アリスランドB03
「こら、ライラ。今は勉強の時間だろ?」
「べんきょ、あきた!」
「そんな胸張ってはっきりと主張できることでもないんだけどなぁ」
ライラは難民として保護しているが、中国支部で非人道的な実験の被験者というでっち上げの設定を敢行した影響で、外見に反して幼い内面を気にかけたクランドが、グラディオスを降りてからも社会復帰できるよう、俺たちに世話をするよう命じた。
面倒ごとを押し付けられたようにも思えるが、毎日戦わなければならないパイロットたちの荒んだメンタルを回復させる絶好の手段となる。ライラはすぐに俺たちのマスコット的なポジションとなった。
一応、難民専用の部屋を与えられてはいるが、今は世話役のシーナと同居している状態だ。4人部屋をふたりで使えて、広々として最高とシーナは主張してはいるものの、毎晩就寝時にはライラがシーナのベッドに潜り込んで添い寝しているという。
原作ではライラはソータにベッタリだった。ソータが寝ていると、どこから現れたのか、ライラがたまに添い寝しているのだ。アイリは最初こそ面白く思っていなかったが、世話をしているうちに好感度が増し、今度はアイリのベッドにライラが添い寝しに来るようになって、ライバルというよりも、妹のように思えてきたとか。
さて、そんなライラだが、この第15話では目立った出番はない。アンノウンだって出現しない。彼女の反応からして、近くに、いや日本にはイレギュラーがいないらしい。そこは安心できる。
「部屋に戻るんだ。自習してなって、シーナから言われたんだろ?」
「あーきーたー! えーす! あそんで! あそぼ!」
「俺はお仕事。遊べませーん」
「いーやーだー!」
グイグイと俺の服の袖を引っ張るライラ。
保護した初日は「あ」とか「う」とかしか喋れなかったのに、たった数日で4歳児くらいの言葉を使い、そして自信の感情を覚えた言葉で表現するようになった。
この成長ぶりに、グラディオスクルーは全員驚いて感心したものだ。
「………仕方ないなぁ。ほら、俺の部屋においで」
「あそぶ?」
「なにか考えるよ。でも、俺のお仕事の邪魔はしないこと。いいな?」
「うん!」
満面の笑みを浮かべるライラ。彼女の頭を撫でると、とても嬉しそうにする。この前までは頭を撫でられることについて、なんの意味があるのかもわからなかったのに。
それからライラは俺の左腕に抱きつき、待ちきれんとばかりに部屋まで移動する。
対面側から来るグラディオスのクルーたちの反応は様々だ。「歳の離れた兄に構ってほしい妹の図」と思ったクルーは微笑ましげに見て、「また女を増やそうとしているクズ副隊長」としか思っていない連中は舌打ちをくれる。感情に素直な奴らだ。
俺の部屋に到着すると、まるでそれがマナーであると勘違いしたのか、またはシーナの入れ知恵か、俺が普段から使っているベッドにダイブした。
「ふかふかー」
「寝ててもいいぞー」
「ねないよ! えーす。あそぼ!」
「だから、遊べないんだってば。代わりに、ほら。ハルモニが相手してくれるよ。………ハルモニ。照明を少しだけ暗くして、レーザーポインター発射。床に投射。数秒ごとにランダム配置。………よし、ライラ。この床の赤いところに触れてみな?」
「うん! わ、うごいた! これ、またうごいた!」
ライラは床に手と膝を突いて移動する。天井あるいは壁から、レーザーを投射することでランダムで場所を変えてライラの気を引く。前世の猫動画で、そんなものを見た気がする。それを参考にしてみたが、案外うまくいく。
「やあ! とぅ!」
「夢中になるのはいいけど、暴れないでくれよ?」
「あーい!」
ライラは支給されているオレンジ色のジャージ姿で、床を這うようにしてレーザーポインターを追い回す。夢中になり過ぎてベッドに尻を打ち付けた際はギョッとしたが、痛がる素振りはしなかったので安心する。
「さて………こっちはこっちで、作業しますかね。ハルモニ」
『イェス。メカニック・エース』
「ハナの許可は得ているから、端末のなかにある情報を解読してくれ。オルコットについてわかることがあればピックアップ。ウィルスが仕掛けられているなら除去。消去されているデータがあれば復旧。まぁ、やることはいつもとそう変わらないだろ。何時間でできる?」
『───1時間で完了します』
「わかった。やってくれ」
デスクの上に設置したパソコンを起動する。
据え置き型でもノート型でもない。ただの長方形の箱がパソコンだ。俺の腕の端末とリンクして、モニターとキーボードが立体投影される優れものである。本体は頑丈で、落としても故障しない。パソコン同士を積み重ねても壊れないという優れもの。
他の端末と接続するには、かなり原始的ではあるがケーブルで接続する必要がある。長方形の箱の隅にカバーがあるので、指でスライドすると端子が現れ、引っ張り出して預かった端末と接続した。あとはハルモニに任せる。
「………うーん。やっぱここじゃあ、置く場所がない、かぁ」
その間に、預かったメモリーの隠し場所を考えることにした。遠隔自爆プログラムをどうにかして隠さなければならない。廃棄も考えた。日本の土のなかに埋める、あるいは火を起こしてもらって、そのなかに放り投げる。水没させるなど。
けれども、なぜなのかは知らないが、俺はこの遠隔自爆プログラムに興味が湧いた。
味方を自爆させる趣味はないが、もしうまく改造できるとすれば、有効活用できるかもしれない。
ただ、それをやるにはリスクが高過ぎる。様々な機器に迂闊に接続すれば、それが自爆させられかねない。
接続すれば強制インストール、かつプログラムが内部に隠れて潜伏するように作られていたとしたら。
安易に俺の部屋で解読などできるはずがなかった。カイドウレベルのメカニックの腕を借りなければならない。
「隠し場所。隠し場所………うーん。ヒナたち、すぐ発見しそうだしなぁ」
もはやヒナたちそのものが嘘発見器のように思えてならない。俺が自分のことでなにかを隠したり誤魔化そうとすると、瞬時に見抜いてしまうのだ。
なかなか難しい問題だ。デスクから離れて、コーヒーを淹れながら熟考。コーヒーを淹れると、一口飲んでデスクに戻る。
「俺の部屋以外に隠すか? あの弟子どもには任せられない。すぐ開こうとするはずだ。信頼できて、厳重に封印してくれそうな奴………あ」
その時だ。俺の視界に、尻をフリフリしながら満悦してレーザーポインターを追うライラがいた。
「ライラ。ちょっと、いいか?」
「おー? なぁに? えーす!」
「おっ………」
四つん這いのまま、ズダダダと移動するライラ。想像以上に激しい運動だったのだろう。しっとりと汗をかいていた。
そして椅子に座る俺の膝に手を乗せる。まるで大型犬を見ているようだ。しかし彼女は人間を模したアンノウンということを忘れてはならない。アンノウンが人間を学習するために送られたスパイだ。
グラディオスにどんだけスパイが乗ってるのだか。と内心で呆れながら、ズイとキスする勢いで嬉しそうに顔を寄せるライラの額を小突く。
「こらこら。近いよ。女の子が、男にそう容易く近づいちゃいけません」
「えー? なんでぇ? えーす、もっとナデナデしてほしいー!」
純粋無垢な顔をして、凶暴な行動に出るんだからなぁ。これをソータもやられたことがあるけど、なんとか理性的なって耐えた。大したもんだ。俺はヒナたちのお陰で耐性がついたけれど。
もしこれを、あの弟子どもが見たら、絶対に勘違いするだろうなぁ。
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