アリスランドB06
『ま、待って………待ってくださいビーツさん! 誤解です! あなたはなにか、誤解していらっしゃる!』
『おやおや。回線に誰かが紛れ込んできましたね。いったい、どこのどなたでしょう?』
『お忘れですか!? 高田です! 高田順平です! 3年前、私たちはあなたと交流があったではありませんか! アリスランドの製造に助力する代わりに、あなたは率先して地下暮らしだった我々を、こうして東京の大地に出してくださった! その恩を、私たちは一瞬たりとも忘れたことはございません! どうか、どうかお話をさせていただきたい!』
きっと、避難所に駆け込んで通信機を慌てて起動したのだろう。
というか、高田のおっさんめ。やっぱり世界共通語喋れるんじゃないか。クランドの前では演技してたってことか。
通信には焦燥した高田の声や、女子供の泣き声も聞こえる。女子供を優先的にシェルターに入れたらしい。日本人らしい行動だ。
高田は確かにビーツと交流があったと言った。その高田の説得ならビーツは受け入れる───とは思えなかった。希薄な望みは捨てる。ビーツは、楠木美壱は情念を大切にする男ではない。
『はて、高田順平………聞き覚えのない名前ですな』
『馬鹿な! お忘れですか!? あなたとともに過ごした1年を! あなたのお陰で、こうして日本人はかつての繁栄を取り戻しつつあったというのに、そこにアリスランドの砲火を浴びせるなど………あんまりだ!』
『存じませんね』
やはり、あっさりと高田たちを切り捨てた。
というか、さっきの通信でビーツは「元日本支部のひとと一般人たち」とか言わなかったか? 見捨てるにしても、知らぬ存ぜぬは通用しないはずなのに。高田たちは焦るあまり、それが指摘できるはずなのに、思い出せる余裕すら失っている。
『なっ………あなたは日本人を救済するための共同作業と、相互利益を優先すると仰ったではありませんか! ゆえにこうして日本人は、復旧させたバリアの下で過ごせて………』
『日本人は確かに存在していたようですな。しかし3年前の毒ガス事件で全員死亡している。あれには私も心を痛めた………おや? では、私の下にいるであろうあなたたちは、いったい何者なのでしょうな?』
『なっ………なぁっ!?』
ビーツらしいやり方だ。
どうせ、そんなところだろうとは思っていた。
高田たちは自分たちが世界から孤立しても、平和を勝ち取るべく、自分たちの存在を世界から抹消した。有毒ガスの湧出によって死亡したと偽装することで。
しかし、それはすべてビーツの策略だったのだ。世界に存在しない人間なら、踏み潰してしまっても問題はない。透明人間を焼き殺すようなものだ。それはビーツのキャリアには、特に損失にはならない。
恐ろしいのは、ビーツがいつからこの計画を遂行していたのかだ。
こうなることを予想していた。いったいいつから? まさか高田たちと接触した───3年前から?
もういない者として扱われた高田たちはショックのあまり愕然として、もうなにも言えなくなる。ビーツは裏切ってなどいない。最初から使い捨ての手駒同然に扱っていたのだ。それを知った高田たちの絶望は、気の毒になるくらいの衝撃だっただろう。
《ビーツ………楠木ィッ!!》
《よう、虫ケラ。どうだ? 気に入ってもらえたか? グラディオスを捕らえるために作った日本人の檻は。まさかレイライトブラスターを止められるとは思いもしなかったが、これでしばらくそちらのタキオンは使い物にならないだろう。そこで指を咥えて見ていろ。原作とは異なり、あしらわれたアリスランドが、グラディオスを上回る瞬間という奴をな》
《させると………思ってんのかこの野郎………舐めんなっ》
脳内チップを共鳴させるような電子音声の通信。
やはりこの場所は、ビーツがグラディオスをこの場に固定するためだけに作った檻だった。最悪だ。俺たちが交流した日本人を見捨てられず、防衛するために出撃した際には余計な足枷となると知っての、外道極まりない暴挙。
それでもタキオンは立ち上がる。今まで日本人とグラディオスクルーが交流した場所を蹴散らしながら、パピヨンジャケットをパージして身軽になると、アリスランドを睨む。
『アリスランドよりガリウスが発進! 熱紋照合………該当する機体有り! タキオンです!』
ブリッジのオペレーターが告げる。
やはり出て来たな。
原作ではアリスランドの艦載機はガリウスFだった。そして主力機にオリジナルガリウスにして最強の部類にランクインする1機、タキオンを所有する。
ただ導入するのはまだ先で、ガリウスFを差し向けたから第15話ではあしらわれた。
ビーツもまた、始まりから終わりまで熟知する転生者。「天破のグラディオス」の生粋のファン。原作の二の舞とならぬよう、初手から大気圏外から突入して奇襲するというイカれた襲撃を成功させ、次撃に用意したのはいきなりのタキオンの導入。
漆黒のタキオンがアリスランドから射出される。俺は灰色のタキオンを浮上させ、漆黒のタキオンの迎撃へと向かった。
「これは………違う! あいつじゃない! クソッ!」
両機は同時にヒートナイフを展開。空中で交差するように切り結ぶ。
ただ、俺の脳内チップの分析によると、敵機の操縦はあの忌々しいビーツではなかったと判明。
機微が違う。無駄のない操縦。躊躇いも、自分に降り掛かる負担も無視した、色々と度外視されたエースパイロットとしての誇り。
結果、両機のヒートナイフは一撃で砕かれたのだった。
『へぇ………やるようになったんだ? この前までドローンカメラとかいうおもちゃの操縦しかできなかったのに。まさかタキオンを使うとはね』
「お前………アークか!」
『僕の名前を容易く呼ばないでほしいな。苛々する………本当に、なんなんだよ。あんたは!』
ヒートナイフを換装した漆黒のタキオンが反転。やはりビーツの操縦よりも速い。洗練された無駄のない動き。相対するだけで肝が冷える。
「おいアーク。ビーツを出せよ。そのタキオンにビーツを乗せろ。お前はお呼びじゃないんだよ」
『馬鹿なの? なんでそんなことをあんたに命令されなきゃいけないんだよ。艦長はブリッジにいるよ。会いたければ行けばいい。まぁ、通すつもりはないんだけど。それより質問に答えてよ。あんたはいったいなんなんだ? 僕をここまで苛立たせて、なにがしたいの?』
「今はお前に構ってられないんだ。あとでいくらでも遊んでやる。お前も絶対に救ってやるから、そこを退けっ!」
俺のタキオンもヒートナイフを換装する。消耗する刃とはいえ、あと3枚しかないのだ。温存すべく使い方に配慮する。
『救う? 僕を? それ………なんの冗談?』
「冗談なんかじゃねぇよ。きっとお前も笑顔にしてやる! 不幸なんかにゃさせねぇ!」
『ハァ………艦長の言ったとおりだ。あんたは適当なことを言って、みんなを絆す。そうやってソータも洗脳したんだ!』
怒りが操縦に乗るアーク。乱雑になるかと思えば、冴えに磨きがかかる。こう見えてメンタルは強い方ではないが、怒りで技量が増す、危うくもソータと同じ才覚の持ち主というわけだ。
「くっ………!」
俺はこれまで、タキオンの優れた性能に助けられた。
けれどもタキオン同士では、その飛躍的に伸びたアドバンテージも相殺されてしまう。
凡庸な俺では、優れた才能の持ち主にはどうしても届かない。灰色のタキオンが次第に圧倒され始めた。
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