因縁との決着A10
それからまた2時間後。武装を取り付けて、ケイスマンの意思にシミュレーションしてもらった結果、各部オールグリーン判定を受け、完成を告げる。
わずか数日という工期でロールアウトしたリヴァイヴ。
正気とは思えない作業だったが、それでも全員の力で完成させるまで至った。
形容し難い達成感に、職人たちは雄叫びを上げる。それを聞いた関係者たちもドックに突入すると、全員で歓声を上げた。
子供たちも雪崩れ込む。第15話で戦闘を見ただろうが、ここまで間近で見るのは初めてだと言って、大人たちと同じくらい興奮して見入っていた。ジェットコースターやメリーゴーランドなどのアトラクションでも見るような、キラキラした瞳をしている。
「これ、みんなで作ったのー?」
「おうよ。俺たちや、お前らのパパとママが必死に取り組んで、やっと完成したんだぜ」
「へー。動くの? 見てみたいなー!」
「あ、あー………それはだなぁ」
「乗ってみたーい!」
「あー………エース?」
大人たちははしゃぐ子供たちの相手をしていた。危ないからと、カラーコーンで仕切りを作る。
しかし子供というのは遠慮がないというか、無邪気なんだな。
欲望に忠実で、12メートルを超えるガリウスを興奮しながら見上げて、オーダーを連発する。
そんな我が子の可愛いおねだりを前にしたパパやおじちゃんたちは、困り果てた様子で俺を見る。
リヴァイヴを作ったのは元日本支部のメカニックたちではあるが、所有権はパイロットである俺に帰属している。ロールアウトしたのなら、なおのこと俺の許可なくリヴァイヴには触れられないということだ。
父親たちの視線に気付いた子供たちは、一斉に俺を包囲する。
「ねぇねぇエースさん! ロボットみせてー!」
「ケチケチすんなよー。だろショウイだろー!」
「あれ、動かしたーい!」
まったく遠慮のないガキどもだこと。
再び日本支部を訪れた時はどうにもならなかったが、数人は子供を見かけた。俺に言葉を話せる余力がなかったし、スピーカーから発声する俺を奇妙めいた目を向けていたのは覚えている。
しかし日が経つごとに人間らしさを取り戻すと、子供たちはすっかり俺に懐いてくれた。元々、ハーモンみたいな狂犬じみたクソガキを飼い馴らそうとした時期もあって、それと比べれば5、6歳くらいの男女の相手をするなど苦労はしなかった。どこか生意気な奴もいたが、コウに比べればなんということもない。
子供たちはグイグイと俺を引っ張る。玩具の人形の手足を引っ張って取り合う喧嘩をするみたいに。
「あー、もう。わかった。わかったから。危ないから大人しくしてなって」
苦笑しながら了承すると、子供たちは歓声を上げながら一斉にリクエストを出す。
「あれに乗りたい!」
「手の上に乗りたい!」
「動かしてよエース!」
「空飛んでー!」
「コクピットに座りたい!」
………不思議だよなぁ。耳ではみんなの声が混じって聞こえてるのに、頭ではそれぞれの主張をすべて把握できてしまっている。
だから俺は、順を追うように注意事項を述べた。
「みんなのリスエストに応じる前に、できることとできないことがあるからよく聞くこと。いいか? まず危ないから手とか足とかに乗っちゃダメ。コクピットくらいなら、まぁいいよ。電源を入れることはできるけど、もっと離れてるところから歩いているのを見るくらいかな。空はまだ飛べるかわからないからダメ」
「えー!」
予想どおりの反応。
まぁ5、6歳ならこういう機械に憧れるのも当然だよな。小学生の頃、近所の消防署から体験学習をさせるために消防車が校庭に派遣してくれたっけ。あれが俺の、唯一の自動車の運転席に座った瞬間だったな。ハンドルの大きさと重さに興奮したのも懐かしい。
だからこれは、俺から彼らに送れる体験学習の機会だ。元日本支部跡地にはガリウスなんてものはないから、生活必需品以外の、大きな機械に触れられないだろうから。
保護者たちも納得する条件を出すと、不満が飛び交うが、パパやおじちゃんたちは満足そうに頷いていた。「うちの子が乗りたいって言ってるんだから乗せてあげなさいよ!」だとか「うちの子の意見を無視するな。これは差別だ!」とか叫ぶ、変なモンスターペアレントがいなくてよかった。
「ふーん? そっかそっか。いい子になれないか。なら動かさないし、コクピットにも座らせてあげませーん」
「やだぁ!」
「乗せてー!」
「じゃあいい子にしてることな。俺の言うことは絶対に守ること。いいな?」
「はぁい」
まだ不満がある目をしているが、絶好の機会を逃したくないため、条件を呑むしかない。
リヴァイヴを外部電源に切り替える。背部や臀部に接続したケーブルから動力をまかない、システムを落とした状態でコクピットのハッチを開く。ちなみに子供たちは必ず親御さんの同伴が必須条件だ。それぞれカメラを持参していたので、コクピットの照明をつけてやると、子供が満足気に操縦桿を握ってガチガチと夢中に動かしているところを激写する。ひとり1分が条件だが、それでもこのツアー、かなりの時間を要する。なんか話を聞いた別のブロックにいた親子が足場に並ぶ列に加わっているし。
それらがやっと終わると演習の時間だ。歩かせるだけ………では、この子たちは満足できないだろう。
そこで俺は、脳内チップを駆使してリヴァイヴをコミカルに動かすことにした。ケイスマンの意思は『そんなくだらないことで関節部を摩耗させたいのかね?』と嫌味を述べたが、無視する。もしなにかあれば、職人のおっちゃん連中に整備してもらう。嫌とは言わせない。
「リヴァイヴ。今日の調子はどうだ?」
「………ぉぉおお!」
足場を外して、念のためジャケットも外して、ネイキッド状態の片膝立ちになったリヴァイヴを見上げて語り掛ける。
子供たちは俺の前に体育座りをして見学してもらった。かなり近い場所にいる。そのためか、無人のはずのリヴァイヴが脳内チップによって軽微な遠隔操縦によるコミカルなリアクションに、驚いて声を上げた。これには大人たちも目を丸くしていた。
リヴァイヴは頭部に右手の指を添えたあと、思い切って腕を突き出し、俺に届かないギリギリの場所でサムズアップを送る。
「ああ、はいはい。調子いいのね。この子供たちを乗せたわけだけど、問題ないか? ………ああ、疲れた? そうだな。俺も疲れた」
「はははは」
「ロボットが体育座りしたー」
「すげぇ」
みんな喜んでくれている。
ロボットは人間の道具だと思われがちだが、かけがえのない相棒なんだよと教えるための体験学習だ。俺とリヴァイヴの、まぁ独り相撲みたいなものだけど、仲がいいところをアピールするのが目的だ。
「なんか歌ってくれよ」
『エース、タイジュウ、オモイ』
「歌ってないじゃん。失礼なやつだな」
「アハハハハハ!」
スピーカーを使って電子音声を流せば、コントの完成。子供たちのウケはいい。
即興の演出に、子供たちはとても喜んでくれた。大人たちも満足してくれた。
たまにはこんな娯楽もいいだろう。こんな閉鎖的な空間にいたのでは、息が詰まる。子供たちにとって良い刺激になってくれたのなら、それが俺の最大の恩返しだ。
ブクマ、たくさんの評価、リアクションありがとうございます!
評価のみの総数が1000ポイントを突破してビビり散らかしております。気合が入ります!
次回からBパートですが、そこからが本番です。
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




