アリスランドB02
ここまで情報が揃うと、ハナもついに余裕を失って狼狽する。
ハナはオルコットに恩があるわけではない。原作でもそんな描写があった。オルコットに送られたというだけで、信奉もしていなかった。
グラディオスでヒナを見殺しにしたすべてに復讐したいという、たったひとつの、それこそ生きる目的然とした執念があった。それをオルコットに利用された。ハナは復讐を。オルコットは情報を。裏取引ビジネスだけの繋がりでしかなかった。
ゆえに、希薄な繋がりであるからこそ───弱く、脆い。
次第に、ハナは四肢をガクガクと震わせる。信頼も信用もない仕事だったのだろう。
それこそ、オルコットが「ヒナに会わせてやるから、その代わりに情報を寄越せ」とでも言ったに違いない。オルコットはビーツと繋がりがある。ビーツからそういう相関図を教わって、ハナを利用しようとしたのだ。
「わ、私は………そんな………殺されるところだった、のか………」
「いずれにせよ、お前はこのままじゃグラディオスからも、連合軍からも居場所がなくなる。遠隔自爆プログラムがインストールされれば、なおのことだ」
「………なぜ、それを私に伝えた? あなたにとって………私は、敵だろう?」
なんだか、初めてハナの表情らしい表情を見れた気がした。それは恐怖と疑念に塗れたものだった。
最初から違和感があったのだ。ハナはヒナを溺愛していた。ガチ百合勢を敵に回したと戦々恐々していたが、それさえもフェイクと考えると、なぜか合点がいくのだ。
「お前を助けたかった」
「………はっ。肉欲獣め。ヒナたちでは飽き足らなかったか。そうやって数多の女を手篭めにしたか? だが、いいだろう。それが条件であるなら、この体………好きにするといい」
「おい。勘違いすんじゃねぇ。変な冗談もやめろ。別にお前の体に興味があるわけじゃねぇから!」
「………そう、ストレートに拒否されるとな。これでも女なんだ。傷付くぞ。そりゃあ、比較対象がヒナでは仕方ない部分があるのは認める。ヒナの豊満な胸と比較すれば、つまらない胸をしているのも事実だが………これでもCカップには届いたんだぞ?」
「そういういらん情報を、野郎に無償提供するんじゃねぇよ! いや、中傷に聞こえたなら謝るよ? けどこれ以上パートナーが増えたら俺が死ぬって! ………俺がお前を求めてるんじゃないよ。お前が死んだらヒナが悲しむ。パートナーが泣くところなんて見たくないだけさ」
「………そうかい。そういうことか。下心はないときたか」
なぜだかな。しょんぼりとするハナ。
あまりの落胆ぶりに、見ているこちらが心配になってくるほどだ。
「えっと、大丈夫か?」
「ん、大丈夫さ。ただ、さっきちょっとね。助けたかったって言われた時、初めて心臓が大きく跳ねて………ああ、これが恋なのかと錯覚しただけさ」
「………マジか」
「これでも分別はきちんとしている方さ。あなたが無類の女好きだろうと、上限を決めているなら、私はその花園に入れないのだろう。ヒナが大切にしているものを奪うつもりもない。ならば、先程の感情は、ただの勘違いだったと自己暗示しておくさ」
儚げな表情をしやがる。そういう顔に、ちょっとだけ弱いのだ。
つい助けてたくて、手を差し伸べてしまいそうになる俺の心理でも知っててやっているのではないかと疑ってしまう。
「さて………私は今後、どうすればいいのかな? 私の命は、あなたに握られているようなものだろう?」
「ま、そこは選ばせてやるさ。このままパペットみたく使い捨てのスパイを続けるか、それとも俺たちの側につくか。そのふたつしかないな」
「意地の悪いひと。ひとつしかないじゃないか」
「だな。意地が悪いのは自覚してるよ。でもな、現状を言葉で言い表すのだとすれば、やっぱりこの二択なんだよな。デッドオアアライブ。けどその方がはっきりしてるだろ?」
「ああ、そのとおりだ。私は………グラディオスの側につくよ。オルコットとは直接面識があるわけではないし、命を使い捨てる馬鹿どもに尻尾を振る趣味も、忠誠もない。なによりヒナのために。あの子のために戦えるならば本望だ」
おっと。ガチ百合勢は根っからだったか。これは選択をミスしたら、俺諸共死ぬとかいう頭のおかしな選択をさせるところだったかもしれない。危ない危ない。
「じゃあ、今後とも通信は制限させてもらうぞ」
「もちろん。なんなら、この端末を数時間預けてもいい。有益な情報が出るかは不明だが、それであなたたちからの信用が、少しでも戻るのであれば尽力は惜しまない。あと、これも私には不要だな。好きに使ってくれ」
ハナから端末とメモリーを受け取る。これが彼女なりの忠誠の姿勢なのだろう。律儀なことだ。
「わかった。端末は数時間預かっておく。それと、こういう状況だからな。プライベートな部分も見てしまうのは了解してほしい」
「軍から貸与されるそれを、猥雑な目的で使う馬鹿はいないだろう? ………まさか、あなたがそうなのか!? な、なぁ。頼みがあるんだ。もしあなたさえ良ければ、ヒナの………う、うん………ちょっとだけセクシーな写真を撮ったのなら、提供してもらえると………うへへ」
こいつもか。こいつもそうなのか!?
揃いも揃って、馬鹿しかいないのかよ俺の周囲は!
猥雑な目的で使用しないとか言ってたくせに、早速それ目的で使おうとするし。
「ないよ、そんなもの。ったく………」
「………あなたからの寵愛の一端を受ければ、私もヒナの神々しく瑞々しい肌を見られるということか!?」
「させねぇよそんなの! てか、ふっざけんな! 身がもたねぇんだよこっちは!」
おかしいなぁ。なんで、こうっ………ハナってもっと賢い女だったんじゃないのか?
それがなんでヒナが絡み出した途端に、馬鹿っぽくなるの!?
ハナがこうもポンコツになるだなんて思わなかった。可愛いけど。
「ハァ、ハァ………と、とにかく。飯食って来い。端末は調べるのと、俺の方でもちょっとした保険をかけておく。それはお前の身を守るためのものだから心配すんな。なんなら、あとで説明する。メモリーの方は俺が預かる。こんな危険物、放置しておくわけにはいかないからな。………信用するぞ。ハナ」
「………承知した。すべてはあの子のために。私もできることをすると約束させてほしい」
「ああ。それでいいんだ。じゃあな」
食堂に向かうハナから端末とメモリーを預かって、俺は自室へと向かう。
すでに俺の部屋は、ヒナとシェリーとユリンに半ば占領されつつあって、彼女たちの私物が置かれるようになった。洗面所なんて、誰が誰のものなのかわからないくらいのチューブやらがセットしてある。とてもではないが、男が住む場所ではない。
かといって、乱雑ではなかった。ヒナたちが俺が不在の時に分担してよく掃除をしてくれているからだ。シャワールームなんて、常にいい香りがする。カビの匂いが一切しないことに驚いた。
そんな4人が共同生活をするには少し狭く思えるようなスペースだけど、俺たちは体と体が触れ合ってもなんとも思わない───違うな。それがファイト一発のゴングとなる。
広くはないが狭くもない。そんな部屋に、この超危険物をどう封印したものか。
「うーん。困ったぞ」
「なにがぁ?」
「いや、色々と………ライラ?」
「えーす、みーつけた!」
ピョンと飛び跳ねるライラが、いつの間にか俺の横に立っていた。
今日は異性によく絡まれる日だなと思いながら、ライラを受け止めた。
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