その仮面の下にはA08
「10日の猶予を差し上げます。この期間のうちに、国民や難民を避難させるとよろしいでしょう」
「本気なのかね!? 国は違うが、同じ組織に所属している支部を襲うなど馬鹿げている!」
「では、ドルテ支部長。簡単な解決策を教えて差し上げます。即刻、グラディオスならびコーネリア少将を追い出すといいでしょう。無関係であると示すのです。ビーツ艦長は理解のあるひとですので、ドルテ支部長のご意向はきっと伝わることでしょう」
「くっ………」
ドルテにはできなかった。
コーネリアとは数日接しただけで、剛毅な女性だという印象しか持てなかったが、クランドは違う。
かつて同じ軍学校で過ごし、研鑽し、再会を誓った仲なのだ。
守るべき民を取るか。友を取るか。究極の二択であった。
一方でクランドも、ドルテに安易なことは言えなかった。もちろん、求められれば答えるつもりではあるが。それでも自分からは言えない。「絶対に勝つのでお前の戦力と国を貸してくれ」などとは。
アリスランドだけでも厄介なのに、アメリカ支部も相手にしたのでは勝ち筋が見えて来ない。
私はそれを見て、なんとも歯痒くなった。エースがここにいたら、なんて言うだろう。………いや、あいつもなにも言わないか。成り行きを見守る。そしてドルテが出した答えによって、対応を変えていく。それでも勝ち筋を見出すのだろう。それがあいつと私の違いであり、大きな差でもある。
「しかし、すぐに答えられるものでもないと承知しています。よって、3日の返答の猶予も与えるとのことです。ドルテ支部長。ドイツ支部を守れるのは、あなただけだ。外から来た者たちに好き勝手されたいですか?」
それをアークが、ひいてはアーク越しにビーツが言うか。
まぁこういう台本を考えたのもビーツなのだろうけど。内容がかなり付け加えられているし。得意なんだろうな。人身掌握というか、洗脳というか。
「お伝えすることは以上です。なにかご質問はありますか? 僕に答えられる内容であるなら、お答えしますが」
「………なぜ、アメリカ支部の艦隊はすぐに攻めない? ビーツ艦長なら、すぐに攻め込むと考えていたのだが」
「先程申し上げましたが、ビーツ艦長は思慮深いひとです。ドルテ支部長が板挟みになっていることに心を痛め、猶予を与えるべく、あの海域で停止しているのだと思います。そして、睨み合いがこうも硬直状態になるのは、クランド艦長だって理由がわかるでしょう?」
いけしゃあしゃあと言ってくれる。その環境を作り出して、ドルテへプレッシャーを与えている張本人こそビーツだろうに。なにが思慮深いだ。
後半の、近海で睨み合いが続く理由もわかる。ハルモニに探らせると、数秒で答えを出した。
コーネリアの部隊が、徐々に宇宙から降下しているからだ。
ただ、それはガリウスのみであって、所有している艦ごとではない。宇宙戦艦は数あれど、大気圏内外両用は、グラディオスとアリスランドの、最新鋭艦クラスのみなのだ。よって戦艦ごと降ろすことはできない。なにかあれば超長距離の砲撃くらいはやりそうだけど。
降下する部隊によって、ドイツ支部の艦隊が徐々に戦力が集まってきている───とはいえ、物量差でいえば、まだまだ覆ることはない。
ドルテはなにも言わなかった。言えないのだ。ここでドイツ支部を救うため、クランドを見捨てることもできる。見捨てられてもクランドは文句は言えない。
そして、ドルテもわかっていた。クランドを見捨てたとしても、その先の未来はもう見えている。
コーネリアが筆頭に立ち、指揮をしていたとはいえ、すでにドイツ支部の艦隊はアリスランドに主砲の照準を合わせていた。友軍へ弓引く行為こそ重罪───といえば、先にやらかしたのはビーツなのだけど、オルコットという幹部がどうせ罪状を揉み消して、むしろこちら側に突きつけるだろう。
仮にクランド率いるグラディオスと、コーネリアをドイツ支部から追い出したとしても、その罪状からは逃げることはできない。ドイツ支部はアメリカ支部に接収されるかもしれない。
ならば、一縷の可能性に縋りグラディオスとともに戦いたい。というのが本心であろうが、人間同士を戦わせるために防衛力を高めたのではない。部下に人殺しの汚名を着せたくはないのだろうな。ドルテはやる時はやるが、優しい人物であるから。
「では、次です。ここからは個人的な内容なのですが………ああ、いた。ソータ」
アークは動き出す。
私たちが檻の役目をしているからと言って、自由にしやがって。名を呼ばれた途端にソータたちの怒りに再び火がついて「殺す!」と叫んで暴れ出した。
砲雷科が飛び出して展開。銃を向ける。ドイツ支部の人間にはさせない。グラディオスが壁となる。
「アーク。済まないが、それ以上の接近は禁止させてもらう。諸君らアリスランドの人員が、私の大切な部下にどのような仕打ちをしたのか、忘れたわけではあるまいな」
クランドは微動だにしなかったが、鋭い視線をアークに突きつける。
「甘いですね、クランド艦長。私たちは戦争をしているんですよ? あんな男をひとり失った程度で、これほどまで憤るなど、あなたらしくもない」
「きみに私を理解できるとは思えんがね。そして、我々は人類同士の戦争をしているのではない。アンノウンと戦争をしているのだ。間違えるな」
「ああ、それは失礼。我々は、連合軍のなかでも異端分子を炙り出し、早々に処分する指示を本部から賜っていますので。人類同士の戦いなど、どうとは思わないのですよ」
ものは言いようだな。
オルコットが気に入らない人物を異端分子と決めつければ、アリスランドが処刑する仕組みだと言っているようなものだ。言い方によっては正当性を謳っているが。
「話が逸れてしまったか。まぁいいでしょう。僕はここから動きません。ソータと話しができれば、それでいい」
「………早く済ませて去りたまえ」
「承知しております」
許可を取り、私たちから20メートルほど離れた場所で語るアーク。
「ソータ、こうしてゆっくりと話し合うのも………久しぶりだね。いつぶりだったかな。………ああ、そうだ。10年以上も前だったかな」
「ぁあ゛っ!?」
うわ、珍しい。あのぶっきらぼうで、気分屋のソータが、こんな声を荒げるなんて。
「知らねえよお前なんか! 話をすることなんてない。おい。非武装とか言ってるけどヒートナイフとヘビィガンくらいは搭載してんだろ? 乗れ。お前のタキオンに乗れ。俺も最低限の武装を積んで乗ってやる。10日も待つ必要なんかない。今すぐ、ここでお前をぶっ殺す!!」
ハーモンが殺された時よりも怒ってる。原作ではアークと対面したソータは憤る反面、戦うことを恐れていたから、あまりリアクションできなかったんだよな。
「………悲しいな。やっぱりビーツ艦長が言ってたとおりだ」
「なにがだよ!」
「ソータは汚染されているんだ。洗脳って言ってもいい。あのエースっていう、僕にとって最高に腹が立つ男の手によって!!」
「お前、もう一回でも言ってみろ? エー先輩を殺した上に侮辱を重ねるとか………許さない!!」
「なんでわかってくれないんだよソータ。お前はエースによって歪まされたんだ! なんで僕のことが理解できない? ………あ、そうか。10年以上も会ってなかったもんね。顔はともかく、声だって忘れちゃうか。なら………いいよ。見せてあげるよ。僕の、全部」
「………は?」
アークは言いながらヘルメットを外す。
全員の前に晒されるアークの素顔。それに対して、全員が息を呑んだ。ソータもだった。
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