その仮面の下にはB10
第13話からグラディオスに搭乗することになった私は、様々なことを経験し、多くを可能にしてきた。
情報収集だって積極的に行った。特にハルモニを所有し行使する権限を得てから、エースを真似して有事の際にハッキングしてみたりと。
「いや、いくら俺でも………というか、噂くらいしか知らない俺が、中国支部のその後の内情など知るはずがないだろ」
「そりゃそうだ。じゃ、少し待ってな。ハルモニ。連合軍のデータベースから、中国支部に関する情報を引っ張り出してほしいんだ。テンプスが更迭されてからどうなった?」
『イェス。メカニック・シーナ。検索します。このままお待ちください』
こういう時、ハルモニは便利だな。私専用のコンシェルジュみたい。テンションがブチ上がる。いつか「お嬢様」って呼ばせてやるぞハルモニめ。
コウと向き合って数秒でハルモニがデータベースを検索をかけ、回答を引っ張り出す。
ちなみに公開されている情報を漁らせたので罪には問われない。
『お待たせしました。1件ヒットしました。支部長の権限を剥奪されたテンプス氏は本部へと連行され、犯罪者を収容するコロニー、通称「牢獄」へ収容された模様。テンプス氏の後任は未だ決まっておらず、ひとまず代表者が舵を取っているようです。戦績は辛うじて回復しております』
「なるほどねぇ。経済状況は?」
『芳しくないものと思われます。すぐの回復を見込めず、誰もその責任を取りたくないという心理状態が拍車をかけ、このままでは数年もせず空中分解するものと見込めます』
「………ん? なら、なんで宇宙から中国支部へ、なにかが落ちたんだ?」
『グラディオスならびドイツ支部のレーダーで辛うじてキャッチできた情報によると、その落下する物体は中国支部を目指していたものの、途中で進路が逸れ、落下目標地点がかなり外れたものと思われます』
「どこかわかる? 地図的に北朝鮮との国境くらいなら回収できそうだけど」
『目標はそれよりも外れて進んでいた模様。元日本支部跡地の地表へと落下しました』
「うへぇ。高田のおっさんたち、ビビッただろうな」
「いきなり空からそんなものが降ってきたのでは、正気ではいられないだろう。だが彼らとしては黙っているより他にないのが辛いところだろうな」
元日本支部跡地の地下には、大勢の日本人がいた。滅びたと思っていた大地の下で、彼らは先人たちから譲り受けた技術と文化を守り、密かに暮らしていた。
ただ、いつまでも地下なんていう息が詰まりそうな空間にいるわけではなく、偽装したバリアのドームの下で暮らすようになった。
開放的な空間にいた方が精神衛生も改善される。偽装されているのは外側だけで、内側は外を見渡せる造りになっていた。だから高田たちとしては、いきなり白い空を飛ぶ戦艦が現れて、驚いたことだろう。気が気ではなかったよな。
そんな彼らの目的は、世界進出ではない。むしろ逆に時をより遡り、かつて鎖国状態であったように、外界を受け付けず、なにもかもを遮断した生活だった。
もう日本支部跡地には誰もいない。辛うじて生き残っていた人物は、死亡したことをビーツに偽装させたことで、記録から完全に抹消されたのだ。
気持ちは理解できないこともない。アンノウンの脅威に晒され、ガリウスなんて戦力も所有していない彼らにとって、この狂った世界で生き残るにはそうするしかないのだ。
だから、日本の国土のどこかに、宇宙からなにかが落ちてきても文句は言えないのだ。
「本当、難儀するよな。宇宙から落ちてきた資源なんて貴重だろうにさ。中国支部の連中なんて取りに行けないだろうし、高田さんだって………」
「………シーナ? どうした。いきなり黙って」
「………いや、なんでも、ない」
「うん?」
ピタリと手が止まる私を訝しむコウ。それに反し、私はそれどころではなかった。
いきなりだった。
ビリッと脳裏に電流が走ったのだ。
ひとは、これを閃きとも呼ぶのだろう。
「………まさか」
コウに───いや、誰にも聞かれない程度の声で呟いた。
パズルのピースで例えた。
手元にあるのは不揃いで、形状も歪でバラバラで、あの特徴的な凹凸もない。
しかしいざテーブルの上に並べて置いてみると、案外予想を裏切って嵌っていく。
中国支部───元テンプス支部長。
元テンプス支部長───エングレルファクトリー社ではなく、オードリアインジェクション社と懇意になる。
オードリアインジェクション社───廃れたとはいえグラディオスと手を組む。ガリウスE意外はまとも。会社の規模からして地球へ物資を降下することも可能。
中国ではなく日本───元日本支部の整備士だった高田たちにオードリアインジェクション社とのコネがあるのか?
いいや、ひとつだけある。強力なパイプを個人的に持っている奴───エース。
だがエースがそんなことをするだろうか? まだビーツは健在だ。そのビーツに生きていることを明かすのか?
だとしたら違う。エースがやっているのではない。別の誰か。協力者。ははぁ、そうか。そうやって生き延びたのか。
「ふふっ………」
「シーナ。さっきから変だぞ。いったい、なにがそんなに面白いんだ?」
「ごめんって。気にすんなってダーリン。あとで胸吸わせてやるから」
「頼むからそういうことをみんなのいる前で言うのはやめてくれ!」
あー面白い。エースの周りにいるメスどもの気持ちがよくわかる。
次の瞬間、機関砲みたく舌打ちが連鎖した。「これだから彼女持ちはよ」だってさ。
コウは真っ赤になって後退る。周りの殺意に気付いて、いたたまれなくなったのか「休憩してくる」と言って離れてしまった。あとでなにがなんでも吸わせてやる。赤ちゃんみたいにな。
そうか。これが赤ちゃんプレイ。レイシアに頼めばライラを預かってもらえるだろうか? ローションもつけてもらおう。
「エース。もしお前が本当に生きて帰ってきたら………色々な意味で嫉妬させてやるよ。私色に染め上げたイレイザーと、その進化の瞬間を見られなかったってさぁ」
俄然、楽しみになってきた。栄えある瞬間を眺められることを、それから帰ってきたエースが、なんていうのか。
………不確定情報のはずだろうに。エースが本当に生きている前提で考えるなんて、まだ早い。
私のやるべきことは山積みだ。まずは、それらを片付けなければ。
「ぶぇっくしっ!!」
「わぁエースくん。おっさんみたいなくしゃみだね」
「うるせぇぞピエロ野郎。無駄口叩いてんじゃねぇ」
「喋れるようになったと思えば、辛辣だなぁ」
ピエロ野郎ことトーマスが苦笑する。
あれから数日。俺は最短で喋れるくらい回復したとはいえ、まだ車椅子が手放させないし、ケイスマンの意思をハルモニの代用としてフル活用しなければならない状態にあった。
「誰かが噂してやがるのかもな」
「エースくんは死亡判定受けてるだろうし、そんなもの好きいるのかねぇ?」
「さぁな。まぁ、お前の言うとおりだよ。誰も俺が生きているとは思ってもねぇだろ。………ハァ」
「辛気臭い溜息つかないでよ」
「うるせぇな。こちとら、やること多すぎて頭がパンクしそうなのに、他のことも考えないといけないんだよ」
気落ちする原因は、やはり俺が異存してしまっている彼女たちのことだ。
おそらく復讐に憑りつかれているに違いない。
間に合わせなければならない。彼女たちが修羅に落ちるか、無惨に殺される前に助けなければならないのだ。
リアクションありがとうございます!
申し訳ありませんが、日曜日に仕事が入ってしまいましたので、今週の日曜日も2回とさせていただきます。何卒ご了承ください。
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




