アリスランドB10
「フェイズ2開始!」
グラディオスのブリッジにて。クスドよりタイミングを告げられたクランドが命令する。
フェイズ1は蛇行運転からフェイントを入れてアリスランドの左を通過するまでを示す。
フェイズ2からは反撃に出る。エースの活躍でアリスランドのレイライトブラスターは回避した。今度はグラディオスがその報復をしなければならない。
双方、正当性を謳うなかであったとしても、ビーツはすでに口にしていたが、クランドたちも私怨があった。最初の邂逅でクラッキング現象を利用した発火攻撃を浴びて火傷を負うところだったが、脳内チップを移植したばかりのエースが脳細胞にダメージを負う寸前まで使用することで防がれた。
つまり、全員がエースに攻撃を仕掛けたビーツを、決して許していなかったのである。
スモークを焚いて姿を隠し、十三号機のヘッジホッグジャケットがマイクロミサイルの猛火を浴びせる。こちらの姿をアリスランドから見えなくしたことで、攻撃手段の予想を封じたのだ。クスドの策だった。
クスドはドイツ支部に降り立ってからも努力し続けた。艦内のシミュレーションルームに篭って戦術を組み立てたり、ドイツ支部の参謀との交流で共に研究し、技術を高めた。
すべてはエースの導きだ。「クスドならできるよ」という信頼の言葉を聞くだけで、どれだけ疲れていようが、頭が重たくなるほど消耗していようが、あと一歩、もう一歩と着実に進んだのである。
「スモークを切らさないでください! 風はこちらで計測します。フェイズ3に移行するまで我慢比べです! ハルモニ! 風向きとアリスランドの行動予測を出して!」
『イェス。アドバイザー・クスド』
この半年間で、クスドはクランドに認められ、グラディオスが所有する高性能AIであるハルモニの使用権限をエースと同様に与えられた。エースとハルモニの相性がいいように、クスドとの相性も抜群であった。これでクスドも、グラディオスの重鎮のひとりとなったのだ。原作ではヘタレやクズといったマイナスな印象があったものの、第2クールから成長を遂げて別人となったが、こうなるとすでに原作以上である。
「ハナさん!」
『了解だ!』
スモークで隠れているとはいえ、アリスランドの位置はレーダーで捉えている。ハナの九号機がエースのお下がりかつ大気圏外ジャケットである、ブラスタージャケットを纏い、さらに急遽増設したサブアームを用いて銃身を固定。陽電子砲の砲台となる。
狙いは推進器。姿勢制御を司るサブスラスター。決してブリッジや居住区には直撃させない軌道でビームを放つ。
するとレーダーで動きがあった。
アリスランドがブラスタージャケットの猛威に焦ったのか、舵を切ったのだ。直進軌道が逸れ、斜め上へと逃げる。
「よし! これなら………え? アイリ? ………そうか。わかった! それは吉報だね。すぐに組み込むから戻って! 頼みたいことがあるんだ。艦長! プランを一部変更します。すぐに修正案を共有します!」
「了解した。………ほう、なるほど。面白い!」
歴戦の猛者たるクランドでさえ獰猛な笑みを浮かべてしまうほどの奇抜な作戦を一瞬で再編成したクスド。
アイリが甲板に接近すると、キルカたちが運び出したものを持たせて、すぐに飛び立つ。
「フェイズ3改、発動!」
クスドの合図で、グラディオスはよりアクティブに動き出す。
「馬鹿者が! 誰が逃げろと言ったぁっ!」
アリスランドのブリッジでは、ビーツの怒号が放たれた。
「しかし艦長。あのビームの直撃はまずいですよ。いつまでも接近するわけにもいかないでしょう。ここは上空へ逃げて、すぐにグラディオスの射線軸から逃れるのが得策です」
「黙れ! よりにもよって、背を向けるやつがあるか!」
ビーツは操舵師を務める往年の男に怒鳴った。このブリッジで唯一出入りを許されている男だ。ビーツとしては操舵師も女で、自分の愛人にしたかったのだが、残念ながら要求する技術水準を満たせるだけの人員が確保できなかった。ゆえに男に操舵師を務めさせた。背後を振り返らないことを条件に。
だがその操舵師、技術はあるのだが、ビーツを軽蔑しているのか、時折命令を無視する傾向にあったのが問題だった。自分の意見と経験で決めてしまうのだ。
それでいて、勝手な判断を責めると「では自分を左遷してはいかがです? 代わりの操舵師が誰かに務められるとは思えませんが」とビーツが支配する王国にしては珍しく言いくるめてしまう人材であるのだ。
それが仇となった。
確かに、ビーツはスモークのなかからレイライトブラスター級の陽電子砲による照射が迫った時は息を呑んだ。知らなかったのだ。まさかあるとは思っていなかったし、なんならアリスランドのハンガーの製造ラインで作らせていた最中でもあった。
まさか先を越されるとは思っていなかった。その照射に臆した操舵師が勝手な回避運動に出てしまった影響で、アリスランドはグラディオスの斜め上の頭上に飛び出てしまったのだ。
「だぁっ、くそ! すぐに追撃が来るぞ!」
「艦長! グラディオスに動きがありました! スモークを焚いたまま前進! いえ、反転しようとしているのでしょうか。急停止しました!」
「くっ………こちらも反転! 急げぇ! レーダーと目視でグラディオスを捕捉し続けろ! 連中にレイライトブラスターを使わせるな! こちらも誘導弾で応戦! 射線軸に入り次第、副砲とリニアキャノンを撃て! 連中に楽をさせるな!」
アリスランドがグラディオスにとって優位な退避を行ってしまったことを、いつまでも嘆いていられないし、操舵師の男をネチネチと責めている場合でもない。
せっかくの奇策が台無しになった。だが、すべてが間に合わないというわけではない。まだ修正は可能なのだ。
メインモニターに映し出される、アリスランドの後方へ、つまり「オペレーション・フォールグラウンド・アリス」を実行可能なポジションへと移動するグラディオスを血眼になりながら睨む。ここに来て操舵師の身勝手な行為で最悪な状況になったが、アリスランドの武装を使って迎撃すれば、まだ間に合うはずなのだ。
最初に放った誘導弾が、移動するスモークのなかに突入する。手応えはあった。爆発が連鎖する。アリスランドも反転し、射線軸に入り次第副砲とリニアキャノンを連射。直撃。
「よし間に合った───ん?」
その時だ。ビーツは微かに違和感を覚えた。
極限の緊張と愉悦とストレスで頭がとても重いはずが、若干軽かったのだ。
まるで動作の遅いスマートフォンのストレージ整理をして、不要なものを一斉に消去し終えて、いくらか軽くなった時のような。
なぜ? いや、今はそんなことを考えていても仕方がない。グラディオスを超越する。そのために数年前から仕込んできたのだ。
残存していた日本人を発見し、衣食住を整えて、地上に偽装ドームを作った。
彼らには仮初の絆を感じさせ、そして人情も厚くさせ、必ずグラディオスを受け入れさせるよう精神的に誘導した。洗脳に近いかもしれない。結果、偽装ドームと日本人は、グラディオスを拘束するだけの効力を発揮したる檻と化した。
それだけではない。反対するオルコットを黙らせて、先んじてアメリカ支部へと移動しマスドライバーで宇宙へ上がった。奇襲策は万全だった。お膳立ては済んだ。「オペレーション・フォールグラウンド・アリス」が発動しても、すべてを無力化するはずだった。
原作にはないスモークなど焚いても無意味だと思えるくらい───
「熱源は移動しつつある。スモークの大きさもグラディオスを覆えるほど。しかし………なんなんだこの違和感は。なぜ………グラディオスは応戦しない? ………ん?」
その時だ。ビーツはメインモニターにとある些細な現象を発見する。移動するスモークから、着弾によって破壊されたグラディオスのパーツらしきものが燃えながら落下しているところだった。
そこをクローズアップする。
そしてやっと───感じてきた気持ちの悪い違和感の正体を知るのだった。
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