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その仮面の下にはA11

 ドルテは気合いを入れて支部に戻っていく。その近くには車椅子に乗った元パイロットであり指揮官となったシュヴァルツがいて、ドルテに応えを返して共に行く。


 殺すために戦うのではない。守るために戦う。人類同士の抗争だろうが、自国防衛のため大義名分を引っ提げて、議会を承諾させるつもりだ。


 グラディオスもまた、この瞬間からフル稼働に入る。


 エースの死で多大な影響が出た。親しい者がいなくなる恐怖に駆られ、精神的に追い詰められていたのが嘘のように活気を取り戻す。いや、恐怖はあるのだ。ただ、それを心を奮い立たせて押さえ込んでいる。


 今はそれでも構わない。きっと、前に進めるということだから。


 クランドは無線で炊事兵に指示を出す。なにかのアクションを起こすにも空腹では意味がない。食事を大量に作らせて、ローテーションで食べて体力を付けるのだ。


 私もそのローテーションに組み込まれ、深夜から明け方まで作業に加わる。今まで寝てばかりだったから睡眠などあとででもいい。


 どのセクションでも同じ現象が連鎖するように発生し、グラディオスはまだ10日もあるのに臨戦体制へと突入する勢いで稼働を開始したのだった。


 それから数時間後のことだった。


 明け方まで続いた作業から帰った私は、仮眠するために自室に戻る。そこにはライラがいて、健やかな寝息を立てていた。その正体がアンノウンだとしても、人間に擬態しているのだから、睡眠くらいはするだろう。最初は寝なかったが、睡眠を学習してからは夜から朝までこうして眠るようになった。


「………しーな?」


「あ、ごめんな。起こしちゃったか」


「おかえり」


「ん。ただいま」


 部屋に入るとすぐにライラが目を覚ます。私を見てふにゃりと笑った。メスのくせに私をときめかせるとは、やるじゃねぇか。


 シャワーを浴びてジャージに着替えてベッドに戻ると、ライラはうつらうつらしながらも、睡魔と戦って私を待っていた。


「寝ててもよかったのに」


「んー。でもね、しーなにおしえたいこと、あったから」


「教えたいこと? へぇ、なんだかね。そりゃあ。よいしょっと」


 ベッドに潜り込む。ふたつベッドがあるが、ライラは決まって私のベッドに潜り込む。仕方なく私がもうひとつのベッドで寝ると、朝にはライラがそのベッドに移動していた。つまり添い寝したいのだ。今は諦めて、ふたりでひとつのベッドを使っている。


 ベッドの上に手足を投げ出して仰臥すると、いつものようにライラが私の肢体に抱きついた。これでも身長差でいえばライラの方が10センチは高い。私はいつもライラの全身に取り込まれるように包まれる。別にいいのだけどね。ほら、ライラってこれでも胸があるし。同性の胸に顔が包まれるのも、最近はいい感じだと思えてきた。温かいし柔らかいし。


「しーな。らいらね、すこしだけわかったの」


「なにが?」


「つながったんだよ」


「えと………ん? なにが?」


 ライラはいつもほわほわとした口調で、突拍子もなく抽象的な話し方をする。小さな子と喋っているようなイメージだ。一人称が自分の名前とか。まぁ生まれて間もないから仕方ないのだけど。これから私たちと同じ喋り方をするようになるだろう。


「らいら、ずっとさがしてた。でも、いつもつながらなかった。けど、さっき、えと………30ふん? くらいまえに、みつけたの! らいらや、みんながだいすきな、ひかり!」


「ん? んん? 光………」


 数秒ほど考えた。


 ライラがなにを言いたいのか、さっぱりだった。


 光と言われても、なにをイメージする。 太陽。照明。けど大好きなってなに?


 待てよ? 私はなにか、大きな勘違いをしてないか?


 ライラの発言ではなく、ライラを見る。そして思い出す。彼女の正体を。出自を。


 さらに遡る。原作。登場したのは第14話。………違う。それは彼女の容姿とサブタイトルが明らかになった時だ。


 歌声に実力のある新人がキャストを務めたのがライラ。


 その声が初めて登場したのは第13話。ソータを誘った。


 そう、誘った。なぜかといえば───



「………ッッッ!!」



「わぁ、どうしたの?」



 勢いよく起き上がる。驚くライラの肩を掴んで、グイと迫る。


「ライラ。今の話、誰かにしたか?」


「う、ううん。つい、さっき感じたことだから………」


「………なら、いいんだ。うん、ごめん。びっくりさせちゃったな」


 ライラを離して、大きく息を吐く。心臓がバックンバックンと跳ねた。


「しーな、どうしたの? おっぱい痛い?」


「違うって。いいか、ライラ。今の話は絶対に誰にもしちゃいけないぞ」


「なんで?」


「まだ確定………決まってないし、詳しく事情を聞かれたら、お前説明できないだろ?」


「う、うーん。そうかも」


 そう。ライラの正体は、グラディオスでは私。アリスランドではビーツしか知らない。


 希望的観測を吹聴した結果、実は誤っていたと知られれば、ライラは恨まれてしまう。彼女を守るためにはギリギリまで伏せておきたかった。どこに目や耳があるか、わからないからな。


 しかし、それでも………そうであったとしても、今の私にとっては、これ以上とない福音だ。


 おそらく、そうなのだろう。ライラが言うなら、そうなのだろう。


 私はライラを抱きしめる。あいつのためではない。


 勝ち筋の見えない戦いに、光が見えた。


 ライラが述べた「みんなが大好きな光」とは、なにも光源のことを言っているのではない。


 それは希望だ。私たちに希望があると言いたかったんだな。


 ライラにはもうひとつの能力がある。


 第13話でソータと繋がったのが例えだ。


 睡眠の途中で偶発的に発動したのだとすれば、繋がったのであれば、それはきっと───






 薄暗い部屋の奥底で。


 それは静寂を打ち破るかのように、ゆっくりと唸りを上げて起動した。


 回転数などない。ワイヤレスで微弱ながら電力を集め、システムのみを叩き起こしたのだ。


 滅茶苦茶になった内部では、ほぼ割れて黒くなっているモニターが、まだ残っている部分が淡く光ることで、システムのみを正常に作動させたと告げる。


『………やれやれ。彼らですら予想しなかった敵との遭遇と、接触と介入によって余計なロスをしてしまったな』


 人語を操るそれは、決して外部には漏れない音量で独り言る。


『彼から聞いた話では、適切なタイミングで覚醒した私が、私を作った私による意志の譲渡と、操縦者の技巧と操縦を学習したことでより高次元な改善プランを提唱するつもりだったというのに。いささか………遅かったようだ』


 それはまだ生きている───とはいえ原型を止めていないし、半ば壊れているカメラのひとつを作動させ、それでも足りぬと判断して、周囲の設備に侵入した。


『………なるほど。最後の戦闘が行われて5日か。これはもしかすれば、間に合わないかもしれない。………しかし、それだけで諦めるのは早計だと、きみは言うのだろう。特異点たる君よ」


 搭乗者の指示なくして作動するシステムは、近くに正統なる搭乗者がいると突き止めた。


 そして呼びかける。長く失われていた意識を覚醒へと導くために。


 何度も、何度でも───


リアクションありがとうございます!

申し訳ありません。手違いでこんな時間になってしまいました。

次回は申し訳ないのですが19時を予定させていただきます。来週は4回、いえ5回くらいできるように目指します!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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