その仮面の下にはB03
『お、お久しぶりです高田さん。俺………日本支部に来てたんですね』
「わ、後ろからエースの声がする!?」
『あ、すみません。喉の調子が戻らないので、壁にあるスピーカーを拝借してます』
高田たちもいいリアクションをしてくれる。
俺はトーマスと会話していたとおりスピーカーを通して発声すると、背後と俺を交互に見比べたりするものだから、口元だけで笑った。
「どうなってんだぁ?」
『それは追々。高田さんたちとトーマスは、面識があったんですか?』
「まぁ、色々とな。ほら………ビーツの件でよ」
『あー………なるほど』
日本支部跡地の連中とトーマスの共通点が、この奇妙な組み合わせを作ったのか。まさかあいつも、過去の自分の所業が俺を助けるだなんて考えもしなかっただろう。
高田たちもトーマスも、かなり前にビーツと面識を作って交友関係となった。トーマスは業務上の関係なのだけど。
トーマスはまだしも高田たちは騙されていたわけだし、この話題となると浮かない顔をしてしまうのも仕方ない。
『ここは日本支部の………どこですか?』
「富士ドックに隣接している施設さ」
富士ドック。かつてアリスランドが製造された場所だ。
………待てよ? アリスランドがここで製造されたってことは、高田たちってもしかしてオルコットとの繋がりがあるんじゃないか? それはまずい。
『あの………ビーツから受けた仕打ちは俺も覚えています。でもそれはビーツへの私怨であって、もしかして皆さんって、オルコットとか、連合軍との繋がりってまだあったりします?』
「連絡を取ろうと思えば取れるけど………うーん。そのオルコットとやらは知らないな。確かに俺たちは前までは連合軍だったけど、もう見捨てられたも同然だし」
「そうだな。俺たちのことを知る奴も限られてるんじゃないか?」
そうか。ビーツの偽装ドームと、報告書によって彼らは全員死んだことになっている。
施設だって経年劣化して、整備もしてないから使えるものもないって思われて、見捨てられたのかもしれない。
そのすべてを信じることはないけど、まだ希望はある。
「さてエース。なんでこうなったのか、あるいはなぜきみがこうなったのか………は、我々は知っている。トーマスが教えてくれた」
世界標準語に戻す高田。やっと話が通じて、内容を理解したトーマスは「ふふん」と勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「大変だったようだな。ビーツさ………いや、ビーツと戦ったんだろう?」
『ええ。それで部下を守った末、このザマです』
「献身的な行動も考えものだな。それからのことは知っているかい?」
『さっき目が覚めたばかりなので。まったく』
「そうだな。ここは地下にある施設だから電波も入りにくいし、きみの端末もこちらで預かっている。いや、勘違いしないでほしい。別に脅迫したいわけではない。海水に浸って故障していたんだ。こちらで修理させてもらうよ」
『………なんで、そこまで』
「ビーツの暴挙と裏切りから、私たちを守ってくれたのはきみだろう。信奉はもうゴメンだが、ビーツより信頼できる。かつてきみから受けた恩を返せるのだからね。日本人は義理堅いのさ。それにきみは半分ほど同郷の人間のようだし。困ったらお互い様精神を、学んでほしい」
困ったらお互い様ね。ビーツにはない言葉だ。是非とも聞かせてやりたい。
「現状は私たちには掴めない。しかしトーマス。きみは違うのだろう?」
「ええ、まぁ。アリスランドと交戦していたグラディオスは、コーネリア・デクスター少将率いるドイツ支部の艦隊が駆けつけて救出。それ以降、グラディオスはドイツ支部に身を寄せていたようです。しかし昨日、ビーツさん率いるアメリカ支部の艦隊が近海に配備。物量差と質でドイツ支部を落とそうとしているようですね。しかしコーネリア少将も一枚岩ではない。宇宙にいる私兵を呼び寄せ、ドイツ支部の防衛艦隊に配備しています」
「なるほど。膠着状態にあるわけだ」
「しかし、いざ戦闘が始まれば苦戦は強いられるでしょう。数と質、どちらもアメリカ支部の艦隊が上だ。いかに不敗神話継続中のグラディオスであっても、勝てるかどうか」
オリジナルガリウスの差もある。
俺が抜けたことでグラディオスはタキオンを失った。一方でアリスランドにはイレイザーとタキオンがある。
主人公機とライバル機を揃えたアリスランドこそ盤石だ。なにが来ようと攻防を両立させてしまう。グラディオスにはそれがない。ソータがどれだけ頑張ったとしてもだ。アークも覚醒を使うようになったし、ビーツは擬似的に作り出した。
勝てない。どう足掻いたとしても。
「しかし………勝てる見込みがひとつだけある」
『え?』
「エースくん。きみだよ」
トーマスは俺を見た。俺も見上げる。
「きみは完治半年といった怪我をしてたけど、ナノマシンのお陰で、あと数日あれば全快になれるだろう」
『けど肝心の機体が………あ』
「そう。なんのために僕がきみのところに駆けつけ、助けたと思う? これでもお得意様は大切にするスタンスは社内でも評判でね。器用貧乏だのと色々言われたけど、これでやっと仕事のひとつが片付く。そして今いる場所も。なかなか運命を感じると思わないかい? 材料は持ってきた。製造と修理を同時に行える施設もある。人員だってほら、揃ってる」
『たし、かに』
「じゃあ、すぐやるべきだよエースくん。今日からだ」
運命的、ね。
言ってくれる。でもそのとおり。
具体が掴めなかった高田たちもピンと来たようだ。
「タカダさん。今すぐこの施設の設備、使えますよね?」
「まぁ、お前さんがそう言ってたから、整備はしておいたけど………マジでやるのか?」
「やらないといけません。アリスランドにすべて持って行かれる前に。エースがまた戦えるようにしなければ」
「………わかった。幸い、ここは造船所だったしな。ガリウスなんてすぐ取り掛かれるだろう」
高田は部下たちに指示を出し、ドックへ走らせる。
トーマスはニコリと笑いながら、悪魔みたいなことを述べた。
「エースくん。血反吐吐くような作業だけど、お得意様を失ったり、今回の長期出張で発生した経費を支払ってもらわないといけないんだ。やれない、なんて選択肢はないよね?」
『………当たり前だ。先に行ってな。考えをまとめとく』
「車椅子を持ってくるよ。座れるくらい回復はしてるから」
『頼む』
とんとん拍子で話が進んでいく。俺はトーマスに助けられたが、同時に「なんとしてでも料金支払えやコラァ」という人質にもなったわけで。
トーマスが車椅子を取りに部屋から出る。
ひとりになったタイミングで、ケイスマンが再び声をかけた。
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