因縁との決着B02
ドイツ支部は騒然としていた。
支部長のドルテは穏健派として知られて、事勿れ主義までとはいかないが、なるべくなら穏便に事態を解決することに努力する男と知られていたが、その彼とは思えない強気な姿勢により、その日、ついにドイツ支部は決戦に向けて総力を上げることとなる。
議会は渋々納得した。コーネリアを招聘することで、圧をかけたこともあったが、それでもアリスランドや、アメリカ支部の軍勢を決して上陸させないという強気な気概を見せることで、首を縦に振らせたのだ。
どちみち、無条件降伏などすればドイツ支部に明日から同じ朝が迎えられる保証などどこにもないのだ。
アメリカ支部もそこまで腐ってはいないだろうが、オルコットの代弁者を語り、非情を尽くすビーツの統治下に置かれでもすれば、ドイツ支部そのものがビーツのおもちゃになりかねない。
国民ならび難民の命を守るため、ドイツ支部は立ち上がることを余儀なくされたのだ。
非常事態宣言が発令され、いかにアンノウンの攻撃を防ぐバリアの下にいるとはいえ、飽和攻撃に晒されればエネルギーの生産が追い付かない。全員、訓練どおり地下のシェルターに退避した。
二段構えの防衛策。これなら軍も心置きなく戦うことができる。
しかし軍人たちの面持ちは、いつもと異なりどこか仄暗い。
アンノウンではなく人類同士の戦争ゆえだ。人類を滅ぼさんとする未知なる敵に対し、自分たちは戦い、守る道を選んだはず。しかし誰もが一度は想像し、実現し得ないと否定し続けた人類同士の、それも同軍による殺し合いが始まろうとしている。
メンタルに支障をきたした者も少なくない。
だがドルテは精神が壊れかけた同胞らを見捨てず、鼓舞した。なぜ戦うのか。矛盾していたとしても、そこにあるなにかを守るためではないのか。さぁ立て。と励ます。あとでドルテ自分がバッシングされるとしてもだ。それについてはコーネリアも同じ罪を被るため、業を併せることにした。彼女も一度ドイツ支部の病棟に訪れ、兵士ひとりひとりを激励した。
最初こそ余計な戦いの種を持ちこんだ戦犯として、激しい意見を突き付けられた。それでもコーネリアは凛として、それらすべてを清聴した上で激励するのだ。いつしか、コーネリアに反感を向けていた者たちも、そんな彼女の強い言葉に、否定するスタンスを忘れて、己が抱える命の火を、コーネリアという強い火に携えるべく、最悪なコンディションであろうが病棟を後にするのだ。
万全───とは言えないだろうが、揺れない大地と見知った風と水を毎日見続けてメンタルがいくらか回復した軍人らは、戦場へと赴いていく。
「凄まじいものだな。コーネリア少将は」
「ハーモンもいつか、ああなるのでしょうか?」
ブリッジにて、クランドは一足先に近海に展開する艦隊へ戻ったコーネリアについての感想を述べる。すると、同調したクスドは微笑を湛えながら尋ねた。
「それは個人の成長の度合いによるものだろう。そして個性も重要だ。それを鑑みると、ハーモンがコーネリア少将と同じ道を歩むことはないと考えられる」
「なぜですか?」
「彼はパイロットだろう。コーネリア少将はパイロットの出ではなく、むしろ私と同じ艦を率いる能力を持っていた。しかし、すべての道が違えるとも考えにくい」
「と、いうと?」
「ハーモンがこの戦いを生き抜き、いずれシドウ大尉と同じ年の頃になった時、グラディオスにいるかは不明だが、異動した先で部下を持った時、コーネリア少将と同じ檄を飛ばすやもしれん。彼もデクスター家の一員だ。その片鱗は、何回か見たことがある。………さて、時間だ。行こうか諸君。………機関科、ならび砲雷科に通達! グラディオス、レイライトリアクター始動!」
夜明けとともに、グラディオスはドイツ支部からついに飛び立つことになっている。
クランドの合図で、オペレーターの女性たちが一斉に各部に通達を開始した。
「機関科より通達。推進用レイライトリアクター回転開始。臨界まで30秒!」
「砲雷科も同様。武装用レイライトリアクターの回転を開始します。同様に臨界まで30!」
「パイロット科、シドウ大尉より伝達。パイロットたちのコンディション良好。やや興奮を隠しきれませんが、冷静な対処は可能とのこと。すでにミーティングを終えて、各員ガリウスFならびイレイザーに搭乗を完了しました!」
ここまでは完璧。いつもどおりだ。
「レイライトリアクター3基、臨界到達! 航行システムに異常無し。各部エネルギー伝達問題無し。システムオンライン。艦長!」
操舵士が叫ぶ。クランドは大きく首肯した。
「よし。ドイツ支部に通達。バリア部分展開申請。進路を開け。………グラディオス、浮上開始!」
「了解。ドイツ支部に申請を開始します」
「グラディオス、浮上します!」
「各員に通達。これよりグラディオスはドイツ支部近海に展開する友軍へと合流する。繰り返す───」
クランドの合図でグラディオスが振動する。
ゆっくりと巨体が持ち上がる。
新たな戦いの場へ、雪辱を果たすため、かけがえのない友の弔い合戦のため。
全長300メートルの戦艦が浮上し、空中で反転。申請を受けたドイツ支部側のコントロールが、バリアを一部解除すると、白い戦艦がそこを悠然と通り抜けた。
「………ふっ」
ドイツ支部の建物の上。
とある男が、グラディオスを見送っていた。
ただその視線は、友軍への武運を祈るものではなく、どこか邪な視線が混じっていた。
雲のなかを進むと、それはもう激しい振動に晒され、リラックスできたものではない。
ガタガタとどこかが揺れる。意識を機体の内部へ向けて、何度もチェックする。
『そう、不安になることはない』
ケイスマンの意思が、どこか愉快げに言う。ひとの気も知らないで、呑気なもんだ。
『この程度でリヴァイヴは崩壊しない。しかし、きみのメンタルが問題だな。よし、監視衛星の死角にいるだろうし、ここらできみのケアをするとしよう』
「お、おい。なにを勝手に」
『落ち着きたまえ。戦う前からそう力んでいては、いざ実戦が開始した時に消耗し尽くしているぞ。機体の操縦は請け負う。少々、気を楽にしたまえよ』
ケイスマンの意思は勝手に動いて、俺から操縦件を奪うと、リヴァイヴを上昇させた。
「なにやってんだよ。これじゃ監視網があったら一発で………」
『監視衛生の死角にいると言っただろう。それに、すでに中国支部がある場所は過ぎている。あとは、ここらは滅んだ支部跡地があるだけだ。まともに機能しているはずがない。辛うじて監視網があるとすれば、それはやはりヨーロッパに入ってからだろう。その頃になる時には、再び雲のなかを潜航する。きみはまず、外の景色でも見て楽しんでいたまえよ』
「楽しめっつったってよ………」
インターフェースこそ抜けないが、伸縮自在のワイヤーケーブルで繋いでいるので、ある程度コクピットのなかで動くことはできる。
リヴァイヴは雲の上に出た。速度こそ尋常ではないものの、雲の上を飛ぶというまたとない機会に、気分はまるで遊覧飛行のようだった。すべてリラックスできたとは言わないが、指摘された力みは解消された………ように思える。
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