因縁との決着B04
リヴァイヴは回転しながら制御を取り戻す。その頃にはヘイラン中隊も、リヴァイヴの追撃のため陣形を整え、俺が体制を整えるよりも早く加速する。
『ヘイラン中隊とやらが加速したのに、まだきみは手を抜くのかね?』
「それくらいハンデがないと、試験にならねぇからな。ガリウスF程度、軽くぶっちぎってやる!」
次の瞬間、包囲されるギリギリのタイミングで下へ降下したリヴァイヴは、メインモニターに敵機の機影が入る前に加速した。
全身が押し潰されるかのようなGに耐え、直進しているはずなのに後方に引っ張られているような感覚に襲われながらも、ガリウスF群をその場に置き去りにする。
『は、早い!』
『あの機体、普通ではないぞ!』
『減速から再加速までのラグがないのか!?』
『油断するな! 陣形を組みながらこちらも加速するぞ!』
『奴はまだ初動に過ぎない! 本加速をかける前に撃墜せよ!』
良いリアクションをしてくれる。
けど、勘違いさせてしまったな。これが本加速だ。初動なんてとっくに終わらせている。
ガリウスF程度のスラスターでは、リヴァイヴに到底追いつけるものではない。
『なんて加速だ………隊長!』
『武装の使用を許可する! やれ!』
ガリウスFが提げていたライフルが火を吹いた。
実弾ではない。ビームだ。全機に配備するには、余程潤沢な資金でもない限り適わない。
やはりバックにいるのはオルコットだと見て、間違いないだろう。
「機体の姿勢制御、任せる!」
『了解した。主翼から提げるプレートも、案外役に立つではないか。武装だけではなかったのだな』
ある程度の鬼ごっこをして、緊急回避運動における過負荷の検証を終える。その次は曲芸飛行だ。そのくらいのモーションができないのでは話にならない。
「ぐっ」
凄まじいGに襲われる。加速しながらジャケットのプレートを傾けることによって風を掴み、宙返りした。
ハイマニューバから突然のローリング。予備動作は無し。すると中国支部のガリウスF部隊が、リヴァイヴを追い抜いてしまった。部隊の後方に付くと、さらに加速して敵機の陣形の中央を突破。
『うわぁあ!』
『くっ、なんて機体性能だ!』
『あれは本当にガリウスなのか!?』
リヴァイヴの加速を至近距離で受けたガリウスFが失墜する。一応、多少のダメージはあれど、飛行能力に支障が出ない程度には留めておいた。
「もう、いいだろ。試験終了。あの連中とはここらでさよならバイバイだ」
『了解した。前方に積乱雲を発見。飛び込もう』
「いや積乱雲って………まぁいいけどさ」
巨大な雲の塊を発見すると、ケイスマンの意思はなんの躊躇いもない提案をするものだからギョッとする。ケイスマンの意思のシミュレーションでは、あのなかに飛び込んでもリヴァイヴにはなんら影響はでないらしい。
眼下の雲のなかに突入すると、魚雷のように突き進む。
中国支部のガリウスF部隊は追尾しなかった。レーダーではすでに中国支部からかなり離れたところまで来てしまっている。燃料や飛行能力を鑑みて、積乱雲に突入する云々ではなく、これ以上の任務行動は帰投に影響が出ると判断したのだろう。とても優れた選択である。
『ここを抜ければヨーロッパだ。再びどのような介入があるかもわからない。これは賭けだが、危険地帯を通過することで、機体の接近を防ぐことができるやもしれない。どうするエース?』
「それが最短ってなら、やるよ。突入する!」
『了解だ。それでこそだ』
ケイスマンの意思の語調が、さっきからずっとこんな調子だ。人工知能に感情があるのかは不明。本人は否定しているのだけど、もしかしたら芽生えたのかもしれない。ファンタジックな妄言だと、ケイスマンの意思はまた否定するだろうけど、俺はなぜかそう思えてならなかった。
天候は小雨を降らせるほどの曇り空。
まばらに灰色と白が混じった雲の下、合戦を行うべく、両陣営が持てるすべての戦力を集結させる。
ドイツ支部近海に展開するドイツ支部の艦隊と、アメリカ支部の艦隊。その数の差にして、アメリカは6倍以上を導入してきた。
以前まではまだ少なかったが、ビーツが猶予を作ったことでアメリカ支部からより多くの戦力を補給部隊とともに呼び寄せたのだ。
イーグル師団とレオ大隊。物量差で圧殺することを目的とした布陣。
今日までそんなものを毎日見なければならないドイツ支部の軍人が、平常心を保っていられるはずがなかった。今こそ大勢が復帰していたが、昨日まで人員不足が予想されるほど倒れていたのだ。
アンノウンとの戦争が始まって以来、初めて行われようとしている人類同士の戦争。
正気の沙汰ではない。
しかも、これを誘発させたのは地球で生まれた者ではない。宇宙で生まれ育った人類が将としてそこにいる。
グラディオス艦長、クランド。宇宙のコロニー出身のドルテ支部長。本部で猛威を振るうコーネリア少将。そして敵陣の総大将、ビーツ。
宇宙で生まれ、育ち、地球の防衛を目的に掲げ降りた者たちが、地球で生まれ育った者たちを利用して戦争をしようとしている。
そんな噂が広まって───しかし、ついに始まろうとしている戦争において、そんな噂話しなどなんの得にもならない。生きるか死ぬかの瀬戸際に、他人への怨嗟をいつまでも胸に抱き思考を乱す行為こそ三流のすることだ。
恨まずにいられなかったが、死にたくないので戦いに集中するにかないのである。
『全クルー、そのまま聞いてほしい。クランドである』
ドイツ艦隊の旗艦がひとつであるグラディオスが、大地を抜けて海に出る。
数多の戦艦を目下にクランドは前方のアメリカ支部の艦隊と、望遠カメラが捉えた、自分と同じ目線の高さにいる艦を発見し、睨んだ。
『本艦は遺憾なことながら、避けられない戦いへと突入することとなる。本当に………どうしようもないな。あの艦は。私たちから大切なものを奪い、そして根絶やしにするまで動きを止めないつもりのようだ。しかし本艦は、いかなる状況であっても諦めない。不屈の精神を持つクルーで構成された鉄壁の要塞である。みなも、各支部で本艦の武勇のタイトルを聞いたことがあるだろう。不敗神話。それがグラディオスの別称になりつつある。ドイツ支部を率いるドルテは、グラディオスの活躍に大いに期待している。………が、あえて言おう。私はその期待、この戦いにおいては一切を忘れることにする!』
その通信はドイツ支部の艦隊には届いていない。グラディオスの艦内のみでクランドが叫んでいた。もし聞かれでもすれば、ドイツ支部の同軍の士気を低迷させかねない。
グラディオスでは、クランドの魂の咆哮に誰もが耳を傾けていた。特殊固体のEタイプ2体に追われ、戦うことになった時のクランドの演説を思い出していた。
『いいか諸君! 同志よ! 今回に限り、私は連合軍の禁じ手に触れることにする! 我々は地球、宇宙に住まう人類を救済すべく結集した軍である! 世界初となる、国境や宇宙を超えた混合部隊だ。しかし今、敵陣に居座る者によって、人類同士の戦争にまで発展してしまった。私は人類を恨まぬと決めたが、この時においてだけはその決意を破る! これは、我々から、我々にとってかけがえのない仲間を、エース・ノギを奪ったビーツへの復讐である!』
クランドが持ちだしたのは、彼らしくもない私怨である。
艦長失格の烙印を押されるべき醜態を晒して、その結果───
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