因縁との決着A08
「俺とアークのことについて、誰もなにも言わないんだ。気を遣ってくれてる。でも俺だってわかってる。アークは俺がやらないといけない。あいつの黒いタキオンだけじゃない。ビーツ艦長の黒いイレイザーだって………俺しか止められない」
「………うん。そうだな。辛いな」
「辛い………辛いよ………でも………」
「助けてって、言えないもんな」
「………うん」
初めてソータの本音を聞いた。
本編ではその辛さを、アイリに打ち明けることはできなかったから、その描写は用意されていなかった。
真相は永遠に闇のなかに閉ざされ、閉鎖的な心境のまま、ソータは戦場へと赴かなければならなかった。
そうはさせない。舐めるなよ、この世界を作った製作陣ども。エースの度重なる原作破壊行為の影響で、最早辛うじて原型を留めつつも、本編の流れに沿わせようとする謎の斥力があろうと、私は抗ってみせるぞ。
ソータが悩みに悩み抜く様を映す描写や尺がなければ、作り出してやるわ。強制的にでもな。
「アリスランドの主力が2機とも迫るなら、止められる自信はある。でも………俺、どうすればいいのかわからない! ビーツは絶対に許せない。でも絶対にアークと組んでる。中途半端な力じゃ止められない。全力でやらないと。ビーツなら八つ裂きにしてやっても足りないけど、アークは必ず邪魔をする。俺………たったひとりの弟を………殺すしか、ないのかな?」
ソータは涙を湛えながら訴えた。
いつしか食堂はシンと静まり返り、人数こそ少なかったが、誰もがソータの言葉に耳を傾けて、しかし答えを出せなかった。
ここにいるのは誰もが大人だ。幸いなことに学徒兵はいない。子供というのは、ある意味で早計なところがあるからな。ソータの気持ちも考えず「甘いこと言ってないでエースの仇を討て」とか言いかねない。まぁそんな馬鹿がいたらぶん殴る予定ではあったけど。
そして大人は、みんな浮かない面持ちをしているだろう。ここにいる全員がクランドの意思や主張を重んじる人員ばかりだ。子供を守るために軍属となることを選んだエリートばかりなのだ。しかし今、その守るべき子供しか戦える力を持っておらず、数日前にひとりの少年を犠牲にし、その上で子供同士で、それも兄弟同士で殺し合いをさせようとしている。己の無力さを恨むしかない。
同時に、誰もが私の答えを待っていた。どのようなアドバイスをするのかと。間違っていれば殴ってでも止めるかもしれない。
この時、私は内心で苦笑していた。
エースもこんなソータの悩みを聞いたのだろう。アークとの問題ではなく、戦うことへの恐怖と迷いを見出してしまったソータを導くため、とある提案をしたという。
私も、同じことを思っていた。だから、
「なら、逃げちまえよ」
「えっ」
ソータは顔を上げる。大人たちは仰天していた。
言葉としては、どこか冷たく突き放すような文言だろう。だが私は、最大の笑みを浮かべていた。
「嫌なことから逃げて、なにが悪いんだ? アークと戦うのが嫌なら、戦わなくていい。イレイザーは………うーん。ユリンに乗せるか。だからソータ。ここから………逃がしてやろうか?」
戦いから逃がす。
これが、私とエースの共通する認識。
いかなる小説、漫画、アニメで主人公がどこか気弱なところがあり、それでも戦うことを宿命とされていたとする。
周囲は励まし、慰め、憂鬱な心境になった主人公を再興させるのがメジャーな展開だろう。
だがその王道に従わず、壊れていく主人公に手を差し伸べ「逃がしてやるよ」と言ったキャラは………うーん。どれくらいいるのだろうか。
それも、話数からして終盤の土壇場で、これからの戦いにソータが必須となるにも関わらず、逃がすという愚行にして英断ができるのは、多分………いないかもしれない。いたとして数人くらい?
ソータはしばらく目を丸くしていた。
信じられないものを見る目をしている。失礼な。私をエースみたいな化け物と同格にするんじゃねぇ。
「で、でもグラディオスには………」
「関係ない。ソータ。お前が壊れていくの、あまり見たくないのさ。前にエースもそれっぽいこと言ったんだって? 私も信じられなかったけどさ、今ならあいつの気持ちもよくわかる。ソータ。あれこれ考えたって、もう仕方ないんだ。むしろ雑念になって、操縦の邪魔になる。そうなったらお前が危ない。イレイザーがぶっ壊れてもいいよ。私が何度でも直すから。けどひとの心ってのは、そう簡単に治るもんじゃないんだ。だからさ、エースがそうしたように、私もソータを優先して守ってやる。心配すんな。ドイツ支部も悪くなかっただろ? いや、逃げるなら軍属じゃない方がいいな。よし、一般人に戻っちまえ。大丈夫だよ。どこかの工場に就職でもすればさ、ここは経済も安定しているから、とりあえず死ぬことはない。一般人になって、また最初から自分を見つめ直せばいい。エースのことも」
「な、なに言って………俺が抜けたら、アリスランドやアメリカ艦隊だって」
うん。わかってる。ソータと彼が操縦するイレイザーが無ければ、勝てないってことくらい。
それでも私はソータを説得し続けた。
「私たちはここで終わるかもしれない。けど、ドイツ支部を滅ぼそうだなんて考えてるわけじゃないだろうさ。それに、さっきから否定してばっかじゃないかお前。期待してた言葉とは違うか? それは悪かったよ。でも私は、私の言葉を取り消すつもりもないよ。ソータも大切な仲間もひとりだ。お前のことも守りたいんだよ。だから、もしこの先、本当に、もう無理ってなったら私に言いな。逃がしてやるから」
「………まるで、エー先輩みたいなこと言うんだね」
「げぇ。あいつの言葉丸パクリとかだった? なんか恥ずかしいな。っと、まぁそんなことは置いておいて。もう一回考えてみな。あと2日しかないけどさ。それでもしもう無理っていうなら、遠慮なく教えてくれ。ドイツで逃がしてやる。なにも自分で背負うことなんかないんだ。私だけじゃない。みんなにも相談してきな。大した言葉なんか出ないだろうけどさ。それでもソータが楽になれるってんなら、アークと戦いたくないって叫び続けろよ。………今ならみんな、ちゃんとわかってくれるかもしれないぞ」
サンドイッチを食べながら述べる。ホットコーヒーで流し込む。ソータのことを考えると、自分の体調のことなどさっぱり忘れていたからか、案外3個あったそれをペロリと完食することができた。
私は席を立つ。プレートを返却口へ戻し、口を閉ざしてしまったソータの前を通る。
「………シーナ」
「うん? どうしたー?」
「………ありがとう。逃がしてくれるって言った時、なぜだかまではわからなかったんだけど、どこか嬉しかった」
「そっかい。でも………本当は、エースに言ってほしかったんじゃないの?」
また意地悪な質問をしてしまう。
それは多分、先程の私の答えがエースと被っていたからだろう。本心だったとはいえ、ライバルの言葉を借りてしまったようなものだ。
するとソータは、そんな私の心境を読み取ったのか、意外な言葉をくれた。
「エー先輩っぽいこと言うから、なんか重ねて見ちゃったのは事実だよ。でも、シーナもそんなことを考えてくれたのが嬉しいんだ。だから、シーナがここにいてくれて、よかった。ありがとう」
「んっふ………あいよ」
危ない危ない。変な声が出かけた。そうなる前に、なんとか食堂から出ることができた。
………私がここにいてくれてよかった、か。
なぁエース。どこかで見てるか?
私、ちゃんとやれたか? ソータのこと、助けようとしてるの、ちゃんと伝わったかな?
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