アリスランドB04
なんたって、純粋無垢にして無防備だ。
「ねぇねぇ、えーす! もっと触ってぇ!」
「あー、こら。そんないけない言葉、どこで覚えた? あのイカれポンチハムスターか。いいかライラ。女の子が、そんな格好して、男を挑発するようなことを言ってはいけないんだ」
「なんでぇ?」
「男と女ってのは、そういうふうにできてるからだよ。ほら、暑いんだろうけどファスナー上げて」
「えー」
本当に人間の子供みたいだ。
ソータの理性をゴリッゴリと削った原因が、無防備なライラが「暑いから」という理由で肌を見せてしまったことにある。
今だってそう。レーザーポインターを追う猫みたいな激しい運動のせいで、汗をかくほど体温が上がってしまい、ライラは首元のファスナーを下げてしまい、胸元を見せてしまっている。それはいけない。狼みたいな野郎を勘違いさせてしまう。
それにしてもシーナが嫉妬するくらいの大きさだ。ユリン以上、シェリーと同等?
俺の膝に手をついて顔を覗き込むライラの胸元が開いてしまっているせいで、双丘が見えてしまっている………っていうか見え過ぎだ。なんでこいつ下着を着用してないの? シーナの教えはどうした教えは!
「ライラ………下着は?」
「した、ぎ?」
「あー、ほら。男の口から言うのもなんだけど………ブラのこと」
「ぶらじゃー? かゆい! やだ!」
「ああ、そう………ならなおのことファスナーは上げるべきなの。ほら」
「あついー! やだー!」
「我慢してくれ。ああ、わかったわかった。空調つけるから」
俺はほどよい室温だったのだが、ライラに不要な知識をインプットするわけにもいかず、冷房をつけて室温を下げる。
ライラの性についての知識は、あとでヒナとレイシアに教育を頼もう。このままじゃクルーの誰かが勘違いして襲いかねない。シーナじゃもうダメだ。
「すずしー」
「よし。ならファスナーあげて」
「はーい!」
「うん。いい子いい子」
まさかグラディオスで子育てすることになろうとは。いや、この世界に転生して、きっとライラに出会うことになるとはわかっていたし、何度か会話する機会があるだろうとは思ってはいたが、まさかこんながっつりとコミュニケーションをするとは予想もしていなかっただけだ。
「おっと………そうだ、ライラに頼もうかと思ってたんだ」
「たのもー?」
「お願いするって意味」
「なぁに?」
「このメモリーを、シーナに渡してほしいんだ」
「うん! いいよー!」
ハナから没収したメモリーを、小さな紙袋に入れて、その上から日本語で「ハナのメモリー。超危険につき取り扱い注意www」と書いてやった。この3つ並んだWの意味はシーナならわかるだろう。で、あとで「こんな超弩級危険物を私に押し付けんじゃねぇクズ副隊長が!」と怒鳴られるのは目に見えていた。
だがシーナしかいない。俺はこのとおり同居人がいる。シーナもライラが同室だが、いつも同衾しているとはいえ、ライラがこのメモリーについて内容を聞くことがあっても、軽く誤魔化せば興味を失うだろう。
「えーす、これ、なんて書いたのー?」
「シーナへのメッセージだよ。ライラに変なこと教えるのはやめなってさ」
「へー。………へんなこと?」
「暑くても、男の前で胸を見せちゃいけません。ってこととか」
「おぱい? もむ?」
「あー………そういえば、それもあのイカれポンチハムスターの入れ知恵だったかぁ………」
思い出せばイライラすることばかりだ。シーナは後先考えず、我欲に走る傾向にある。無防備かつ純粋無垢なキャラクターに、誤った知識をインプットするなど。
学習能力と記憶力に優れたライラは、過去の暴挙を思い出し、それはいけないことだとわからないから、繰り返してしまう。
「いいかライラ。そういうことは言っちゃいけない。なぜなら───」
ヒナとレイシアには劣るだろうが、俺の教育が始まった。
「副隊長。私だ。ハナ・ケビンレイだ。入ってもいいだろうか?」
「………どうぞー」
「失礼する………な、なんだ? なにがあった?」
「………ちょっと、疲れた………」
端末の調査と調整が終了した旨を隠して、ブリッジにハナの呼び出しをしてもらって数分。休憩を終えたばかりのハナが、俺の自室を訪れるなり、俺を見て驚いた。
「な、なにがあった?」
「子育てって、マジで疲れる………全国の母親ってすげぇな。こんな根気が要るだなんて知らなかったんだ………」
「お、おう」
ハナは賢い女だ。げっそりする俺と、ベッドの上で「ふんふん」と頷いているライラを見て、なにかを察したのだろう。
すると、ハナを見つけたライラは嬉しそうに駆け寄り───
「はな! しってる? おとこにおっぱいって、いっちゃいけないんだよ!」
「………ノギ少尉。あなたはこの子になにを吹き込んだ?」
「誤解だ! むしろ吹き込んだというか、教えなかったイカれポンチハムスターのせいで俺が被害に遭って、ライラが今後野郎に襲われないための基礎知識を教えてたんだよぉ!」
ライラは純粋無垢だからな。教わったばかりの知識を、誰かに自慢げに教えたくなるのは当然といえは当然なのだけど。
途端にハナがゴミを見る目を向けてきた。性格こそ違えどヒナそっくりの容姿をしているため、ゾクッとしてしまう。なぜだろう。俺の新たな性癖が歪んで現れたとでもいうのか?
けれどそれに従って、もっと欲しがってしまっては新たな誤解と悲劇と、俺の体に直接被害が及ぶ。特に勘違いしたヒナたちが夜のダイレクトアタックで物理的に殺される。
俺は必死に弁解した。すべてはちょっとした行き違いと、ライラの性格による誤解であるのだと。
要した時間は20分。ライラはなぜハナが俺を蔑んでいるのか理解できず、俺たちにじゃれついたので、またレーザーポインターを床に照射して遊ばせる。
「………と、まぁざっくりとだけど理由を述べるなら、こんなところ」
「ハァ………言いたいことは理解した。私も先走った見解と認識を持ってしまったことは認める。ただな、あなたはただでさえも周囲からあまりよろしくないイメージを持たれているのだから、そこは考えて行動せねばな」
「そりゃあわかるけど………って、違うだろ!? 俺、精一杯ライラに教えたよな 俺、悪いことなんかしてないよな!?」
「もちろんあなたの言い分も加味しているさ。その上での忠告でもある。今回は場所も悪かった。教育対象であったとしても、彼女は肉体年齢でいえば私たちとほぼ変わらないんだ。密室に男女がふたりきり。しかも一方は肉欲獣ときた。………あとは想像できるだろう?」
くそぅ! そうなると言い訳できねぇ!
「今回は私だったから言いくるめられたんだ。誤解されたくないならメディカルルームを使えばいいだろう。カウンセラーのレイシアさんは頼れる存在だろうし」
「お前の端末を調べるのもあったから、ここしかなかったんだよ。………ほら。返す。やっぱり気になる情報は無かった。それから、フィルターをかけて、外部からの連絡は俺にも共有されるよう設定しておいた。理解してくれよ?」
「ああ。構わない。ところでノギ少尉。特務で日本の調査はしたはいいが、見たところあまり進捗はよくなさそうだな。いつまで滞在するつもりなんだ?」
「ん………クランド艦長が決め───ッッッ!!」
「どうした!?」
「えーす?」
会話の途中で俺が突然立ち上がったため、ハナとライラは俺を見上げる。
こういうのは何度かあった。ハナはすぐに察してくれた。ライラを呼び寄せる。
そして、その直後のことだった。
オペレーターからの通信で、ビーツが動き出したことが報じられる。
ただ、これは俺でさえも予想していなかったことだった。
『全クルーに通達! 大気圏を突破する熱源あり! 進路目標は………ここです! 東京の真上に………艦あり! アリスランドです!!』
ビーツはやはり油断できない相手だった。
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