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因縁との決着B03

 果てなく続く白雲。これだけ続くんだ。ここらの天候は曇りで決定だろう。


 陽光を浴びるリヴァイヴ。雲のなかにいたせいで、メインカメラが氷結だらけになっていた。それが解けて水滴となり、瞬時に剥がれ落ちていく。


 やっとクリアな視界を確保できた。実はメインカメラは視界不良で頼れなくて、まだ比較的まともなサブカメラと、レーダーを頼りに雲のなかを突き進んでたのだ。


 それが今や、嘘だったかのように静まり返っている。なぜだかは知らないしわからないが、妙な違和感を覚えた。


「………静かだな」


『この空域には、私ときみ以外にいないからな。アンノウンは活動しやすい環境にあることは違いないだろうが』


 これだけ空が近ければ、それは疑いようのない事実ともなる。


 いつもとは異なり、雲が下にある。不思議な視点だ。なぜだかはわからないが、次第に心が平穏を取り戻す。


『心が騒ぎ、急ぎたくなるのもわかる。整備不良だったタキオンを強引に引っ張り出したとはいえ、それでもまだアンノウンが相手でも数十体は倒せるスペックだったものを、大破に至らしめる敵の存在。いかにきみとて、焦るのは当然だ。………しかし、だからとて冷静な心を欠き、平常を失えばより勝率も低下する。いくらリヴァイヴとて、万能ではないのだから』


「………わかってるよ」


 久々に説教されちまった。


 確かに………これは俺らしくもないよな。


 相手は胸糞悪い野郎だからといって、ビーツとの決着だけにこだわるのが俺の流儀なはずがない。


 楽しむこと。推し活だけじゃない。ヒナとシェリーとユリンに会うこと。みんなと再会を果たすこと。苦痛も、焦りも、悲しみも、絶望も、全部呑み込んだ上で楽しむ。


 享楽な野郎だと蔑まれたとしても。


 そうだよ。俺は元々、大したことのない人間だ。ただの転生者というだけで、本質から周囲の人間と異なるはずがない。


 ただちょっと、暴走癖があり、その末に武功をたててしまい、周囲からの評価に直結してしまっただけなのだ。


 成せば成る。これを心情にした、ただのつまらない男なのだ………ただ肉欲が強いだけのカスな傾向にもあるのだけど。


 それはさておき───


「………気付いてるな?」


『当然だ。後方、5時の方向。数は3。Cタイプ』


 アンノウンだ。アンノウンの活力は熱である。それは天候によっても左右される。雨天だと活動しにくく、出現率も低下する。しかし雨の降らない雲の上というのは、はっきり言ってアンノウンのテリトリーなのだ。高速で飛翔しているとはいえ、発見される可能性の方が高まる。


「どうするよ。まくか?」


『武装の試験をしていなかった。ウォーミングアップにもならないだろうが、試す価値はある。きみの好きにしたまえ───なにっ!?』


 ケイスマンの意思が、突然大きな声をあげた。


 まぁ無理もない。好きにしろって言った突如、アンノウンの反応が消失した。


『いったいなにが………推進力が若干の低下が見られた直後にアンノウンが消えた? ………そうか。その奇妙なジャケットか』


「テストには絶好な機会だったからな」


 昔はCタイプ1匹だけでも苦戦した。宇宙空間にいた第1クールでは、俺はドローンカメラや、その改修型のガンビッドを使ってBタイプをやっと倒せるくらいだったのが、ここにきてCタイプを瞬殺できるくらいの実力をつけた。いやほぼ機体性能に助けられてるだけなんだけど。


『………なるほど。私にとってはナンセンスでしかないそのジャケットも、その性能を知った今、評価を改めなければならないようだ。きみは今、発想という領域において、私を作った私を凌駕している』


「そりゃどうも………うん?」


 その時だ。アラートが鳴る。なにかが接近している。ただしアンノウンではない。感覚的にイレギュラーでもないだろう。


「この反応………戦闘機? いやもっとデカい………ガリウスか」


 前方と後方、複数のガリウス部隊が展開している。このままでは挟まれると警戒した時、雲を突き抜けて複数のガリウスFが現れた。


『そこの所属不明機。聞こえるか? こちら中国支部所属、ヘイラン中隊である。応答せよ』


 ヘイラン………黒狼という意味か。


 所属不明機と言うからには、どうやら俺の姑息でしかない工作も意味があったというものだ。


 元日本支部のメカニックたちが修理してくれた腕の端末は今、起動せず閉じている状態だ。それに連動するように、リヴァイヴからは俺のIDを読み取ることができないのだ。熱紋で照合しようにも、新造されたオリジナルガリウスだ。データベースに存在するはずがない。


『貴機は現在、我が祖国の領空を通過中である。所属と名前を述べ、速やかに転進せよ。さもなくば、撃墜する!』


『………と言っているが? 応じるのは自由だが、余計な時間をロスすることになるな。中国支部か。支部長を更迭したと言ったな。新支部長の体制のもと、所有するガリウスや軍規の刷新を行ったか。それにしても空域を主張するとは。アンノウンがいない前時代なら主張できるだろうが、この時代でそれを行うとは、余程熱心なリーダーが誕生したに違いない』


「原作どおりの支部長に戻った、のかもしれないな。あのひとならやるかもしれない。けれど領空を主張したって、得られるものなんてない………そうか。オルコットとやらの差金か」


 かつて中国支部は、元アリスランド艦長であったテンプスの王宮と化した。好き勝手やらかしたせいで経済なんて自分のためにあるなんて勘違いをするほどの変貌ぶり。


 支部の基地にあるのは大半がガリウスEで、まさに歩いたり飛ぶ棺桶。安価で買い取ったポンコツのせいで、中国支部はほぼ壊滅状態にあったのだ。


 立て直すには相当の資金が必要なはず。


 つまり、新支部長が就任したところで指針を多く決められるはずがない。新支部長なんてただのハリボテだ。スポンサーがいて、そのスポンサーの決定に従う人形でしかない。


 ではそのスポンサーは誰か? 決まっている。オルコットだ。


 オルコットとテンプスは繋がっていた。その関係は薄氷同然だったが、そのテンプスは連合軍の恥晒しとなり、オルコットは容赦なく切り捨てたかっただろうが、中国支部の被害者がテンプスの所業を全世界に訴えるかもしれない。オルコットは繋がりを絶っても、それがあったことは記録が否定できない。


 よってオルコットは中国支部を支援する代わりに、支配下においたのだ。なにもかもを刷新することで食糧部不足を解消したり、ポンコツ機を最新の機体に替えたりと。


 中国支部は旨味を覚え、抗う術を失い、思惑どおりにオルコットの言いなりとなった。


 もしかするとビーツがオルコットに警戒するよう言い含めたのかもしれない。だからこうも対応が早かった。そんな筋書きだろう。


『所属不明機! 応答せよ!』


「ま、だからって一々相手にしてられない、よなぁ!」


『なにっ!?』


 きっと、後方の部隊も驚いただろう。リヴァイヴがいきなり水平姿勢から直立姿勢になったのだから。


 ケイスマン意思から操縦権を取り戻すと、空気抵抗を受けて失速。


 突然リヴァイヴが突っ込んでくるものだから、後方に展開していた部隊は四方に散って回避するしかなかった。


『どうした! コントロール不能になったのか? ………返答は無しか。ならば今の行動こそ、意図的なものとみる。反抗の意思があると断定し、撃墜する!』


 ま、そうくるよな。


 やっとウォーミングアップになってきた。


「ドッグファイトをしながら最大加速の実験をする」


『いつでもきみは正気を疑わせるな』


 失敗すれば無傷では済まない。それくらいわかってる。


 けれど、やるしかないのだ。


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