その仮面の下にはA09
漆黒のパイロットスーツとヘルメットを身に纏うアークは、まさに謎の人物であった。
しかし、そのベールがやっと外された。
驚くのも無理はない。
なぜなら、向けられた多数の照明の下にいたアークの素顔は───ソータと瓜二つだったからだ。
殺すと喚いて止まらなかったソータの勢いでさえ停止する。
幼馴染のアイリでさえ、言葉を失った。
「僕の名前はアーク・レビンス。幼い頃事故に遭い、両親とは死別、双子の兄とは生き別れとなった。それが僕のすべてだ」
さらに語る衝撃的な事実。
私だって当時はかなり驚いた。ヘルメットの下はどんな可愛い顔をしているのだろうと考えたけど、まさかソータの双子の弟だったとは思いもしなかった。
製作陣も酷なことをするよなぁ。
生き別れの双子同士で、殺し合わせてたんだもんな。これについては私だって心を痛めましたとも。
「アーク………レビンス………!?」
「………ああ、やっぱり………忘れられてたんだ。どうせ、あのエースとかいう奴がそうやって記憶を操作していたんだ! なんでもかんでも、自分にとって都合よくことを運ぶために! ソータはそんなことないって言うけど、本当に? 本当に自信を持って否定できる? ………思い出してみなよ。ソータはエースをどう見てた? エースはソータをどう扱った? エースはソータを弟みたく扱っていたんじゃないの? わかるよ。あいつ、僕のことだって救ってみせるとか言ってさ。………全部ビーツ艦長の言うとおりだった。あいつが死んで、やっとソータは自由になれたんだ。ソータのしがらみは僕が断ち切ってみせる! だから………ソータ。こっちに来て。一緒に戦おう? ソータを救えるのは僕だけなんだ。また一緒に、家族として………」
どちらかといえば、それは逆だ。
確かにアークの言動は、一部ではあるが頷けるものがある。
例えばエースによるネームドキャラクターへの可愛がり。その接し方は異常なほどで、本人は否定したが高度なコミュニケーション能力の賜物とも言えた。短期でネームドキャラクターほぼ全員を籠絡するくらいの勢いで攻略し尽くしたと聞く。私もそのペースには驚かされた。どんな好感度アップ系のゲームだよと。その代わり、ヒナたちへ向けなければならない意識が疎かになったと反省もしていた。推し活の権化だからな。あいつは。
そりゃあ弟、妹みたく扱うだろうさ。サフラビオロスのアクスノーツ学園とやらでは先輩という立場が継続して愛称になっているとおりに。
異常なくらいのお節介に心を開いたハーモンが、狂犬から忠犬になるくらいだ。
ソータはそんなエースを慕うのも当然で、ビーツはそれを利用し、アークを洗脳した。自分にとって都合がいい情報を吹聴しまくり、アークがエースを恨むよう差し向けたのだろう。ゆえにアークはエースを毛嫌いする。
アークは手を差し伸べて、ソータを勧誘した。
ソータはたじろぎ、黙考する。
それには様々な理由がある。
ところがアークは、それを拒否として受け取ってしまうのだ。
もしここにエースがいたら、アークに恨まれていても、恨み節を飼っている愛犬の遠吠えみたく聞き「うんうん」と喜んで受け止めながら、しゃしゃり出て円滑にものを進めるかもしれない。変態の所業。
なぜなら、あいつは推し活の申し子だから。
はっ。そういうことかよ。
双方のうち、どちらかが欠ければ、生存した方がそれを引き継ぐ。あいつの推し活を引き継ぐと決めたばかりに、私に回ってきた最大の試練というわけだ。
………上等だよ。やってやる。これは私にしかできないだろうからな。
「ダメ! 行っちゃダメだよソータ!」
アイリがソータの腕を掴んで引き留める。ソータはアイリを見て、放心しかけていた意識を引き戻した。
「おい邪魔すんな女! ………なんだよソータ。そんな目をするなよ………僕たち、双子の兄弟なんだって………なんで、わかってくれないんだ………ああ、そうか。まだエースの呪いが残ってるんだ。そうか、そうか。穢らわしい、あいつの呪いがっ………なら、いいよ。戦場でまた会った時、その呪いを受けた全員を殺す。そうすればソータは、やっと自由になれる! ビーツ艦長だって、ソータを受け入れてもいいって言ってた! あははっ! これでまた、一緒に暮らせるね! ソゥ───なんだよ。あんたは」
エースに向けるはずの視線をアイリに突きつけ威嚇するなかで、私はついにエースを真似して、しゃしゃり出てしまった。
ソータと瓜二つでありながら闇の濃い目をするアークきゅん。
案の定、敵視されるのだけど───甘い!
んぁぁあああああああああああアークきゅん可愛いぃぃぃいいいいいいいいい!!
ソータきゅんとマジで顔が似てる。ふたり並べて鑑賞したい。あ、セットでついてくるだろうアイリはいらねっ。返品してやるわ。
一卵性双生児の特徴出てるわぁ。目元が特に。
ハァ、ハァ………落ち着け。暴走するな私。今ソータきゅんならともかく、アークきゅんに襲い掛かったら返り討ちに遭うどころか、グラディオスからも居場所を失いかねないっ!
くぅ………鎮まれ。裡に秘めたる腐女子魂っ!
ああ、でもさでもさ。アークくんの、かなりムッとした表情なんてかなりそそられね?
あれで威嚇してるんだろうけど、私にとっては逆効果!
大好物でしかない!
さっきまでエースの件で落ち込んでいた私の心が、大・復・活!
これぞ私の推し活! これから思う存分アークきゅんと語れると思うと、ワクワクするわぁっ!
「ちょいと横から失礼するよ。私はグラディオスの整備士をしてるシーナってもんだけど………アークきゅっ、ごめん。アークくんさ、さっきから一方的だろ。ソータの話もちゃんと聞こうよ」
「はぁ? なんでそんなこと、指図されないといけないの?」
「いや、ちょっとさ。前にお前が大嫌いなエースから聞いたことがあるんだ。ソータ、ごめん。お前のプライベートなこと教えるけど、勘弁な? ………ソータは昔、事故に遭ったらしいな。それでご両親と死別した。でも………おかしいよな? なんでアークの名前を出さなかったんだ? 双子の弟なんだろ? 知らないはず、ないよな?」
「それは………きっと、エースが洗脳したからで………」
「エースはそんな卑怯なことしないよ。ひとを不幸にしたがらない奴だ。それは私が、いや、ここにいるグラディオスクルーが約束する。なんたってあいつ、誰かが泣きそうになってればすぐに発見して、傷口を舐め回しても塞ごうとするんだから。東に怪我人あらば傷を舐めて癒し、西にメンタルが崩壊しそうな奴あらば全身を舐め回して塞ぎ………って、そんな顔するなよ。あいつ、そういうド変態メンタルしてるだけで、実際には舐めてないから」
私の発言でクランドを含め、グラディオスクルーは「確かに」と微笑や苦笑を浮かべる。ソータたちも軽く笑っていた。
「で………考えられる可能性はひとつ。ソータはアークを覚えていない。事故の後遺症とかじゃないかな。小さい頃の事故だったんだろうし。で、事故後にアイリと会った。年表としてはこんなもんか。つまり、ソータは内面的な問題から、アークが記憶から抜け落ちてしまったんだと思う。なぁ、ソータ。アークのこと、思い出せるか?」
「う、ううん。俺に双子の弟がいたなんて、初耳だよ………」
「それって、エースがそう言えって命令してるのか?」
「そんなことはない。シーナの言うとおり、俺が忘れてるだけなんだ。覚えていれば………きっと、俺はアークを探すと思う。それで、エー先輩も手伝ってくれたんじゃない、かな」
「ああ。あいつならお前の生き別れの弟を全力で探すさ。………んで、こうして実際に敵対勢力の一端として現れれば………さて、どうするかね。アーク。お前のことを助けようとするんじゃないか? さっき、お前がソータに手を差し伸べたみたいにさ」
私はアークに手を差し伸べた。まだまだ全然、お互いに触れられない距離だが、態度で示すことの重要性を、私はエースから学んでいる。
「お前こそグラディオスに来いよ。エースも多分、それを望んでいるんじゃないかな」
評価、とにかくビビるくらいのたくさんのリアクションありがとうございます!
明日は日曜日なので、すが………申し訳ありませんが、都合により3話とさせてください。
最初は0時です!
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