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因縁との決着A09

『えーす………えーす………えーす!』


 突如、頭のなかに響く声にハッとする。


 理由はわからないが、知った声だ。けれども、その現象が俺に発生するとは思いもしなかったのだ。


 彼女の声を、俺が聞き間違えるはずがない。大好きな声優のひとりだもんな。舐めんな。


 これは間違いなく共鳴現象だ。ライラとソータが共鳴し、シンクロし、ライラが人間を学び愛するにまで至った原因でもある。


 俺はかつて、ソータにライラから発するなにかを感じ取ることはできるかと尋ねたことがある。しかしソータは結局、第2クール序盤以外、ライラからなにも受け取ることはなかった。


 けれども、まさか俺がライラからテレパシーを受けるとは思わなかった。


「………いや、考えてみれば、彼女と接した時間は、ある意味でソータよりも長いから、その分信頼を築けたってわけか」


『先程からきみの脳に送られる謎の電波について、なにがそんなにおかしいのかね?』


「いや、こっちの話しだ。気にすんな」


 手を横に伸ばせばすぐ壁に触れてしまうような狭い空間にて。脳内にケイスマンの意思の声が響くと、すぐにライラの声が引っ込んでしまった。


『エース。もしや今のが………ライラという少女の超能力かね? テレパシーを送れる者が実在しようとは………』


「正確には人間じゃないけどな。でも敵対はしない。俺が防いだ。彼女は人間を好きになってくれたんだ」


『アンノウン………とでも言いたいのか? いや、以前きみが説明したとおりだとすれば、そうなのだろうが………にわかには信じがたい話だな』


 ケイスマンはアンノウンを憎んでいる。確か妻の他にも両親を殺されて、アンノウンを殺すための研究に没頭したんだっけか。


 ケイスマンにとってアンノウンとは殺すための対象でしかなかった。しかし、友好的なアンノウンがいると知り、そりゃあ複雑な心境にもなるよな。


「あんたも実際に見て、知ればいい。彼女は本来、人間に裏切られて、グラディオスの外でたくさんの悪意に晒される。吐き気を催すくらいにな。でも、そうはならなかった。俺の協力者がライラを引き留めてもくれている。なら、なにも心配することはない。外の人間の悪意を知りながらも、グラディオスというライラを受け入れてくれる場所にいるならきっと、誰も悲しむことはない。あとは俺が戻れさえすれば、全部が元通りだ」


『ふむ。ならば刮目させてもらうとしよう。人類、アンノウンという双方を改革してしまうきみの手腕を。………戻る手段としては、やはり一気に飛翔するしかないが、残念なお知らせだ。このガリウスにも単体で飛翔する能力はあれど、タキオンより俊敏性が5パーセント低下する。背負っているものが重い』


「飛翔にはなんら問題ないんだろ? 空気抵抗を減らす新設計の装甲をつけて、本体の軽量化を促して、やっと5パーセントの低下まで持ってきたんだ。一昨日なんて10パーセント低下だったじゃないか。大した結果だよ。あと2日。これならギリギリ間に合うんじゃないか?」


『肯定はしておく。しかし推進剤をいかに温存するかも加味しなければならない。間に合うかどうかは微妙だぞ』


 やはり懸念すべきは推進剤か。


 レイライトリアクターから生産する粒子は、結局のところ動力とビーム兵器に転用するエネルギーでしかない。どこぞのロボットアニメのように、推進力に転用できさえすれば、通常のガリウスの二割り増しくらい大きいレイライトリアクターの旨味が増すというのにな。


「………あとは、実際にやってみるしかないか」


『そうなる。起動実験は完了した。本稼働と出撃を兼ねて、明日には出撃となる。………今日のうちに挨拶をしておくべきだ。今日はもう休みたまえ』


 ヴッ───と唸りをあげて、オリジナルガリウスのレイライトリアクターの回転数が徐々に低下する。元々システムを点検するための起動だ。回転数はそこまでいらない。外部電源に頼る手段もあったが、この機体がどこまでやれるのか認知しておく必要があったため、レイライトリアクターを軽く回していたのだ。


 新しい機体から降りるため、スロットからインターフェースを抜き取ると、コクピットのハッチが開く。


 足場から慎重に降りると、そこには高田たち技術者が待っていた。


「どうだいエース。やれそうか?」


「やってみせますよ。皆さんの気概に応えないとね」


「システムはどうだった?」


「問題ありません。サポートをしてくれる人工知能も、オールグリーン判定です。本当に助かりました。仕事が早い上に丁寧だ。メイドインジャパンは格が違う」


「丁寧にやるのは当然として、工期短縮は本当に堪えたがね。いや本当に。何日徹夜したかも覚えてすらいない。ハハハ………」


 乾いた笑みを浮かべる高田たち。ここにいる大半が、まともな目をしていない。休めていないからだ。


 普通、新たな機体を製造するには数ヶ月、いや数年はかかる。設計図はすでに俺とケイスマンの意思が用意していたとはいえ、すべてが図面どおりに運ぶとも限らないのだ。1ミリ単位でもズレればやり直しがデフォルトの世界。眩暈すら覚えそうな精緻な作業が延々と続く上にパーツ数も多いし、そのパーツすべてに新素材が導入されていては、なおのこと難易度が上がってしまう。


 ところが高田たち日本人は、そんな作業に文句のひとつ───いや10回くらいトーマスに八つ当たり同然に噛みついたが、決して投げ出そうとはしなかった。妥協などひとつもない。


 やり遂げてくれたのだ。俺の新しい機体。原作には当然存在しない、製作陣においてもまったくの想定外の事態が連続して生まれた偶然の産物。リヴァイヴが。


 タキオンはプロトタイプガリウスGの時代を踏襲、あるいは継承して灰色の装甲を身に纏っていた。比較するとリヴァイヴは随分とカラフルになった。全体的に白く、赤い部分があったり。これは半分だけ俺のリクエストだ。灰色をメインとして、赤い部分を入れてくれと。すると完全な灰色ではなく、燻んだ白がカラーリングに選ばれた。日本人のこだわりだという。国旗をイメージしてるとか。造形からかけ離れてはいるけど。


 メインカメラはツインアイを隠すゴーグルタイプに変更。アンテナも新造して胸周りがトゲトゲしいが、可動域に問題はない。


「………明日、行くのかい?」


「はい。お世話になりました。本当は報酬をお支払いしたいところなのですが………」


「命は金銭に変えられないさ。妻だけでなく、仲間を大勢救ってくれたエースに、そんなものは要求しない。それに、今は不要だしな。いずれ世界に平和が戻った時、要求するかもしれないがね」


 高田は漢気を見せる。


 今は不要というのも理由がある。日本は鎖国状態で、世界の経済から独立しているし、生存を隠したいスタンスにあるのだ。クレジットによる支払いは、必ず足がつくし、統合された経済の通過は、この日本においてはもはや意味がないのも頷ける。今、高田たちは円の通貨を作って経済を回しているし、全員が同じものを食べて暮らしているのでは、金銭を使う場所がないものな。


「今日はエースの送別会だ。体力も戻ったのだろう? 好きなだけ食べるといい。ほら、以前リクエストしてくれただろ。今晩はすき焼きだ。特上の牛肉を食わせてやるから、精をつけることだ」


 新しいナノマシンと同期して、より化け物になったとしても腹は減る。


 すき焼きと聞いて、滅多に食べられない日本食に、垂涎してしまった。


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