その仮面の下にはB01
どこかで、啜り泣く声が聞こえた。
ここはどこだろう。と周囲を見渡す。
いや、探るまでもない。俺にとっては見知った場所だ。
グラディオス。ハンガーへと続く道。
怒涛の勢いで続く戦いに勝利して、腐敗神話を築く連合軍の異端。
俺はパイロットチームの副隊長を担い、推し活に日々邁進していた。
ところがだ。今日はなぜか、通路を歩く人員が見当たらない。
なぜだかは知らないが、やけに通路が暗く見える。
それでも歩みを進めていくと、やはり───いた。更衣室だ。
俺にとって最大の推しキャラであるひとり、ソータ・レビンス。椅子ではなく床に座り、なにかを抱きしめて泣いていた。
「ソータ。こんなところでなにしてるんだ? 腹壊す前に、ほら。立つんだ。椅子に座ろう。なにが悲しくて泣いてるのか知らないけど、話くらいなら聞くから」
「………エー先輩」
ソータは号泣していた。本編ではあまり見なかったかな。俺が脳死して、右腕が消し飛んで、軍隊から除籍されそうな時くらいか。
なんだか懐かしくなりながら、ソータの手を取って立ち上がらせる。ところがソータは椅子に座らず、俺を見上げて詰問した。
「なにが悲しいか知らないって………なに言ってんの? エー先輩だって………見たじゃないか」
「え? いや、お前なに言って………それよりお前が抱えてるそれ、自分の軍服じゃ、ないよな? ジャケット………デカいし」
「もう、こうして残されたものを抱きしめるしか、存在を感じ取れないんだ。ここにいたって証を」
「………そんな。そんなはず………っ!?」
俺はソータがジャケットを取り出したロッカーを見た。ソータのロッカーではない。
ハーモンのロッカーだった。
「………ハーモンが、死んだ? いや、なんで………俺が助けたよな? タキオンで、アークのタキオンから庇ったはずだ! こんなの、なにかの間違いだろ!? なぁ、ソータ! 嘘だって言ってくれ!」
「え、なに言ってんの? 整備士のエー先輩がガリウスに乗るとか、あり得ないでしょ?」
「は? い、いや俺は確かにオリジナルガリウスに乗ってたぞ? お、お前自分の隊の副隊長も忘れたのか?」
「さっきから変なことばかり言って、俺を怒らせないでよ? なんなんだよ、もう………エー先輩はグラディオスの整備士で、俺にイレイザーを作ってくれたじゃないか。副隊長なわけないじゃん」
泣きながら怒るソータ。
そんなはずはない。と軍服を見下ろし………愕然とした。身につけているのは整備士の証でもあるつなぎで、腕には学徒兵を示すグリーンバッジがあった。その下に整備士の証であるワッペンがある。いつものパイロットである証のワッペンと、副隊長であるバッジと、少尉を示す公証がない。
これは………いったい、どういうことだ?
俺はなにを間違えた?
待てよ? ハーモンが死んだとしたら………
「な、なぁ。教えてくれソータ………みんなは………ヒナは、どうした?」
「変なこと言うなよ! ヒナはパイロットになって数週間で死んだ! Dタイプに突かれてバラバラになった! そんなに知りたければ教えてあげるよ! コウはオペレーション・テンハで囮になって死んだ。シェリーは友軍の撤退の支援をしている時に撃ち殺された! クスドはアークに撃たれて死んだ! ハーモンはアークのタキオンの抜き手でコクピットを潰されて死んだ!」
「そんな………まさか………」
「それだけじゃない。ライラだって………この前、俺が殺した。アイリはやめてって言ったけど、無我夢中で………やらなければグラディオスが落ちてた………だから、俺が殺した! あれからアイリは口もきいてくれない! あの戦闘でいっぱい被害者が出た………ハンガーだって無事じゃなかった。イリス先輩が死んだよ。デーテルのクソ野郎は未だに嫌味を言ってくるし! なんだよ………なんなんだよこれは! エー先輩! どんな地獄なんだよこれは! ………そうだ。エー先輩がサフラビオロスを、俺たちが帰る家があったコロニーを真っ二つにした時から、なにかが狂い出したんだ。それでもエー先輩はヘラヘラしてるし………ふざけるなよエー先輩! いい加減にしてよ!」
「う、あ、ぅあ、ぁ、あ、ぁぁぁあああ………」
悪夢のような、地獄だった。
失った。俺はここにきて、大半を失った。ふらっと更衣室の外に出る。
ソータの言ったことは本当だった。犠牲を重ねた代償に、すれ違った誰もの瞳に生気が感じられない。
俺はなにをしてきたんだろう。整備士になって機体の修理と製造をした?
これではまるで………原作のとおりじゃないか。
女子更衣室に入る。誰もいない。
ロッカーを調べた。ヒナとシェリーの。………なにも、ない。遺品として家族のもとに送られたあとだった。
「まさか………嘘だ………俺は、なにも守れなかった? じゃあ、俺が今までしてきたことって………」
眩暈がした。
ゆっくりと床に崩れ落ちる。
世界が回転しているような不快感。倒れ込んだ床は案外柔らかく、それどころか奥底へと吸い込まれるようで────
『人生やり直しますか? 継続しますか?』
そこで、再び目を開けた。
ハルモニに似た電子音声が脳内に響いたと思えば、俺は突然白い空間から彩りのある世界へと弾き出された。
その空間には覚えがある。崩れかけた世界。
見るものすべてに摩訶不思議な感覚を与えるような、それでいて今回は上下が逆転しているんだもんな。地上を見上げている。宇宙空間にも似ていた。
「あー。なるほど。そういうことかぁ」
「なにを理解した?」
「俺が、少なくとも生きてるってこと。それとタキオンも近くにあるってことだ。………そうなんでしょ? ケイスマン教授」
辟易する俺に声をかけた男。背後にいた。振り返る。見上げる大地に立っていた。
その男の名はケイスマン・テラー。サフラビオロスで教授業をする傍ら、妻を殺したアンノウンに復讐するために新型ガリウスを設計、製造した軍の科学者だ。
第1話で死亡したはずの男がなぜ俺の目の前にいるのかといえば、これはオリジナル展開のひとつで、なんとケイスマンは死ぬ前に自分の意志をプロトタイプガリウスGに移し、高性能AI化していたんだな。
ケイスマン本人ではないが、優れた思考能力と判断能力を持った、擬似人格を搭載したAIに、俺は導かれたことがある。
「肯定しておく。しかし………」
「しかし?」
「人間における生命活動においてのみに限定した解答であるなら、肯定とするだけで、それ以外となると………逡巡を禁じ得ない。もはや、きみを人間と呼称するべきなのか、仮に判断を第三者に委ねたとしてもだ」
「えーと、つまり?」
「私であっても判断しかねる。それがきみの身に起きている。もはやそれは異常だ。私は手助けしただけに過ぎぬとはいえ………」
「はぁ」
何回か聞き直しても漠然ととしたイメージしか与えてくれないんだもんな。このひとは。
話をややこしくするだけで、答えをひとつもくれやしない。
「要するに、なにが言いたいんです?」
「それはきみ自身の肉眼で確かめるべきだ。意識の覚醒を促すレベルには達したからな。もう返すぞ」
だからそれはどういうこと───と聞く前に、俺は立っていたはずの空に落ちた。重力が逆転したように、地上から発射台もなく打ち上げられたのだ。それでいて平衡感覚まで逆転しているらしく、落下した感覚に陥る。
声も上げられずに落ちていく。どこまでも、どこまでも───
リアクションありがとうございます!
というわけで悪夢スタートからのお帰りエース。
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




