。あの男は年甲斐もなくはしゃぎおって」
ドイツ支部は聞いていなかったが、ただ唯一傍受していたコーネリアは、通信機越しに聞こえるけたたましい獣じみた咆哮に、苦笑を浮かべた。
「まさか、クランド艦長がここまで感情をあらわにするとは思いもしませんでした」
インカムを外して、思わず耳を塞ぐコーネリアの腹心、ブルゾンは顔を顰める。
「そう言ってやるな。私は悪くは言っておらん。そうでなくてはならないのだ」
「と、仰いますと?」
「そもそも、この戦いにおいて初めから負けると考えて臨む腑抜けは不要。戦いに勝って生きる。それこそが肝要だったのだ。クランドと面会したその日、あまりにも腑抜けた顔をしていたからな。不安であったが杞憂に終わってなによりだ。やはりできる男だよ。奴は。たった数分でグラディオスそのものの士気を高めた。評価に値する」
歴戦を勝ち抜いた猛者ゆえの評価は、クランドに届くことはない。そして届いたとしても、クランドは当然無視をする。今はそういう時なのだ。
「………少将。お時間です」
「うむ」
ブルゾンは端末で時間を確認する。コーネリアも自分の端末を開き、呼びかけを行った。
「こちら連合軍、ドイツ支部艦隊の総司令、コーネリア・デクスター少将である。アリスランド、ビーツ中佐。聞こえるか? 聞こえたなら3秒で応じろクソガキ」
『こちら、アメリカ支部艦隊総司令、アリスランド艦長のビーツです。おやおや、ご機嫌麗しゅう───』
「黙れクソガキ。最終通告だ。投降せよ。さもなくば落とす」
『ナンセンスなお誘いですね。投降? ありえない。そちらこそ私の捕虜になり、全裸でアメリカ支部を練り歩くお覚悟はできているのですか? 今、無条件降伏をするというのなら───』
「無駄口が多いぞクソガキ。心が弱い者ほど口先ばかり達者になるのだ。私はその愚か者を何人も見てきたぞ。どうせお前もそのなかのひとりだ。投降しない意志は了承した。ならば双方の合意をもって、この戦争を開始とする。泣き言代わりに投降を呼びかけてもいいぞ。ただし、お前が獣に変えたグラディオスがお前たちを許すとは、到底思えないがな。………全同胞に通達! 砲塔上げ! 目標、敵艦隊! 砲撃開始ィッ!!」
コーネリアの判断は誰よりも早く、そして優れていた。
ビーツが得意とする精神攻撃を一切寄せ付けず、軽くあしらって受け流す。
そしていつの間にか自分のペースに持ち込んで、あまりの事態に唖然としている隙にドイツ支部の艦隊へ攻撃を命じたのだ。
双方、いつでも撃てるよう身構えていた。
極限ともいえる緊張状態を維持し、いつでも総司令の命令が下った直後に撃てる状態にしていたのだ。
瞬時に命令が共有され、間髪入れずドイツ支部の艦隊の主砲が、一斉に発砲されたのだ。
「ドイツ支部艦隊、攻撃を開始しました!」
「艦長! ワプス支部長より対応を求められています!」
「砲撃、来ます! 目下、アメリカ支部艦隊直撃コース!!」
アリスランドのブリッジでは愛人たるオペレーターたちが緊迫した声音で状況を告げる。
電光石火の早業とは、まさにこのことだった。
第三者が見ていれば青天の霹靂とも称しただろう。
ビーツはあまりのことに唖然としていたが、副艦長のエマが「ビーツッ!!」と激しく叱咤する声にハッとして我に帰る。
「全艦に入電! 防衛態勢! 応戦開始! っ………ガリウス部隊を順次発艦させろ! クソッ………クソ、クソがぁ! あのクソババァ、やってくれるじゃねぇか! アリスランドのガリウスはまだいい。この砲撃が止み次第、主砲を先手を取って調子乗ってるクソババァの艦にぶち込んでやる! アリスランドは上昇し、射線を確保しろぉ!」
「艦長っ!!」
「今度はなんだぁ!! ………なんだとぉっ!?」
オペレーターのひとりが悲痛に叫んだため、ビーツは苛立って怒鳴る。
刹那、ドイツ支部の艦隊の砲撃がアメリカ支部の艦隊に届く。
大なり小なりの爆発が連鎖するなかで、アリスランドは艦首を持ち上げて上昇姿勢へと入った。
ところが、だ。
アリスランドのブリッジにて、ビーツの視界の先で、キラッとなにかが光った。
コーネリアの優秀さと、ビーツを精神面で上回ったことが露呈した瞬間だった。
人間とは、一度激昂すると、余程卓越した精神力を有してでもいない限り、すぐに怒りを深く呑み込むことはできない。
ビーツもその前例となった。
コーネリアの合図によりドイツ支部が砲撃を開始。ビーツが我に返り、アメリカ支部の艦隊に指示を出すまで───時間にして数秒しか経っていなかった。
たった数秒。されど数秒。
その初動の機微や違いが、その差を作ることとなった。
「アリスランド上昇開始! 予想どおり、射線軸へと入ります!」
グラディオスのブリッジにて、オペレーターが叫ぶ。
そのすべては、アリスランドに報復をするために備えていた。
グラディオスはアリスランドが動き出すよりも、ずっと前から上昇を開始していた。コーネリアが砲撃を宣言すると同時にだ。
「先手はこちらがもらう! 容赦などするものか! レイライトブラスター、副砲、リニアカノン、撃ちぃかた始め!」
火のついたグラディオスの復讐が、全戦力と殺意を以ってアリスランドへ向けられる。
戦艦に搭載されたビーム砲、リニアカノンならば定石として相応しいが、いきなりグラディオスが誇る最大の破壊力を秘めるレイライトブラスターを使用するなど正気の沙汰ではなかった。だがその突拍子もない戦術こそがドイツ支部の半狂乱になりつつあった兵士たちを鼓舞することになる。
クランドの合図でレイライトブラスターが発射される。やっと上昇を開始したアリスランドは、まともな回避などできるはずがなかった。
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