アリスランドB12
「よう、アーク。随分とそっちのタキオンはイケメンになったじゃないか。どうだよ。うちの連中は。タキオンでも案外苦戦したんじゃないか?」
『鬱陶しいだけだったよ。そのなかでも最高に鬱陶しいお前だけは、ここで落とす!』
ヴッ───と漆黒のタキオンが唸る。
ビーツは神経接続で操縦していたが、アークは違う。脳波で操縦しているところがある。それがまた化け物なのだ。
ならばと、俺のタキオンも唸らせる。しかしアークほどのスペックは引き出せない。それが俺の限界値でもあったからだ。
灰色と漆黒のタキオンが再び猛烈な加速を開始する。広大な空を駆け巡りながら。
それこそ、この空は俺とアークのものであると思えるくらいの、夢中になれるだけの飛翔。
「おいアーク! お前、さっきから必死だなぁ! たったひとりの凡人をぶち殺すにしては、全力を出してくれるなんて光栄だよ」
『なんなんだよ、あんたは! 飄々として、いつも僕をかき乱す! それから、僕は全然全力なんて出してなんかいない。半分も出してなんかいない!』
必死になっちゃってまぁ、お可愛いこと。
敵軍のエースパイロットを、ソータたちみたく愛玩動物扱いする理由?
決まってる。アークもまた、俺の推しキャラだからだ!
彼が背負う運命は、あまりにも重たく、そしてそれはグラディオスにも無関係ではなかった。
双方、譲れないもののために戦うのだ。その果てでアークも悟り、手を伸ばす。その瞬間ときたら、ファンとしては見逃せないね。
強がる言動に反して、聞こえる呼吸は荒い。体力に余裕がないのだ。無人機とは違って、有人機はパイロットの精神力と体力で勝負が決まる部分が多い。どちらかが欠けてもダメだし、どちらが異様に高くても成立しない。均衡を保ったまま双方を高めるのがセオリーだ。
特にこのタキオンという化け物は、体力はもちろん精神力を多用する。俺は神経接続し、アークは脳波で補っている。天然と養殖の違いではあるが、そこは各々が生まれ持ったもので勝負ができる。
俺はすでに消耗しているが、アークはソータたちに追い詰められた。条件は同じ。引き出せるスペックがアークが上。アークの手の内を知っている俺だって負けない。
『地獄に落ちろよぉっ』
「じゃあお前は海に落ちな!」
軌跡を描きながら、何度も衝突する。
グラディオスのハンガーで、この戦いを見ているカイドウたち整備士は嘆いているだろうか。
拳と拳が炸裂する度にどこかがひしゃげ、潰れ、弾ける。出撃前、整備士たちが丹精込めて磨き上げてくれた装甲は、もう原型を留めていない。最悪、オーバーホールもあり得る。
意識を割いてはアークに太刀打ちできない。それでも俺は一瞬だけアリスランドを一瞥した。
シドウたちが迫り、推進器を破壊していた。
ブリッジ、ハンガー、居住区以外を蹂躙していく。武装も切断し使用不能になるまで追い込んでいた。アリスランドは推力を失い、作戦名のとおり大地に落ちていく。ただ、根性は見せた。主翼を展開し風を掴み、揚力だけで斜め下へ移動している。目的地は海である。
艦の底に大穴を空けろとは言われていないシドウたちは、うまくやってくれた。アリスランドが海に着水しても浮力が働いているため沈まないだろう。
『余所見したな?』
「ああ。したね」
漆黒の悪魔が眼前に迫る。
揃えられた五指。先鋭化されたマニュピレーターによる抜き手は、グシャグシャになったコクピット周りの装甲を簡単に貫くだろう。そしてコクピットごと俺を潰す。
それがわかっていて、俺はあえて停止した。
そこにいるのはわかっていた。
俺とは違って、あいつは天才だ。才能がある。つまり主人公補正バリバリの、エースパイロット。
あれは5秒ほど前だったか。灰色と漆黒の軌跡のなかに、明らかに青い軌跡が混じった。
やはり来ている。ほら、漆黒のタキオンのすぐ後ろ。
『させねぇって言ってるだろ!』
『っ………ソータか!』
『さっきから馴れ馴れしく呼ぶけどさ。俺、お前のこと知らないんだよ。自己紹介しろよバカが』
ブチギレてるなぁ、ソータ。
『お前は俺にとって大切なひとを殺そうとしたんだ。それも3回も! 許すわけないだろ。エー先輩はやらせない。俺が守る!』
漆黒のタキオンを俺から引き剥がし、ソータは一号機を駆って、化け物に勝負を挑んだ。
おそらくだが、アリスランドのなかでビーツは焦っている。グラディオスとの勝負に負けただけではない。俺が立ち回って、ソータにとってのターニングポイントを作ってしまったからだ。
ここからは原作の流れに合流する。
漆黒と青の機体が空中に軌跡を描く。それは俺のタキオンとなんら変わらない加速力。可変することでタキオンと同等の推力を得た。あるいは仲間たちの攻撃でアークのタキオンがダメージを負っているから推力が落ちたのか。
『ソータ………お前、なにも知らないんだな』
『じゃあお前はなにもかも知ってるのかよ』
『お前より知ってる。悲しいよ。なんでこうなってしまったんだ。お前はサフラビオロスで、戦争を知らないまま生活して、結婚して子供を作る人生を送ればいいのに………なんでこうなるんだ!』
こんな会話は原作にはなかった。通信なんてしなかったし。
そうか。ビーツの梃入れか。ビーツがアークに、なにか余計なことを吹き込んだに違いない。
ファイターモードを解除したソータが、アークのタキオンに仕掛ける。絶妙なタイミングで飛び蹴りを放った。
『はぁ? なに言ってんのお前? っ………いいから黙って海に沈めよ!』
飛び蹴りを片腕で防がれ、ロングソードを振るうもビームシールドで防がれる。衝撃でマニュピレーターが破壊され、指の間からロングソードが落ちた。これで一号機もすべての武器を失ったことになる。
『悲しい………悲しいよソータ。なんで僕たちが争わないといけないんだ。殺しあわなければならないんだ。………そうか。やっぱり、ビーツ艦長が言ってたように………あそこにいるエースとかいうクソ野郎のせいなんだ』
背筋が凍り付く。
アークのタキオンも満身創痍のはずなのに、ソータの一号機を相手にして未だ機敏に動く。
その途中で、俺に照準を合わせた。
ロックオンを受けたアラートが鳴る。いや、これはそんなものじゃない。
きっと───
「覚醒………アークもかよ」
アークはソータの代わりに、負の感情で覚醒を遂げた。原作ではアークは覚醒することはなかった。
だがこれもビーツの梃入れのせいか、余計なところで俺たちの脅威を発生させる。
『殺す………殺してやる。僕からエースを奪ったクソ野郎………エース・ノギィッ!!』
『だからさぁ………させるわけねぇって言ってんだろッ!!』
漆黒のタキオンの眼前で、それと同等の殺気が爆発する。
アークに呼応するようにソータが覚醒した。
多分、これは歴史上初となる、覚醒者同士の対決だ。
俺はその光景を、固唾を呑んで見守った。
互いに余裕も余力もない。おそらく一撃で決まる。
そんななかで、ソータとアークは正面から衝突し、数回の攻防を繰り返し、そして───
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