アリスランドB09
「アリスランドより熱源! ミサイル、来ます!」
「迎撃! 機銃掃射! 弾幕に厚みを持たせろ!」
ブリッジでは、オペレーターの報告にクランドが指示を出していた。
これまで戦闘してきたのはアンノウンばかりであるが、なにも対艦戦の心得がないわけではない。クランドは学生時代にそれの演習を受けたことがある。
常に距離を保ち撃ち合う。それがセオリーである。
しかし、
「アリスランド、なお距離を詰めてきます!」
「ぬぅ………ビーツめ。なにを考えている!」
アリスランドの新艦長たるビーツの指揮は、これまでのセオリーがまったく通用しないどころか、正気を疑うものだった。
距離を開くどころか詰めてくる。微速前進しているためいきなりではないが、それがクランドの心の余裕を奪っていた。
大型空中戦艦同士、衝突すれば無事では済まない。それでもビーツは狂気を湛え、グラディオスに向けて前進している。
それに対して打開策を見出せず、しかし後退は許されず、クランドはグラディオスの現空域から逃すこともできず、対面することしかできない。
だが、それをすれば事態は好転することはないとは知っていても、信頼する部下がいたゆえに、逸る心を押し下ろせるのだ。
「お待たせしました! 対アリスランド戦の戦術、完成しました!」
「よし! では共有を!」
「はい!」
ブリッジにはかつて有能ではあったが差別的だったデーテルの代わりに、副艦長の席に戦術アドバイザーに迎えたクスドの姿があった。
彼はついこの前まで学生であったにも関わらず、常に問題を起こしつつも前に進み、奇跡を起こしたパイロットチームの副隊長に推薦され、戦術に磨きをかけて努力し続けた。
今ではクランドの右腕だ。なくてはならない存在となっている。
本部の戦術アドバイザーでも匙を投げるであろう高難易度任務で攻略法を見出した有能な男が、対アリスランド戦で攻略の糸口を発見できないはずがない。
聞けばクスドは、以前から、宇宙にいる時からアリスランド戦の対策を練っていたという。すべてはエースという問題児にして、この艦の重鎮たちと比肩するくらい最大の信頼を寄せる男の采配だ。
「これは………正気かね、と問う方が間違っているか。可能かね?」
「可能です! どうか、許可を!」
「許可する! やれ!」
「了解! 全艦に通達! クランド艦長の命により、これより本艦は『オペレーション・フォールグラウンド・アリス』を発動します! 総員、送信した戦術システムを参照し、フェイズごとに動いてください! 繰り返します! これより本艦は『オペレーション・フォールグラウンド・アリス』を発動します!」
強くなった。この少年は。隣に座るクランドは、その成長を感じ取るのだった。
アリス落とし作戦。これはエースの指示で構築したクスドの作戦である。
ふたりは知る由もないが、原作にあった作戦である。もちろん改良を加えている。少し時間がかかったのは、細かな点を修正したからだ。
「フェイズ1発動! 対角線上にいるアリスランドを───スルー!」
初手はまさかのスルーだった。
操舵師はモニターに表示された戦術を一瞥して目を剥いたことだろう。
とてもではないが、空を飛ぶとはいえ戦艦でやるべきことではない。
シミュレーションではギリギリで可能としているとはあるが、リスクを度外視し過ぎている。
それでも他に道はない。操舵師は「いきます!」と叫んで、操縦桿をダイナミックに操るのだった。
一方、同時刻。グラディオスに接近していたアリスランドのブリッジにて。今日だけは舐めてはかかるまいと、珍しく本気を出すビーツは服を着て、愛人たちにも着衣させて配置につかせた。
原作にはない戦術を用いた。クスド考案の「オペレーション・フォールグラウンド・アリス」の全貌なら完全に頭に入っている。
それを見越して、試すように接近してみせたのだ。
グラディオスは『オペレーション・フォールグラウンド・アリス』によって奇抜な動きを見せて、アリスランドの背後を取った。メインスラスターに損傷を与え、航行不能にして日本から去ったのだ。
原因となったのは、やはり不甲斐ないテンプスの指揮だろう。アリスランドのスペックはグラディオスと同等である。いつまでもいたちごっこを続けるように周回するならともかく、背後を取られるなどあるはずがない。
ゆえに対面するのを待った。背後を向けないようにした。
「やはりオペレーション・フォールグラウンド・アリスか。馬鹿のひとつ覚えだな。さぁ、勝負だクスド。改めて考えれば、これが俺の初めてとなるネームドキャラクターとの対戦となるのか。なかなか感慨深い………が、わかっているんだよ小此木。お前がクスドに入れ知恵をしていることくらい。ハッ………やはり、どうあっても俺とお前は敵対する運命にあるらしい。上等だ。グラディオスごと、俺が上回ってやるよ」
艦長の席でふんぞり返るビーツは、メインモニターに表示されるグラディオスと、両艦の間で夜間に街灯に群がる小虫がごとく飛び回る因縁ありきのライバルを見据えた。
「どうあってもアリスランドの背後を取りたいのだろう? やってみろ。その作戦は開始時点ですでに破綻している。お前がどう梃入れしようと………あ?」
ビーツの不敵な笑顔が停止する。
理由はひとつ。グラディオスが見せた、不可解な行動によるものだった。
クスドは「オペレーション・フォールグラウンド・アリス」を狙っていることは明白だったが、なぜか───グラディオスは悪手としか思えぬアクションに出たのだ。
対艦戦に限らず、隙を見せれば撃たれる。それがわかっていながら。グラディオスはゆっくりと蛇行し、そしていきなり右折したのだ。それも姿勢制御に用いるスラスターで強引に進路を修正したため、グラディオスの横っ腹がアリスランドに晒されてしまっている。
もちろん、それが罠であることも明白だった。誘っているとすぐわかった。
仮にアリスランドがレイライトブラスターを放ったとしよう。しかし奇策を講じたグラディオスは損害を受けつつも、アリスランドに同等のダメージを負わせるかもしれない。
「くっ………俺よりも劣った知能と、少ない脳内チップで構築した猿真似で、俺を愚弄するか小此木ィッ!」
ビーツはこの日、因縁のひとつに決着がつくと悟って、ある意味で直情的であった。
無論、艦長として、アリスランドを預かる身としての責務は忘れてはいないし放棄もしない。
ただ一点だけ、かつての同期であり、自分よりも劣っていると感じた者が講じた作戦が気に入らなかった。
どちらがチャレンジャーなのか、身分を理解していない愚策。誘いをかけているのはビーツだった。罠を張り、グラディオスを嵌め落とすはずだった。
それがいきなり、ライバルの陣営が立場を逆転させてビーツを罠に誘っていたのだ。
許せなかった。あの男にそんな権限を与えた覚えはない。あくまで主導権は自分が握っているのだ。子供が拙い罠を大人相手に展開するようなものだ。ビーツの怒りが増す。
「アリスランド前進! グラディオスのガラ空きな腹に機首をぶち込んでやれ───なんだと!?」
次の瞬間だった。
罠ごとグラディオスを蹂躙すると決定したビーツの指示が中断される。
なんと、グラディオスはスモークを焚いて、自分の全身を覆ってしまったのだ。
あえて煙幕を被ることに、なんの意味があるのか。こうも近付いてしまえば目眩しなど意味がない。
急に冷静に戻ったビーツの斜め前、オペレーターであり愛人のひとりが真剣に叫ぶ。
「ミサイル来ます! 1時、2時………え? も、もっと増えます!」
「迎撃! なんだこの異様な物量差………マイクロミサイル? そうか、十三号機! ヘッジホッグジャケットか!」
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たった今、帰宅しました。とても忙しかったです。
先日のお昼に申し上げましたとおり、先日19時に更新できませんでしたので、この時間に更新します。次回はいつもどおり12時、19時となります!
今回は皆さまの応援、特にたくさん評価をいただきましたので、ヘトヘトになってもなお執筆できました。応援の力は偉大です。皆様、何卒私に力を! たくさんの応援をいただければ、きっともっと書けることでしょう! よろしくお願いします!
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