その仮面の下にはA06
その日、私は未成年組にして、初めて勤務に出た。
誰もメンタルが回復しておらず、大人たちは気遣い、しかし数日後には喝を入れるという動きがあったようで、カイドウの目の前に立ってみると、とても驚かれた。
「………もう、いいのか?」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
「いや、俺たちは………別に、いいんだがよ」
2日が経ったというのに、カイドウは声に力がない。覇気がないのだ。カイドウの弟子らも同じ様子で、後ろめたさを隠しきれていない。
「おやっさん。私たちは、まだやることがあるはずです」
「………パイロットが、ああじゃな。現状………シドウはともかく、キルカ、ナリヤ、マイア、ハナくらいしか使いものにならねぇぞ」
「それでも、です」
そう、それでもだ。
敵は待ってはくれないのだ。
私たちが沈黙していた2日間、ドイツ支部は寝静まったような沈黙があったわけではない。アンノウンの接近と強襲を受けた。
ドイツ支部はガリウス部隊で防衛する。そのなかにはグラディオスから発艦したシドウたちの姿もあった。
ただ守られているばかりでは、示しがつかない。エースの犠牲から立ち直れない子供たちのためにも、シドウたち大人たち、ハナのようなある意味で完成した精神をしているパイロットが出撃したのだ。
それに感化されたわけではない。私は私の意志で、ここに来た。ライラは部屋にいる。宿題を出しておいた。ハルモニに監視もさせている。私が全力でエースの代わりをするために。
「ドイツ支部のレーダーと、艦の望遠カメラ、ドローンカメラ。これらを用いた結果、判明したことがあるんですよね?」
「耳が早ぇな。いや、ハルモニに聞いたか。そのとおりだ。アメリカ支部の艦隊が海を渡ってやがる。出撃したドローンカメラは、全部狙撃されちまったぜ。やっぱ、俺らじゃ反応が鈍るな」
もう本編は始まっているのだ。歯止めなど効かない。歯止めをかける奴でもない。むしろ拍車をかけているくらいだ。
ビーツはアメリカ支部に逃げ帰ると、オルコットの名を使い、全部隊を指揮下に置いたのかもしれない。
艦隊の規模たるや、合同作戦以上。議会の承諾さえ取らずに私兵としたと見るべきかな。
エースの言っていたことは本当だった。ビーツとは危険思想の塊みたいなものだ。本編以上のアクシデントを平気で起こす。
「ドイツ支部………ドルテ支部長の意向は?」
「徹底抗戦の姿勢を一貫してるのは、コーネリアくらいだぜ。ドルテはどちらかといえば平和思想だ。戦争なんかしたくねぇって言うだろうよ。それはお前の方が詳しいか」
これでもドイツ支部出身だからな。ドルテならアメリカ支部との抗争を回避し、かつグラディオスの防衛をするという姿勢を取るだろう。きっと、すでに何回かアメリカ支部の支部長をしているワプスと通話での交渉をしようとしたはずだ。すべてビーツに筒抜けになっているだろうけど。
なぜ、どうしてこうなった。という後悔をしても始まらない。ドルテも気の毒なことに、アメリカとコーネリアの板挟みになっている。寿命が縮むくらいのプレッシャーを受けていることだろう。
「戦争………するんですかね」
「したくはねぇだろうよ。アメリカ支部だってな。こんなことしてる場合じゃねぇし、所有する武力を他国制圧のために運用したとあっちゃ、議会だって絶好の攻撃対象として見るだろうしな。だがワプスはビーツに従う他ねえんだ。オルコットなんぞの息がかかってりゃ、なおさらな。気骨がある野郎だと思ったが、それにも限度があらぁな………ん? な、なんだぁ!?」
突然カイドウが素っ頓狂な声を上げた。
理由は私の背後にあった。
ゾッとした。そこには3人の幽鬼がいた。
そう表現するほかなかった。それ以外のワードを、私は知らない。
変貌した3人───ヒナ、シェリー、ユリン。
まる2日、エースの部屋から出ずに引きこもり、飲まず食わずにいたことで痩せていた。
今、なぜ部屋の外に出てしまったのか。理由など知れている。ハルモニを使わずとも、ユリンが自分の端末を操って情報を集めた。ドイツ支部にアメリカ支部の艦隊が接近していると。リターンマッチ、あるいは弔い合戦のため、3人は復讐を誓って部屋から出たのだろう。
「お、おい。お前ら………なにしてやがんだ? パイロットスーツなんか着て………」
「馬鹿! 今はその時じゃねぇ! っていうか、エースはお前たちに誰かと殺し合いをさせるために助けたわけじゃねぇんだぞ!」
カイドウを遮るように、私は3人に迫った。
ヒナもシェリーもユリンも、見てすぐわかるとおり、病んでいた。
精神的に限界にきた末に、何度も崩壊しかけたそれを繋ぎ止めては崩してを繰り返したのだろう。
その果てに、3人は同時に結論を得た。
「退いて………退いてよ。シーナちゃん………」
「エー先輩を殺したビーツは、絶対に私たちの手で始末しないと」
「簡単に殺すつもりはないわぁ………壁になってるアメリカ支部の艦隊も、一緒に沈めてあげるの。みんな一緒なら、暗い深海だって怖くないでしょぉ………」
まともじゃない目と容姿をする3人が、ボソボソと呟くように言った。ヒナならともかく、シェリーとユリンは自分に言い聞かせて暗示しているようにも思える。
ぶっ壊れた精神を繋ぐために、復讐にすべてを費やす。そんな話をいくつか知っているが、大抵復讐なんて果たしたところで、ぶっ壊れた心が元に戻るのかと言えば、そうではない。綺麗事を並べるつもりもないが、ここで3人を止めなければ大変なことになるのは目に見えていた。
「やめろ! 今お前たちが出ていって、ドンパチやらかしたところで状況は悪化するだけだ!」
「そんなの関係ない。エー先輩を殺したビーツを殺すまで、私たちは絶対に止まらない」
「お前たちの気持ちは痛ぇくらいわかる! だがな、ここは堪えろ。前線にはコーネリアが立って、アメリカ支部の艦隊と睨み合って止めてくれてんだ。苦しい状況のなか、戦争するかもしれねぇって国民や難民に報せなきゃならねぇドルテの心境も理解してやってくれ!」
「それも、私たちには関係ないわねぇ。コーネリアって将軍も同罪よぉ。エー先輩を助けられたかもしれないのにっ………あの女狐のせいでグラディオスは引き揚げて………ぁぁああ! アメリカ支部のクソどもと、一緒に引き裂いてやりたい!」
シェリーはただでさえも迫力のある眼力を、青白い顔でより凄みを増して私を見下ろす。
ユリンに至っては発狂寸前といった感じで、長い紫色の髪を掻き回し、金切り声を上げた。
騒ぎを聞きつけたパイロットたちが、気落ちしていたソータたちも集まってきた。
ヒナたちが復讐しようとするならと、自分たちも出撃の意向を固めつつある。
まずい。このままじゃ私の半端な梃入れをする前に、原作とは異なった方向へ向かってしまう。
焦る心をどうにか落ち着ける。呼吸を整え、必死で言葉を探した、その時。
『ドイツ支部より入電。近海に滞在している艦───アリスランドより、白旗を掲げる機体が飛び立ちました! メッセージを伝える使者の役割をしていると思われます。なお、発艦した機体は漆黒のタキオン! アリスランドのエースパイロットです!』
ブリッジからオペレーターが叫んだ。
また心臓が跳ねた。
待てと叫びたかった。
タイミングとしては助けられた方なのだけど、それはまだ早い。まだAパートなのに。
そのイベントはBパートから始まるはずだったのだ。
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