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その仮面の下にはA05

 エースが乗るタキオンが海に落下し、アリスランドが去ったことで全員で捜索した。


 ソナーを使い、緊急浮上装置を遠隔操作で実行してみたり。ハルモニが海流を読んで、アイリが小型潜水機を潜らせたりと。


 長時間に渡る捜索の末、ついにコーネリアが断言した。エースに死亡判定をつけた。


 当然、全員が猛抗議する。まだ諦めるべきではないと。しかしクランドも非情に告げた。これ以上の捜索をしても無意味であると。


 それを聞いた大人たちは、渋面しながら撤退準備を開始する。未だ猛抗議を続ける学徒兵たちと衝突もした。ハンガーは酷かった。私もそのひとりで、カイドウを説得しようとしても無駄だった。殴り合いにまで発展する大人と子供。アーレスたちが駆けつけて鎮圧。


 今日の学徒兵たちの公休は、ある意味でボイコットでもある。エースを見殺しにした大人たちに従いたくはないという意思表示だ。そして大人たちも、そんなことなど承知している。


「俺はもう飛べないから、海に潜ろうとも考えた。だがその前に、ナリヤにああも簡単に制圧され、操縦権をロックされるとは思いもしなかった」


 自嘲しながら述べるコウ。


「けど、みんなわかってた………3時間だぞ。タキオンのコクピットブロックに穴が空いた状態で落水して、3時間………浮上すればまだ可能性があったかもしれない。けれど沈み続ければ………3時間なんて必要なかった。エー先輩は、アリスランドのタキオンとイレイザーの攻撃を受けた時点でもう死んでいたかもしれない………誰もコーネリア少将を責められるはずがなかった。クランド艦長にも。後悔してばかりだな………」


「それでいいって。その後悔がコウを強くするんだよ。だからさ、ちょっとずつでいいから、前を向けるように努力しような」


「………ああ」


 私はコウに身を捧げ、慰めという意味で性交渉しにきたのだが、コウはそのつもりにはなれなかったようだ。抱きしめられたままベッドに投げ出され、抱き枕になった。


 それでも構わなかった。コウが少しでも前向きになれるなら。喜んで抱き枕にでもなってやる。


 




 それから3時間後のこと。私を抱き枕にして安心したのか、やっと眠ったコウから離れる。部屋を出て、物騒な張り紙を剥がし、展望デッキへ。夕飯の時間も近い。クルーはいなかった。ベンチに腰掛け、膝を抱きながら考える。


 原作と展開を比較してみた。


 この第20話で発生するイベント。そして第19話での違い。


 様々な分岐を経て、グラディオスは初めての大きな犠牲を出した。


 原作ではついにハーモンとクスドが死ぬ。頭脳と戦力を同時に失うのだ。犠牲を払ってでも前に進んだグラディオスは、死と隣り合わせにあったことから、クルーたちは悲嘆するのだが、それでも前に進もうとする。


 しかしパイロットは違う。


 一から十三まであったガリウスが、4機も減ってしまった。参謀として名を馳せたクスドも失った。ソータたちは親しい者たちの死に耐えられなかった。一部を除いて。


 ボロボロだったメンタルをしていたソータは限界に達し、さらなる追い込みをかけようとしていたユリンは飽きを覚え、離反を決める。


 だが今回は違う。エースが暗躍、あるいは表立った行動をしたことで犠牲を留めた。そしてついに自分が犠牲となった。ソータたちが心の拠り所としていた人物を失った。初めての絶望。耐えて、あるいは割り切って前に進めと言うのも酷だろう。


 だが、やらなければならない。それが残されたもうひとりの転生者である、私の使命だ。


 この第20話では、後半───つまりBパートでかなり重要なイベントがある。それはおそらく回避できない。本当は回避するべきなのだろうが、エースは言っていた。彼も推しキャラだと。ついでに言えば私もかなり好きだ。その彼が会いに来る。


 その影響を利用する?


「はっ………ひとでなしだな。私も」


 自嘲が尽きない。


 それはまだ、ひとならざる道とは程遠いのかもしれない。


 飴と鞭を使い分け、隔てなく接したエースのように動くには、そうするしかないのだ。


「ビーツとやらは、どう動く?」


 戦場にて、初めてビーツを見た。日本支部跡地ではアリスランドのブリッジで、今回は漆黒のイレイザーで。


 アリスランドを改めて分析する。


 エースはよくわかっていた。聞けばビーツは大学の同期だったとか。そりゃ詳しいわけだ。その上ですべてを模索し警戒した。対して私はどうだ。すべての可能性を模索して警戒したのか。いいや、していなかった。


 少しでも考えればわかることだった。


 ビーツは私たちと同じく「天破のグラディオス」をよく知る転生者だ。こちら側の事情を知ることも造作もない。


 私は見落としていたのだ。ビーツという人間が内包する危険性を。


 奴自身もメカニックだったというのではないか。原作には登場しなかったガリウスHの製造を最短で完了させたが、グラディオスには勝てなかった事実が油断を招く。それがすべて油断を誘うためのビーツの布石だったかもしれないのに。


 その油断が、アリスランドで着実に製造されていた機体を生み出した。ジョーが脳内チップで情報を送り続けていたこともあり、分析の結果、私が考案したツインリアクターまで実装していたことも判明した。


 エースは大分前から可能性を危惧していたようで、ジョーが去ったとしても油断しなかった。


 アリスランドから放たれた、漆黒のイレイザーを見た時は震えが止まらなかった。イレイザーの設計と製造を担った私だからこそ、その猛威を知っている。


 ビーツもまた、エース同様に原作に介入し歪めさせることができるひとりであったのだ。


「いずれ、またアリスランドと衝突することになる。こっちはオリジナルガリウスが2機も揃ってたのに………逆転された。覆すにゃ………どうすればいい? ああ、クソ。私は戦術についてはまったく詳しくないってのによ。そういうのこそミリオタ勢みてぇなエースの本領だろうに。趣味特化のエンジョイ勢に無茶言いやがる。クスドを守って頭脳は健在。けど正常に稼働するか。………単純な戦力差は、こっちがドイツ支部とコーネリアが味方についたとしても、あっちはアメリカ支部とオルコットとかいう奴が味方。………単純に覆せるはずがねぇ」


 例えエンジョイ勢だったとしても、軍に志願して1年以上経てば、それなりの知識が身につく。その経験で語るにも限界があった。


「原作と違うところ………再戦時には各支部の介入がなかった。コーネリアもいない。今回はそれがあるけど、アメリカ支部の艦隊………前回の戦いとは違って、イーグル師団とやらを投入されたら終わりだろ」


 合同作戦では現れなかったイーグル師団。地球最大規模の復興と防衛を誇るアメリカ支部が有する主力部隊の数は伊達ではない。物量差で攻め込むという手段があちらにある以上、迂闊には動けない。


「ただ………そんなことをすれば戦争だ。同軍で戦うなんて、多分………歴史上、初めてとなるのか? 待てよ? エースだってそれくらいわかってる。国際問題にまで発展させたくなかったはずだ。多分、なんかの手段を残してる………でもそれってなんだ? タイマン張ろうぜってビーツに呼びかける? 応じる奴じゃないはず………じゃあ、ビーツでさえも拒否できない条件を用意していた? それってなんだ? ああ、クソッ………連合軍の軍規を見直せってか? いったいどんだけあると思ってんだよ。弁護士じゃねぇんだぞ。私は」


 考えれば考えるだけ、謎が深まる。


 アメリカとドイツが衝突しかねない事態を、私ひとりで回避するなど到底不可能だった。


 だが、事態が動いたのは2日後のことだった。


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