表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
488/577

その仮面の下にはC02

「エース。こっちを見てくれ!」


「お呼びだよ」


「そうだな。………はーい。今行きます」


 高田に呼ばれて、トーマスから離れる。


 背中に突き立つトーマスの視線。振り返る。「なんだよ」と、こちらが聞く前に尋ねられた。確信犯め。


「………試したな?」


「感覚まで化け物じゃん。それとも勘が戻ったのかな?」


「うっせ」


 互いに苦笑して、今度から離れた。


 トーマスは元エージェントだ。オードリアインジェクション社の産業スパイとして、子供の頃から鍛えてきたとファンブックに載っていた。戦災孤児だったのだ。


 厳しい訓練の果て、今や徒手空拳から剣術、射撃までオールマイティな戦闘を可能にする。謂わば達人というやつだ。


 その達人から気を飛ばされた。ただのイメージであったのだが、気という不可視なエネルギーが、トーマスの命を吸い取って幽体離脱し、俺の後頭部目がけて拳を放った。そんな感じだった。


 俺が指摘すると、まんざらでもない笑顔を浮かべる。相変わらず糸目の笑顔。胡散臭い。俺を試して、なにがそんなに面白いのやら。


 俺に声をかけた高田がいる場所まで車椅子を進ませる。そんな遠くではないし、コツさえ掴めば片手でも少々蛇行してしまうが前に進めた。


「高田さん。なにか御用でしょうか?」


「うん。そろそろ昼食にしようという誘いをな。それと………いつまでも片手では困るだろう。これを修理しておいたよ」


「おおっ」


 オーバーリアクションなんてとんでもない。俺は本当に感激し、感嘆の声を上げた。


 高田が風呂敷に包んで持ってきてくれたのは、俺が最近本当に欲しくてたまらないと不便を嘆いていた、インターフェースを搭載した義手だった。


 それはただの義手ではない。神経接続型を謳う俺のタキオンに、どうしても必要なものだ。それに義手自体も神経が接続していて、五指や肘といった関節が自在に動く。


「ありがとうございます。これでやっと箸が使える」


「喜ぶのはそこかい。いや、食事だって不便だったらストレスが溜まる一方だけどさ。フォークを左手で自由に扱っていたじゃないか。そこまで不便そうには見えなかったが?」


「約1名、俺が食事で困ってたらいつの間にか隣に座って、アーンをしてくる野郎がいますので。ハハッ。俺はホモじゃないって何回言ったらわかるんですかね。あのピエロ野郎」


「な、仲がいいんだね」


 高田も面白い冗談を言ってくれる。勘違いをしているなら、誤りを修正すべく長時間の拘束をして説得してもいいのだが、高田も恩人なわけだし、ここは俺が耐えてやるとしよう。


 差し出された義手を受け取ると、呼び寄せた職人連中が来て補助してくれた。と言っても俺はコンテナに座り、ジャケットを脱いで、接続するための基部を差し出すだけだ。


「なかなか複雑な構造だっただが、造りさえ理解しちまえばこっちのもんだったぜ。これ作ったの、お前の艦の整備長だったな。大した腕前じゃねえか」


 技術屋のおっちゃんたちがカイドウを評価する。


 そりゃあ、俺たちのおやっさんだからね。この世界でも屈指の実力者であることは違いない。


「お前が目ぇ覚まさないうちにこの義手外して、接続するための基部も修理しといてやったぜ。無茶な使い方しやがって。焦げてた部分もあったぜ。あとちょっとで神経がダメになるところだったんだ。体を大切にするんだな」


「………そうします」


 多分それは拷問を受けた時に炙られたのと、グラディオスで補助無しで強引に取り付けたからだろう。


 なんにせよ、奇跡的に義手を再び付けられるのだ。職人のおっちゃんたちによる繊細な扱いによって、今度こそ正常な接続が行われる。


 ガチッと金属同士が噛み合う。肩口から基部までがピリピリして、それが指先まで広がる。激痛が収まる頃、ゆっくりと指を開閉し、それから本格的な動作テストに入る。


『各部異常無し。ふむ。元日本支部の整備士たちも、なかなかの腕をしているではないか。私を作った私の思考を設計図も無しに現物を見ただけで正しく理解する読解力。もはや賞賛に値する』


 マッドサイエンティストであったケイスマンの意思がべた褒めするくらいだ。


 これから仲間として、ひとつの課題に向けて作業できることが心強くなる。


「さて、ここからフレームを作り出すのと、装甲と武装か。システム周りは若いのと女手が担ってくれている。久々の大仕事に、みんな張り切っているよ。さぁ、こっちに来てくれ。そろそろきみが使っていたタキオンとやらの、解体を始めようじゃないか」


「はい。お願いします」


 ジャケットを羽織って、両腕で車椅子を進める。右手が変に力まないよう、細心の注意を払う。さもなくば、車椅子の車輪周りのホイールを握り潰していた。力の調整は得意な方だ。ヒナたちと触れ合うことで学んだ。性欲に抗えなかったカスの、ささやかな主張による自慢である。


 高田とともに進む。かつてアリスランドを製造したドックだ。やはり広く、ひとが歩いて端から端まで進むには相当の時間がかかる。


 されども、それはドックの中央に移動させられていた。どこにいても見えるように。そこまで時間はかからない。


 クレーンで懸架されているのは、かつての俺の愛機だった灰色のタキオン。原作には登場するはずのなかった機体。出現させるフラグを、偶然にも満たしていたことでそれを得ることができた。


 今は完全に沈黙している。レイライトリアクターでさえも。そこに住まうケイスマンの意思は、場所を移した。仮住まいとして、日本支部のサーバーを間借りしているとか。痕跡を残さないだろうけど、いつバレるかと思うと気が気ではない。


 灰色のタキオンは無惨な姿に変貌していたが、今はもっと酷い。焼け、ただれ、砕けた装甲をすべて取り外し、フレームだって可能な限り除去されている。俺が収容されていた半壊したコクピットブロックも然り。


 残っているのは、人体の中心、背骨というか脊髄を思わせるフレームのみだ。そこに重要なものが取り付けられていて、レイライトリアクターも固定されている。


「あの骨格、そのまま流用してしまっていいんだね?」


「あれをもう一度、すべて作るには時間がかかり過ぎますし。奇跡的に無傷だったわけですし。再利用しても問題ないでしょう」


 と提唱したのはケイスマンの意思だ。今もなお更新される情報を統括し、最新のシミュレーションを暇つぶしするみたいに仕上げている。


「………きみには、感謝をしているんだ」


「唐突ですね。どうしたんですか?」


「ビーツに裏切られて、なにをどうすればいいのか悩んでいた私たちの苦悩を、こうして一丸になって目的のために手を携えることで、一時的にとはいえ忘れさせてくれた。妻は最近、多くを考えて抱え込んでいた。その矢先に現れたのが、かつて私たちを守ってくれたきみだった。恩返しできないかと悩んでいたが、特務ですぐにでも離れなければならないきみたちを追えるはずもなく………でもきみは、再びこうして現れて、恩返しをする最大のチャンスをくれたんだ。まるでアリスランドを製造していた頃に戻れたようだよ。だから………ありがとう」


「感謝だなんて。それをするのは俺の方ですよ。みんながいなければ、今頃俺はあの世でした」


「お互いさまか。彼………ビーツも同じことを言ったが、上辺だけだったのだな。ならば、この機体が完成したら、是非ともきみにお願いしたいことがある」


「なにが言いたいのかはわかります。あのビーツの顔に一発ぶち込んで、面白い顔にしてやりますよ。任せてください」


「い、いや。そんな物騒な内容ではなかったのだけど………でも似たようなものか。うん、頼んだ」


 俺の流儀を通すような強引な会話になってしまったけど、今さらそれを訂正するつもりはない。


 思い出してみれば、もう第2クールも終盤に差し掛かるはないか。


 時間がないのだ。


 と、その時だ。


 俺は、とある妙案を思い付いて───


評価、リアクションありがとうございます!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ