その仮面の下にはA10
「う、うるさい………うるさい! うるさいうるさいうるさい! 黙れよお前! 僕とソータの問題に首を突っ込んできて………まるであのエースみたいじゃないか!」
その評価は光栄だね。あいつを見習った甲斐があったものだ。
「僕は騙されないぞ! グラディオスなんかに行くものか!」
「こっちがお断りだぜクソ野郎が!」
「ソータの弟だろうが容赦はしないわぁ。思い出せばあなたぁ、何度もエー先輩に無礼を働いているものねぇ!」
私の勧誘を拒否するアークに、ハーモンとユリンが怒号を上げた。
そんなおっかないランキング上位者に詰められて、アークも怒りのボルテージだけをあげる。
やっぱり、まだダメか。アークをこちら側に引き込むことはできないし、条件が揃ってないのかもしれない。
そうなると、もう今日は帰ってもらうしかないか。指針を変更。アークを精神的に揺さぶる方へ。この鬼畜みたいな所業ができるのは私だけだ。多分、エースはやらない。ジョーとの一件があってからか、私は私に無意識で課していた枷を外してしまっていた。
「ビーツ艦長の言ったとおりだ………グラディオスは異常だ! エースが死んだのに、まだ足掻くなんて!」
「エースとビーツの違いって、なにかわかるか?」
「正義か悪かくらいかだろ!」
「違うね。人命を尊重し、心から喜べるようにしてやれるか、だよ。聞くけど………アーク、お前さ。ビーツから普段、なに言われてんの? そりゃ艦長としての指示だろうけどさ。プライベートな時間を一緒に過ごしたことある? うちのド変態少尉は、プライベートだろうがなかろうが、他人を構い倒すぞ」
「それは………」
「答えられない? 別にいいよ。こっちが勝手に言うだけだ。ビーツが普段、どんなことをしているのかは知らない。どんな教えをしているのかも知らない。けどさ、ビーツはお前のなかにある怒りを増長させるだけで、エースはどちらかといえば………うん。解そうとしたんじゃないか? アメリカ支部で会ったって、あいつ言ってたし。その時の会話と、ビーツの教えを比較してみな? お前はビーツに、なにをもらったんだ?」
「う、あ………ぁぁあ、ぁあああああ!」
半狂乱で叫ぶアーク。
我ながら、なかなか鬼みたいな追い詰め方をしてしまったと思う。推しキャラなのに。けど叫ぶアークきゅんもかわいっ。なんかユリンの気持ちがちょっとわかる。拗らせた私にとって、猟奇的な嗜好もあって、アークきゅんを歪ませたくなり───おっと。今は淑女にならなくては。
「帰ったらビーツに尋ねてみるんだね。あなたは僕に指示以外の、愛情を与えてくれるんですか? ってさ。でもまぁ、大抵の奴はそんなの与えないと思うけどね。一方的な愛じゃ………なにも解決しないし。エースだったら一緒に与える存在になろうなとか言うんだろうけどさ。だから肯定したら警戒しとけ。お前をただ搾取できる駒としか見てないかもよ」
「うるさい! 黙れ黙れぇ!」
「アーク。そういうのが辛かったら、私を頼っていいからな。エースもそうしたように、お前と共存できるようにしてやるから。すぐには無理だけど」
「胸糞悪い! こんなの異常だ! ソータ、僕はお前を諦めない! いつか家族としてお前を迎えに来る! 待ってろ。戦ってでもお前をグラディオスから奪い取る!」
うわぉ。大胆発言。また大きく歪んだなぁ。実に私好み………ケフン。いかんいかん。そういう場合じゃなかったな。
反省すると、アークはタキオンへ向かって走り、腕を駆け上がってコクピットに飛び移った。素晴らしい身体能力だ。
漆黒のタキオンのレイライトリアクターが作動し、旋風が巻き起こる。
風圧に飛ばされぬよう踏みとどまりつつ上空を見上げた。再度部分解除されたバリアから、タキオンは脱出するのだった。
それを見送っていると───全員の視線が私に集中していることに気付いた。
「………まさに、エースが憑依しているようだったぞ。いや、なにかが歪んでいるようだったが」
クランドの率直な感想。へいへい歪んでいてすみませんね、と開き直ることもできない。
だから私は、思い切って別の意味で開き直って、全員に言い聞かせてみた。私自身の言葉で。
「ま、とにかくさ。こういうわけだから。ソータ。アークの言ったことは気にしなくていい。不安だろうけど、そこはエースの言葉を思い出せばいいんだ。みんなもだぞ。勝手にしゃしゃり出て、アークの対応をしたのが気に入らないってなら謝るけどさ。けど、私だってエースに教わったひとりだし。みんなもそうだろ? ここでヘタレて、アリスランドの、ビーツのいいようにされていいのか? そんなので満足か? 私は違うよ。絶対に言いなりになんてなりたくない。あっちが返答を求めてくるのが3日後。ドルテ支部長がどんな判断をするかは、私にはわからない。けどどっちにしたって、私たちがアリスランドと戦う運命にあるんだろうが。あっちから10日後に仕掛けてくるって言ってたし。………なぁ、みんな。その時腹減って力が出ないようじゃ、話にもならないんだ。ここはエースがいた場所だ。私はそれを守りたい。思い出、教訓ごと。ビーツの支配下になったら、それも奪われるんだ。そんなの嫌だろ? 人類同士の戦争なんて馬鹿げてると思うけど、そんなこと言ってられる相手でもないんだ。私ひとりじゃ拳銃を撃つことくらいしかできないけど、必要ならやるよ。守れる力があるなら守るべきなんだ。パイロットは特にそうだ。みんなは、どう思う?」
「俺も戦う。エー先輩に助けられたひとりとして!」
「さすが………コウだね」
私の問いに答えたコウが、前に出る。
エースならこうしたよな。
本編ではソータにスパイ疑惑もかけられるほど疑心暗鬼になって、より環境が悪化する。けど事情をみんなに教えて、アークを狼狽させてしまえば、ソータの無罪を主張するだけでなく、決起集会同然に蜂起する。
今は亡きエースを弔い、思い出を守ることを目的として掲げれば、エースを信奉していたパイロットたちの目の色も変わる。
「しゃーね。やってやるか」
「最初からアリスランドは潰す予定だったしねぇ」
「エー先輩の居場所だったここを、無条件で明け渡しはしない!」
ハーモン、ユリン、シェリーが同意する。先程とは顔色も違う。理由としてはクランドはできるなら忌避したい人類同士の殺傷であるが、いつまでも病んで泥沼のように沈殿し、腐り落ちるよりずっといい。
とにかく生きる。勝って、生きることを前向きにさせるのだ。
すると次々に同意する声が上がり、グラディオスはかつて第12話のクランドの演説のあとのような、高いモチベーションと士気を得る。
ソータはまだ不安そうにしていたが、アイリが手を握ると、やっと顔を上げて戦う意志を示す。殺すためではない。いつものように守るための顔だ。
「………済まない、ドルテ。お前の意志を無視して、勝手に盛り上がってしまって」
「いや………それでいいのかもしれない」
「なに?」
「グラディオスの士気の低さに不安を覚えていたのは確かだ。しかし今は違う。そもそもだ。私はオルコット氏の指針に反対して、地球に飛ばされたわけだ。守るものが増えて不安になっていただけなんだ。けど今は違う。数ヶ月前の、グラディオスが出航した時の勢いを見ているようだ。いや、それ以上かもしれない。………クランド。グラディオスの不敗神話、頼らせてもらう。今、決意した。ドイツを、私の第二の故郷とも呼べる安年の地を、オルコットに渡してたまるか! ドイツ支部、議会は任せてくれ。必ず説得する。なに、近海に滞在しているならいいではないか。上陸させなければいいのだから。………やれるな? クランド」
「………ああ。………ああ! 必ず成し遂げる!」
ドルテだけではない。クランドにも火がついた。
とてもいい流れだ。私は初めてエースが不在の時に独力で成功させた事実に、内心で雄叫びを上げた。
「やるじゃねぇかよシーナこの野郎!」
「ギャン!?」
直後、カイドウから尻を叩かれて、本当に悲鳴みたいな雄叫びを上げた。カイドウはセクハラ容疑で女性陣に詰められた。
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