その仮面の下にはA07
なぜこうなったのか。
原因など知れている。ビーツだ。全権を掌握したビーツが、なんらかの目的を持って予定を早めた。
「アリスランド………タキオン………!」
ヒナが、見たこともない顔をして憤る。憤慨するメスライオンのような、殺意を持って威嚇する時の形相だった。
ある意味、シェリーとユリンよりもおっかない。ヒナは3人のなかでは良識があってふわふわしてて、原作よりも大胆になって、時折発想がぶっ飛ぶこともあった。
『全員、聞こえたな? 現在アリスランドより発艦したタキオンが、コーネリア少将が控える艦隊を許可を得て突破。非武装のままドイツ支部へと降り立つという。………ハンガー、カイドウ。艦載機すべてをロック。操縦権を一時的にパイロットから剥奪。ただし、シドウ大尉のみは七号機で艦の外に出ろ。総員、軽挙妄動を控えるように。敵とはいえ非武装だ。使者として来訪する機体への攻撃は禁ずる。以上だ』
オペレーターの説明に続き、クランドがカイドウへとメッセージを送る。真っ当な内容だったし、そうでもしなければグラディオスだけならともかく、保護してくれているドイツ支部の本部からの評価が劣悪なものになる。
この第20話Bパートでアリスランドより飛び立ったタキオンが、非武装のままドイツに降り立つ。目的は使者と称したように、ビーツの目的を伝えるため。あともうひとつは、ソータに会うためだ。
全身を愛機同様に漆黒で塗りつぶしたアークが語るそれに、当時の私はショックを隠しきれなかった。
そういえばエースは立場上、何回かアークに会ったという。羨ましいと思ったが、いざ私の番になると、いっそのこと追い払った方がまだいいのではと逡巡してしまう。それだけ濃密な内容だったからだ。
「………っ」
「ダメだ。機体はロックした。出撃はできないぞ」
「………離してよシーナ」
「このネズミちゃん………いつから私と対等にお喋りできるようになったのかしらぁ?」
カイドウがまだ端末を操作している間に、ソータとユリンが操縦権を掌握してしまおうと走り出そうとするのだが、ふたりならやりかねないし、先読みしていた私は動き出した瞬間にふたりの腕を掴んで阻止した。いや、体重差があるから、どうしてもふたりに牽引されてしまうのだけど。止めることもままならないが、時間稼ぎにはなる。
ハッとした整備士たちがソータたちの壁となる。
素早い判断だ。そうでもしなければ、コウとハーモン、ヒナとシェリーが機体へ向かって走り出していたかもしれない。
「ロック完了したぜ」
「やめてよ………解除してよカイドウさん! 非武装だからってなに!? あのタキオンは、エー先輩のタキオンを落としたんだよ!? 憎くないの!?」
「俺だって………俺だって憎いに決まってんだろうがァッ!! 何回ぶっ殺してやっても足りねぇよクソッタレェッ!! でもなぁ………それでも、やっちゃいけないことがあるんだよ。わかってくれや。お前ら。わかってくれぇ………」
ヒナが泣き喚きながら懇願すると、ついにカイドウも感情的になって叫んだ。叫ばざるを得ないほど、アリスランドへの憎悪は蓄積する一方だったのだ。
ただ、それでもカイドウは軍人だ。分別はつく。頭を下げながらヒナたちに嘆願した。
沈黙が続いた。怒りの矛先が定まったのに、そのための武器を失い、やり場を失ってしまう。パイロットたちの荒々しい呼吸だけが聞こえた。
もう自分たちだけではどうにもならない。ガリウスのロックを解除しようにも、ユリンだけでは時間がかかる。
カイドウは「いっそ、俺を殴れ。エースを出撃させて死なせた元凶を殴って、それで我慢してくれや」と言ってしまう。
仮にそれを聞いたのが大人ならまだしも、精神的に未成熟で、発狂寸前だったユリンがそれを聞いた瞬間に、奇声を上げてカイドウに襲い掛かろうとした。
「馬鹿………それは、やめろ! ユリン!」
「離しなさいネズミちゃん! あなたから先に血祭りに上げましょうかァッ!?」
そんな暴挙は許されない。私はユリンの腰に飛びついて止めた。怖かったけど、それ以外に方法がなかったのだ。
『アリスランドのタキオン接近! 5分後にグラディオス付近に着陸する模様!』
「ほぉら、来た。アークって子をズタズタにしないとねぇっ!」
「だから、それをやめろって言ってんだよ!」
オペレーターの通信が、ユリンたちをより凶暴にさせていく。絶好の復讐の機会だろうからな。
聞き分けのないガキを止めるのも苦労する。整備士が壁となるも、頭に血が上ったパイロットたちは、ついにグラディオスの外に出た。シドウは入れ替わりでハンガーに入った。声をかけようにも時間がなかったのだ。大人のパイロットたちも加わって、ユリンやソータを阻止しにかかる。
そんなことをしていると、ドイツ支部上空のバリアが一部解除され、漆黒の夜空と同化していた機体が降下した。
瞬時にドイツ支部のガリウスF部隊が、降下したばかりの漆黒のタキオンへ銃口を向ける。
事前に使者として来訪するとは聞かされていたが、アリスランドのエースパイロットゆえになにをするかわからない。警戒はするべきだ。現にグラディオスのエレベーターで甲板に出たシドウの七号機も、五号機のスナイパーライフルを構えて、膝立ちとなった。
全員の視線が集中するなか、白旗を掲げる漆黒のタキオンは、コクピットのハッチを開く。なにか伝えたいことがあるならスピーカーを使えばいいのに。
いや、アークは別の目的がある以上、どうしても対面したい理由があるのだ。
漆黒のタキオンが膝立ちとなると、マニュピレーターに乗ったアークが地上に降り立つ。
「どうも。アリスランドの使者、アークです」
アークはいつもどおり、ヘルメットを取らずに言った。
使者の来訪とあっては、相応しい者が対峙しなければならない。ドイツ支部の支部長ドルテと、グラディオス艦長のクランド。この両名が距離を開いてアークの前に立つ。
「私はドイツ支部の支部長、ドルテだ。クランド艦長は語るまでもないだろう。………して、アーク。きみはなにゆえ、敵陣のなかを非武装で訪れた?」
ドルテは平常心を保ってアークとの話し合いに応じた。
「グラディオス艦長、クランド大佐にお話が」
「………なにかね?」
ゴゴゴッと空気が動く。
エースを失った悲しみを克服しつつあるようだったが、早くも仇が現れたことで感情の制御ができていない印象だった。ソータたちはといえば、今もアークに噛みつこうと必死に拘束の手に争っていた。
「すでにアリスランド、そしてアメリカ支部の艦隊が、近海に控えていることは承知でしょう。………ビーツ艦長は寛大な心をしている。今なら、投降を許可するとのことです」
「………なら、帰って伝えたまえ。降伏などするつもりはないと」
「そうですか。残念です。これであなたたちは死ぬことになった。グラディオスを収容し、保護するドイツ支部も例外ではない。今後はオルコット氏の管理下に置かれることになる。そして多大な犠牲を払いつつ、これまで勝ち取った街並みや文化を失うことになるでしょう。………アリスランドやアメリカ支部は容赦しません。ビーツ艦長のもうひとつの伝言です。我々はドイツ支部へ宣戦布告をします」
それが狙いか。
原作にはない戦争だ。ふたつの艦の勝負なのに、大規模にして不安要素を消しやがった。質と数を両方兼ね備えれば、アリスランドはグラディオスに負けることはない。そう考えているのだろうな。
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