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因縁との決着A07

 決戦まで、あと2日。


 ついにここまで来てしまった。


 私は、ほぼ寝ていない目をこすりながら、視力のみをどうにか確保して作業に臨んだ。


 最初はカイドウらへんが「もう寝ろ」ときつく注意を受けたのだが、私が鬼気迫るような表情で作業を続けているうちに、もうなにも言わなくなった。


 もう何日、ほぼ寝ていないのか覚えてすらいない。けれどもこれしきのことで音を上げられない。私には戦う力がない。転生者なのにな。どうせ転生するなら、なにかこう、特別な力を得たかったものだ。ライトノベルや漫画やアニメみたく。チート級の能力をひとつでも授かりたかった。


「………ついに無いもの強請りするほど、私もメンタルにきたか………」


 自嘲しながらシステムを調整。


 これしきのことで音を上げられない理由がある。私とほぼ同じ境遇で転生しておきながら、チート級の能力をひとつも授からなかったというのに、戦う力をちゃっかりと確保したもうひとりの転生者が、もう何日も前から頭から離れない。


 男だから戦う? 戦える能力を得た?


 馬鹿言っちゃいけない。あいつは、あの馬鹿は、狂人は、エースは、私と同じく整備士だったではないか。なにもかも努力で補った。特別な能力といえば異常なほど発達しまくったお節介と裏腹みたいなコミュニケーション能力。何回も相談に乗ったが、原作から逸脱した展開においても臨機応変に対応できる考察力の高さには内心で舌を巻いたし、嫉妬もした。


 負けられない。負けたくない。転生者として。ライバルとして。


 土俵は違えど、同じ場所で戦っている。


 エースは死亡判定を受けつつも、ライラはやっとその存在を感知したという。ライラほどのシックスセンスの高さを持つ者はいない。だから私もエースが戻ってくる方に賭けた。いつかはわからない。でもエースの周到深さなら、こういった展開も読んでいて、伏線なり保険なり張っているはずだ。運が良ければ、誰かに拾われて、好意的な視線を向けられていなくても数日で懐柔して、傷を治し、機体まで直しているかもしれない。


「ふっ………くく。なんでだろうな。普通ならあり得ないと思うはずなのに、そうなった方が自然だと考えちまう。………よし。マルチプルシールド、完成っと」


 周囲が病的な薄ら笑いを浮かべる私を珍妙めいたものを見る目を向けるが、知ったことではない。


 これが私だ。今の私なのだ。誰にも否定させない。


 そして私が完成させ、銘打った複合武装を兼ね備えたシールドがふたつ、エースのタキオンがあったブースにて鎮座する。明日にでもイレイザーに装着されるだろう。


 そのためのシミュレーションはすでにソータにやらせている。あいつ、エースが作ったジャケットよか、私が作ったシールドの方が使いやすいとか言いやがった。エースめザマァみやがれ。ひとつ勝ったぞ。


「ふぅ………疲れた………おやっさん。休憩もらいます」


「おうよ。よくやった。最終調整は俺がやってやる。だから………今日は上がれ。もう何日もろくに寝てねぇだろ。飯食って、寝ろ。いいな?」


「………努力します」


 カイドウはやっと、私が何徹もすることになる初日に言った言葉を、もう一度送ってくれた。


 取り憑かれたように作業に没頭する方が、苦痛を忘れられる。誰もが同じで、アリスランドとアメリカ支部の艦隊に決戦を決意したあの日、塞ぎ込んでいた学徒兵が全員職場復帰した。結果、各上長が怒鳴って止めようとするくらいの勤務時間を更新し続けたのだ。


 気持ちは同じだ。倒れるまで仕事をしなければ、エースのことを思い出してしまう。


 自分は戦うことができないから、銃のトリガーを引く者に託そうとしたのだ。


 結果的に、私は決戦2日前という中途半端な時間に仕事を終わらせてしまった。


 素直に寝られるなら問題ない。決戦前日に出勤すれば、まだまともなバイタルで集中できる。


 重たい足取りで食堂へと足を運ぶ。ランチタイムが終わる頃だ。野菜とパンが残っていればいい。疲れ果てた体は内臓が弱っている。肉や魚の脂も摂るべきなのだろうが、体が受け付けない。軽めな食事で腹を満たし、ベッドで眠れなくとも数分は目を閉じようと考えた。


 食堂には知った顔がいた。そのなかでも、もっとも名の知れた少年がひとり。ジュースを片手に、俯きながら座っていた。


「珍しいな。ソータがあのメスを連れてないなんて」


 そう。そこにいたのはソータだ。


 その可愛らしくも儚げな容貌に一目で心を奪われ推し対象に。どこから派生して、コウが最推しとなったのだけど。けれども推しキャラなのは違いない。


 閉まりかけた食堂で炊事兵に頭を下げると、オーダーを聞いてくれる。パンと野菜を注文すると、なんら難しくないメニューにホッとして、しかしそれでは芸がない。飯を作る者としてのこだわりと沽券にかけて、少しだけ手を加えてサンドイッチにしてくれた。レタスとトマトとハム。マヨネーズと胡椒。病人みたいな風貌をしていても、戦う者としての最低限の栄養を考えてくれたメニュー。ホットコーヒーも忘れずに。


 礼を述べて、テーブルへと向かう。


「よう。ひとりなんて珍しいな。アイリはどうしたよ」


「………シーナ」


 声をかけて正面に座る。許可なんていらない。初対面じゃないし。


 ソータは酷く落ち込んでいた。そりゃそうだ。前の話で、衝撃的な事実を知ったのだから。


「………アークのことか?」


「………うん」


 やっぱり。


 これまでソータは、アークと何回か対面した。私は見ていないが、第1クールから因縁があったという。


 確か第8話辺りで、ペンタリブルというコロニーで会ったとか。おかしな話だ。ソータとアーク、いや、グラディオスとアリスランドが対面するのは第2クールからだ。私はその事実をエースから聞いて、酷く狼狽したのを今でも覚えている。


「俺、家族と死別したとずっと思ってた。あんまり覚えてなくてさ。本当に小さな時で、写真すらなかったから」


 そう。ソータは天涯孤独の身だと思われていた。様々な補償制度で学びながら食べていた。学生時代はぶっきらぼうで飽きやすく、昼寝が趣味みたいなものだったが、成績はよかった。特に実技方面では本気を出さずとも活躍できる。アスクノーツという学園は結果さえ出せればある程度自由にしていても問題なかったし、それがソータの性に合っていたのだ。


 それがまさか、双子の弟がいて、それも敵艦に搭乗していて、こちらに来いと勧誘された。その頃にはソータはグラディオスに愛着がわいていて、究極の二択でよりメンタルが削られていく。


 今がまさにそう。ソータにとって、女ならアイリ、男ならエースという、最大の信頼を寄せる人物がひとり減った。原作ではかなり人員が減ったし、ユリンの揺さぶりがあって廃人寸前だったが、今回は初めての死者を出し、耐性が無い状態で突きつけられた無情の事実で、同じくらい憔悴していた。


「ソータ。お前………どうしたい?」


「どうって………グラディオスにいたい。でも………」


「そうだな。アークはお前の双子の弟だもんな。実感はないんだろうけど」


「いや、最近少しずつ思い出してきたんだ。昔のこと。両親の顔は思い出せなかったけど、隣に誰かいたような気がする。それがアークだとしたら」


「うん」


「なんで………俺の唯一の肉親と、やっと会えた弟かもしれない奴だけど………エー先輩を堕とした奴だけど………なんで………殺しあわなきゃいけないんだって」


「そうだな。そうだよな」


 この「天破のグラディオス」にて、唯一公式のヒューマンドラマがある。デネトリアとミチザネの親子とはまた違う、泥沼の様相たるものとなるのだ。


 生き別れの兄弟が殺し合いをする定めにある。これに心を動かされなかったファンはいないだろう。私はとても悲しい気持ちになったのを、今でも覚えているし、今がまさにそうだ。


 同時に考えた。


 そのソータを救えるのはアイリの他にもうひとりいる。


 本来はエースなのだろうが、奴はこの場にいない。


 よって、そのすべてを引き継いだ私が、その役目を担うのだ。


ブクマ、リアクションありがとうございます!

リアクションの総数があともう少しで3000件を突破します。最新話などにも思う存分ぶち込んでいただけると、作者はとても喜ぶことでしょう!

いえ、作者はブクマも評価も感想もレビューも大好物です。いつだってお待ちしてます!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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