アリスランドB05
陸海空、すべてに目を配置した。
いついかなる場所からアリスランドが出現しても対応できる布陣だった。
しかしビーツは俺の予想の斜め上をいく。
まさか大気圏外、宇宙に潜伏していたなんて。
ビーツはこれまで、遙かなる高みから俺を見下ろしてほくそ笑んでいたのだ。
「クソがァッ!!」
吼えながら部屋を飛び出した。ライラはハナに託す。
やられた。初手から俺は間違えた。この初動の遅れは痛手である。
間に合うのか? 自室から全力疾走して数分で更衣室へ。パイロットスーツに乱暴に着替えてハンガーに飛び込む。
通信ではクランドとオペレーターが叫び合っていた。全員、グラディオスへ走っている。
《ハルモニ! アリスランドの到着予想時刻は!》
《おおよそ1分です》
ギリギリ? いや、遅い。ほんの数秒。
「イリスッ!」
「わかってる! タキオンは出せるよ!」
「カタパルトはいい! 隔壁開けろ!」
「っ………わ、わかった!」
カイドウが不在としている現状、カイドウの弟子たちが現場を回している。本来、末端のイリスになんの指揮権はないのだが、俺と大声で会話をすることでこの場限りで指揮権を優先して与えた。
「隔壁を開いてください! 1番で大丈夫です! タキオンのクレーンを解除! 総員、なにかに掴まっていてください!」
イリスが注意喚起を促すと、タキオンを固定しているクレーンが外れて、その場に着地する。
もうその頃には俺はタキオンに搭乗していて、スロットにインターフェースをぶち込んでシステムを起動。操縦権を手にしていたので、両足で着地すると同時に大股で跳躍した。普段なら絶対にできない無茶だ。
整備士たちもスクランブル発進を理解している。なにかに掴まるため、あるいはタキオンの進路を開けるため、ナンバーズの各ブースに飛び込んだりして、タキオンの足の踏み場を確保した。たった3歩で隔壁の向こうに飛び出る。跳躍の途中でスラスターを使ったため、ハンガーで数秒間だけ台風が通過したような悲惨な状態となる。
カタパルト1番の空間に躍り出るタキオン。いつもならカタパルトに足を設置して推進力を得るところ、空中で全推進力を爆発させたため、数秒ほどの短縮となる。
そうして誰よりも早く空中に飛び出すタキオン。地上は騒然としていた。
なぜなら、上空にはすでにアリスランドがいて、そのアリスランドは機首をこのバリアに向け、かつレイライトリアクターから供給するエネルギーをそこに集中させていたからだ。
先手を取られた。後手に回ったとしても、これは───巻き返しができないくらいの、完璧な布陣。
カッ───とアリスランドの機首が光る。
その瞬間、タキオンは大勢の日本人たちの頭上に移動し、出力を最大まで上げたビームを展開していた。
グラディオスにあるなら、アリスランドにもあって当然だ。
レイライトブラスター。特殊強襲特装艦に備わっている主砲。その一撃はEタイプだろうがうまく直撃すれば一撃でコアを破壊できる。そして地表に着弾すれば、そこら一体が焼け野原になるだけでなく地面が抉れ、汚染が広がる。
人間なんて一瞬で焼け死ぬ。
それを俺は想定していないわけではなかった。
この時のための装備なら、すでにジャケットとして背負っている。
「ビィィィイイイイイイツゥゥウウウウウウウウウッ!!」
咆哮を上げ、迫るレイライトブラスターの照射をタキオン単身で受け止めた。
都心を覆っていたバリアすら貫通するレーザー砲。ブラスタージャケット3つの斉射を浴びるくらいの衝撃。
《驚いたな。パピヨンジャケットは、まさかこれを防ぐのか………》
激しい衝撃のなかで、忌々しい男の声を聞いた。
そう。タキオンが装備しているのはパピヨンジャケットだった。ユリンの二号機から拝借したのだ。
第11話で、タキオンは後方から迫るEタイプの強襲を振り切るべく、パピヨンジャケットを装備して、グラディオスの射線軸に躍り出ると、レイライトブラスターを浴びつつもレーザーを屈折させ、後方のEタイプへ直撃させたのだ。
それを応用するため、今朝からカイドウに頼んでタキオンの換装をしてもらっていたのが功を奏す。
レイライトブラスターの照射が終了すると、タキオンは限界に達して、地面に落下した。その頃には日本人たちの退避も完了している。
咄嗟の防御ゆえ、まともな計算もできなかった。ダメージをうまく逃すための角度に、畳んだ羽根を置けなかったのだ。
その影響で、パピヨンジャケットに負荷をかけ過ぎた。もうまともに使える状態ではない。
アリスランドのレイライトブラスターの影響で、都心上空にあった偽装ドーム兼バリアが消失し、ここら一帯が丸裸となる。
『おお、これは思わぬ収穫だ。………ご機嫌用。グラディオスの諸君。そして元日本支部のクルー諸君。ついでに一般人も。こちらは、そのグラディオスの兄弟艦であるアリスランドである。現在、本艦は特務を執行中である。双方、無駄な動きをしないことだ』
『ビーツ艦長代理っ! 突然主砲を浴びせてくるとは、どういう了見だ! これは明確な友軍への敵対行為である。貴官は、連合軍の法を忘れたかっ!?』
時間は稼げたのだろう。外にいたグラディオスクルーは、全員グラディオスに戻れたらしい。クランドはオープンチャンネルで語るビーツに怒鳴って叱責する。
『これはこれは、ご機嫌用クランド艦長。法ですか。それならなにも問題ありません。先程申し上げたとおり、本艦は特務によって動いておりますゆえ』
「特務だと? なにを平然と言うか! 友軍への発砲は、正当な理由がない場合は禁じられている!』
フレンドリーファイアをすれば、軍法で裁かれる。
けれどビーツは平然と俺たちごと日本人を撃った。なんの躊躇いもなく。数年かけて手と手を携えて、日本人たちの生活の基盤を整えて、こうして地上に出て生活できるようにした立役者とは思えない言動だった。
『正当な理由ならありますよ。我が艦は日本の調査を特務として命じられ、東京を中心に謎の現象の発生を確認。調査のために降下する途中で………いやはや、不幸にもアンノウンと交戦しましてね。急を要しましたので、不本意ながらレイライトブラスターを使用。偶然にも、レイライトブラスターの射線軸と、この場所が重なってしまったのですなぁ。………いやはや、驚きましたよ。まさかこんなところに日本人がいるなんて。偽装ドームとバリアですか。びっくりですなぁ。そして、それらが解除されてみれば、グラディオスがいた。………さて、クランド艦長? なにか申し開きはございますかな? 返答次第では逆に、あなた方の正当性を疑わなければならない。あなた方は、正体不明な日本人とともにいた。偽装ドームとバリアの内部にいた。大勢を降ろしていたようにも見えましたなぁ? あなた方は今現在、連合軍の法に問われているのですよぉ? なにせ、こんな大掛かりな偽装ドームの内側にいたのですからね。連合軍も存在は知らなかったはずだ。これは、なにか連合軍に不利益な動き………例えばクーデターを引き起こそうと画策する会議をしていたと見られても、仕方ありませんなぁ?』
『き、貴様ぁ………!』
言ってくれやがる。
なるほど、そういうことか。
やはり俺たちは、ビーツの手のなかで踊らされていたということだ。
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第15話もビーツとの再会で苛烈なものになってきました。次回の更新は15時を予定しております!
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